おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏⑧

~forget me not~






8.【姉妹艦】


~第二会議室内~
 


谷崎から演習の日程及び参加するメンバーを聞いた翌日、
時任は艦隊のメンバー全員を集合させ、内容の説明を行っていた。
 


「という訳で、二日後に谷崎提督率いる艦隊と演習を行うことになった。
まだこちらのメンバーは決めていないけど、選ばれたメンバーは
持てる力を存分に発揮して欲しいと思っている。」


相手方のメンバーを見せたとき、萎縮してしまう艦娘もいるかと思われたが
そんな事は無く、殆どの艦娘がやる気に満ち溢れていた。


『流石谷崎提督の元で鍛えられてきた艦娘達だ。
少々の事では動揺はないみたいだな。後は、俺次第……って事か。』
 


「時雨、この後の皆の予定はどうなっているかな?」
これからの予定を確認しようと時雨に尋ねるが、当の本人は心ここにあらず
といった感じであった。


「時雨?」
「え?あ、あぁ、何かな?」
「この後の皆の予定を教えて欲しいんだけど、いいかい?」


時任の問い掛けに気付くと、慌ててファイルを確認し、予定を読み上げる。


「えっと、鬼怒・朝潮・白露の三名は遠征任務が入っているね。それ以外は
今日は特に任務はないよ。」


「よし、それでは任務がある三名は直ちに任務にあたって欲しい。
他の者は昨日同様の演習を行って欲しい。
編成については最上に任せていいかな?」
「了解だよ。任せて!」


「それで、だ。今日は遠征任務の者達が帰ってきたら、ささやかだけど
一席用意してあるんだ。楽しみにしていてくれ。」


「そ、それは、呑んでもいいと言う事ですか~?」
目を輝かせながら聞いてくるポーラに『勿論!』と返事をした途端、
他の艦娘達からも歓声が上がった。


「では、皆、よろしく頼む!」
『『『『了解』』』』


各自が持ち場に着く為、会議室を後にしようとした時、
時任は時雨のみを呼び止めた。


「あぁそうだ。時雨は残ってもらえるかな?少し話があるんだ。」
「……うん。分かったよ。」


 


何を言われるんだろう。
昨日の事や、今日の事に関してのお説教だろうか?
それとも、僕の事に嫌気がさして秘書艦を外されるのかな?
だとしても仕方ないよね。心と身体がバラバラな状態の今じゃ
まともな任務どころか、大尉の足を引っ張るだけだ。
本当に何をやっているんだろう、僕は。


悪いのは自分だ。とにかく謝らないと。
そう思った矢先、時任が声を上げて笑い出した。


「え?何?何かおかしい事したかな、僕。」


「いやいや。そうじゃないよ。さっきから黙って見てたけど、
時雨が百面相してるみたいで面白かったから、つい、ね。」


そう言われて、次第に全身が熱くなり、顔が火照ってくるのが分かって
時雨は俯いてしまった。


「それで?何を考えていたのかな?時雨は。」
「……昨日の事を謝らなきゃとか、秘書艦を外されるんじゃないかとかだよ。」


その答えを聞いた途端に再び時任が笑い出した為、時雨は抗議の意味を含め、
口を尖らせそっぽを向いてしまった。


「何さ!こっちは本気で悩んでたのに。」
「ごめんごめん。」


平謝りしつつ、立ち話もなんだからと時雨を椅子に座らせ、話を始めた。
 


「まず今日呼び止めたのは、別に君を責める訳でも、秘書艦を外す為でもない事を
始めに言っておくよ。俺が少し話をしたかったんだよ。
お互いをよく理解する為にね。」


「お互いを……理解……」


「そう言う事。まだまだお互い知らない事ばかりだ。
これから艦隊を率いるのに、上二人が明後日の方角を向いていたら、
有事の際に大事になってしまう。
そうならない為のコミュニケーションって所かな?」


そう言ってにこやかに話し掛けてくる時任を見て、時雨は戸惑っていた。


お互いの理解を深める為に、積極的に話しかけてくれる事は嬉しい。
それがお互いだけで無く、皆の為になるのなら尚更だ。
でも、本当にこの人を信用してもいいのだろうか?
以前のように裏切られたりしたら、皆に迷惑を掛けたら、
また辛い思いをする事になってしまったら……


「時雨?どうかしたかい?」


時任が今度は心配そうに様子を伺っている。


「ううん。なんでもないよ。大丈夫。」
時雨はそう言った後、大きく深呼吸をし、意を決した表情で時任に話し始めた。


「大尉、聞いて欲しい事があるんだけど、いいかな?」
「勿論!」


まずはちゃんと話を、自分の事を話して知ってもらおう。
もしかしたら、なんていう考え方はもういらない。
たった数日かもしれないけど、大尉の人となりは見てきたつもりだ。


 


『この人を信用してみよう』


 


「この前話せなかった事、少し長くなるけど聞いて欲しい。」
「大丈夫だよ。聞かせて欲しい。」


ありがとう。
そう言って時雨は、話し始めた。
自身の事を、そして過去に何があったのかを。
 


 


「時雨!何故勝手に艦隊を後退させた!」
「大破寸前の子がいたんだよ?
あのまま進んでいたら轟沈したかもしれないじゃないか!」
「私は大局的に戦況を見ている。そして指示を出しているんだぞ!」


