おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏㉕

~forget me not~
25【力の差】


~谷崎指揮所~
 


『いい加減に沈むデース!!』


『そっちこそ、早く沈みなさいよっ!』


 


これは同じ鎮守府に所属するもの同士の演習なのだが、
とてもそうは思えない言葉の応酬に、思わず苦笑いをする谷崎と扶桑。
 


「提督…これ、宜しいのですか?」


「まぁ、あいつらなりのコミュニケーションの一環だろうよ。
ここ暫く大きな出撃も無かったから、
ちょっとした息抜きと思えばいいんじゃないか?」
 


イギリス生まれの金剛型一番艦『金剛』、
そしてドイツ生まれのビスマルク級戦艦『ビスマルク』


研修目的で来日したビスマルクの面倒をよく見ていたのは、
同じ高速戦艦の金剛である。


しかし元々プライドが高く、素直になれない性格ツ ン デ レ
なビスマルクを金剛がからかう様になり
事あるごとに繰り広げられている二人の舌戦は、
瑞鶴と加賀のやり取り同様、鎮守府内の名物行事となっている。
 


『F〇〇k!』


『Du musst St〇r〇en!』


 


その後も、放送禁止用語のオンパレードとなり


 


「……提督、さすがにこれは……」


「あぁ、分かってる……帰ってきたら、二人には釘を刺しとく。
それにしても……」


「何かありましたか?提督。」


「あぁ、ちょっと神通の事を考えてて、な。
まぁあいつの事だ、何かしら思うところがあったんだろうが……」


そうこぼした後、谷崎はもう一つの海域へと目を移した。


「確かに、彼女らしくないやり方でしたね…
でも以前に彼女も言ってましたけど、時雨には特に目を掛けていたみたいですよ?


その証拠に『優秀な駆逐艦は数多くいます。
けれど、有事の際に背中を預けられる駆逐艦を挙げるとすれば
時雨さんを真っ先に挙げるでしょう。』


そんな事を言ってましたもの。」
 


「ほぉ~。”鬼の神通”にそこまで言わせるとはな。たいしたもんだ。」


「ただ、そのポテンシャルを十分に引き出せず、苦労してるみたいですが。」


「成る程な。それであの煽り、か……」


 


~鬼怒隊 side~


「うぁぁぁぁぁぁっ!!!」


鬼の形相で乱射しながら神通へ迫る時雨だが、先程の神通からの煽りの影響からか
完全に冷静さを欠き、相手を追い詰めるどころか、次第に自身が追い詰められてゆく。


「許さない…絶対に許さないっ!」


「別に、許しを請うつもりはありませんが…
今の貴方のように、我を忘れて敵陣に突っ込む事しか頭にない艦娘がいたのでは
勝てるものも勝てないでしょうね。」


「五月蝿いっ!」


「何をそんなに怒っているのかが分かりませんが…
あぁ、図星をついてしまいましたか?
打ちのめしたいですか?この私を?
やれるものならやって見せて下さい。さぁ!」


そう言うと神通は構えていた主砲を下ろし、さも殴って来いと言わんばかりに
両手を広げ、時雨の前に立つ。


「こ、このぉぉぉっ!」


怒りと勢いに任せて殴りかかる時雨だが、神通はそれを嘲笑うかのように
右へ左へといなしていく。
 


『なんで?どうして当たらないの?』
 


次第に、神通へ向ける拳の勢いが弱くなる。
 


『悔しい…悔しいよ……』
 


そしてついには、込める力をなくした両手を下げ、時雨は俯いてしまう。
 


『やっぱり神通さんの言う通り、僕みたいな艦娘がいたら駄目なのかな?』
 


「…もうお終いですか?」


「……」
 


『ここまで、のようですね……』
 


そう心の中で呟いた後、神通は主砲を時雨に向け、引き金に手を掛けた。
 


「時雨っ!しゃがんで!!!」


今まさに砲撃を受けるかと思われたその時、
綾波たちを牽制していた鬼怒の声に反応すると
砲撃音と共に目の前に大きな水柱が上がる。


「いつまでもしゃがんでないで、直ぐ動く!」


「う、うん!」


鬼怒の砲撃は、時雨が上手い具合にブラインドとなり、神通の体制を崩す事に成功し
即座に距離を取る。


「鬼怒…ごめん、手間を取らせちゃったね…」


「謝るのは後!それにまだまだこれからだよ。
何もしないで終わっちゃったら、大尉に合わせる顔がないっしょ!秘書艦さん?」
 


そうだ、その通りだね、鬼怒。
僕はまだ、何もやってない。


大尉の手助けをする為に僕はここにいるんだ。


  