いつも行き当たりばったりじゃないか。


「聞いているのか!」
「分ったよ。」


はっきり言って、神保提督の考え方は僕には合わなかった。
使われてる身分で偉そうなことをと思われるだろうけど、皆を護りたかったから
いつもぶつかってばかりいた。


提督室を出てから、ぶつぶつと愚痴を呟きながら歩いていると、
一人の艦娘から声を掛けられた。


「ま~た命令違反?懲りん子じゃのぉ。」
「浦風…でもやっぱりおかしいよ!」
「まぁ、気持ちは分らのうは無いけどのぉ……あんまり怒ると、皺が増えよるよ?」
「……何か言ったかい?」
「ひゃあぁぁ、ぶたんで~。」


そう言っておどけて見せる浦風を見て、すっかり毒気を抜かれる。
でも、これは浦風なりに気を遣ってくれているのだ。


「全く……でも、ありがとう。少し落ち着いたよ。」
「ん~?ウチはな~んもしとらんよ?
そんな事よりほ~らっ!さっきからあそこの陰に隠れとる
心配性な子の所に行ってあげんさい。」
浦風が指した方角を見てみると、白い帽子と淡い桃色の長い髪が
揺れているのが見えた。


「うん。分った。」
そう言い残して、隠れているつもりが隠れきれていない子に近づき声を掛ける。


「そこで何をしているのかな?春雨。」
「ひゃぁっ!」


隠れていたのがばれていないと思っていたため、思いがけない声がけに
思わず悲鳴を上げる。


彼女の名前は春雨。僕と同じ白露型の五番艦。
艦娘として再会してからは、『姉さん』と慕ってくれている。
全然、姉らしい事はしてあげられてないけど。


「し、時雨姉さん!今日は、本当にごめんなさい。私のせいで司令官さんに……」
「春雨が気にすることじゃないよ。それで、損傷の方は大丈夫なの?」
「はい!バケツを使わせて頂いたので、もう大丈夫です。」


へぇ?珍しいこともあるもんだね。
僕たち駆逐艦には余程の事が無い限り、バケツは使わないのに。


「そう。でも、大事に至らなくて良かったよ。」
「私もまだまだですね……頑張って司令官さんや皆さんの
お役に立てるようにならないと……」
「春雨は頑張っているじゃないか。提督の作戦や指示が無謀なんだよ。
ホントにもう。」


誰が聞いているかも分らない鎮守府内で、公然と上官批判をするのも
どうかと思ったが、治ってきていた怒りが再び込み上げてきて、
思わず口に出てしまった。


そんな時雨の様子を見て、戸惑いの表情を浮かべながら春雨が時雨に問い掛ける。
 
「……時雨姉さんは、司令官さんの事、お嫌いなんですか?」
「えっ?」


正直、こんな事を聞かれるとは思っていなかったから言葉に詰まってしまい
どう答えたものか悩んでいると、春雨が慌てて言葉を付け足す。


「あ、あの、深い意味はないんです。ただ司令官さんとのやりとりを見ていると
あまり好意的ではないのかな~とおもいまして。」


よく見ているな、と言うか当たり前か。
僕と提督のやり取りは、昨日今日に始まった訳じゃないし。
山城にも同じ様な事を言われたし、少しは自重しないといけないな。


「う~ん……毛嫌いしているって言うわけじゃ無いけど、ね。
僕が艦娘である以上、上官である提督には従わなきゃいけないって事は
分ってるつもりだよ。
ただ、出来ればもう少し、艦娘の事を考えてくれればいいかなとは思うけど。」
「そう、ですか……」


『あれ?なんだろうこの感じ。』


春雨の反応に、いつもと違う印象を受けた時雨。


この時は本当に軽い気持ち、冗談のつもりで言ったのだが
春雨から返ってきたのは、まさかの反応だった。


「何々?春雨はもしかして提督の」
「べべべ別にそんな事は思ってませんよ!ななな何を言ってるのかなぁ~
……あははぁ。」
「僕はまだ何も言ってないけど?」


一瞬、固まってしまった春雨だが、恥ずかしさを隠す為に両手で顔を覆うが
隠し切れないほど真っ赤に染まっていた。


春雨の話をまとめると、こんな経緯だった。
着任当初、不慣れな為にミスが続いていたが、何かにつけて庇ってくれたのは
神保提督であったそうだ。
でもある時、自分だけ贔屓にされているのではないか?そうだとすると
他の艦娘にも迷惑が掛かるのではないか?
そう思って神保提督に問い掛けた際、こう返答が返ってきたそうだ。


『別に贔屓している訳ではない。お前をみていると、つい昔を思い出す。
特にその髪の色を見ているとな。だから、なんとなく放っておけないんだ。』


 


「それで、気に掛けてもらえるのなら、それに報いようと頑張っているうちに
落とされてしまった……と?」
「はい。って、落とされるなんてそんな……
私が一方的に見ているだけなんです!だから、この事は提督には……」
「分かってる。大丈夫、別に言いふらしたりはしないよ。」


それを聞いた春雨は、安堵の笑みを浮かべていた。
 


「そうだ!時雨姉さん、今から間宮さんの所行きませんか?
今日のお詫びとお礼を兼ねて、私、ご馳走しちゃいます!」
「お?言ったね?じゃあ高いもの頼んじゃおうかな?」
「だ、大丈夫ですよ!じゃあ、行きましょう!」


『少しは提督の事、考え直さなきゃいけないかな?妹の為にも。』


そんな事を思いながら、急かす春雨に手を引かれ、間宮へ向うのだった。

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