「時雨にばっか構っててもいいのかなぁ~?
これ以上は好き勝手はさっせないよー!」


「っく!…私とした事が、油断してしまいましたね。ですが!」


主砲の狙いを時雨から鬼怒へ変え、動きながらも綾波へ指示を出す神通。


「綾波さん、鬼怒さんの脚を止めます。そこから狙って下さい!」


「で、でも神通さんと位置が被っていますよ?このままでは…」


「構いません!早く」


「遅いよ。鬼怒は…やらせない!」


神通の指示に戸惑った綾波一瞬の隙を見逃さず、
冷静さを取り戻した時雨が放った砲撃は、綾波を的確に捕らえ、中破判定となる。


「すみません神通さん……でも、まだやれます…」


 


『さて、これでほぼ2対2…いや、時雨は向こうへ行かせなきゃだから
1対2って所か。


大尉に頼まれたし、いっちょやってやりますかね!』
 


鬼怒はそう心の中で呟いて、改めて戦闘態勢を整えた。


 


 


~同時刻 金剛隊 ~
 


「翔鶴!こっちで何とか隙を作りマス!その間に艦載機を飛ばして下サイ!」


「で、でもそれでは旗艦の金剛さんが…」
 


決して金剛一人では”荷が重い”、等とは思ってはいない。


むしろこの状況下で、旗艦であるにも拘らず自分を庇いながら戦い続けている事を
賞賛すらしている。
 


金剛、翔鶴共に錬度においては、現在相手をしているメンバーたちとの差は殆ど無い。


差が無いからこそ、少しの綻びが致命的となると分かっているからこその危惧である。


しかも龍驤が中破して数的不利もある今、自分たちがやれる事は…
 


「…分かりました。でも、くれぐれも無茶はしないで下さいね。」
 


「No problemネ!任せて下サーイ!
それに、このまま何もせずにいるよりはイイネ。・・・撃ちます! Fireー!」
 


いつもの掛け声とともに砲撃を開始し、牽制する金剛。
 


しかし・・・
 


熟練の猛者三人を相手に、意地を見せ奮闘していた金剛だが
次第に数で押され、対応が遅れ始める。


翔鶴も懸命に動き回り、機銃等で応戦し隙を伺うも
状況が好転せず、時間だけが過ぎていく…


 


「っ!翔鶴!左舷に雷跡!」


「えっ?」
 


迂闊だった…


加賀との航空戦に集中するあまり、他の攻撃への対応が緩慢になってしまった。


そう悔やんでも、もう遅い。
 


「残念ですけど、ここまでですね。」


自身が放った魚雷が当たる事を確信した高雄が呟く。


 


もう間に合わない…
 


そう思って諦め掛けた翔鶴の目の前で一つの影が遮り、
衝撃音と共に大きな水柱が上がる。
 


「痛ったた…何とか間に合うたみたいやね。高速軽空母は伊達じゃないよってな!
・・・まぁ大破判定にはなったけど…ははっ。」


「りゅ、龍驤さん!なんで・・・」


「なんでて、中破したうちに出来る事は、残ったあんたらの盾になる事くらいやん?
って、いつまでぼーっとしとんねん!
あそこで絶賛慢心中のあいつらを狙うなら今やろ!」


「は、はいっ!」


龍驤の檄に反応し、体勢を立て直した翔鶴から放たれた艦載機たちが
次々とビスマルクたちへ襲い掛かる。
 


「ビ、ビスマルクさん!」


「大丈夫!慌てないで回避を」
 


「翔鶴の艦載機だけでFinish?な、訳ないデショ!
全砲門!Fireー!」


ビスマルクたちの一瞬の綻びを見逃さなかった、金剛の渾身の一撃が高雄を襲う。


「きゃぁぁぁぁっ!な、なによ。それで勝ったつもり?」
 


翔鶴から放たれた艦載機に足止めされた高雄が、
金剛が放った砲撃により大破判定となる。
 


「さぁて、これで2対2デスネ。勝負はまだまだこれから」


「…いえ。もう終わりです。」


「What's?」


加賀が呟いた一言に、金剛が反応した次の瞬間、砲撃音が響き、
遅れて翔鶴の悲鳴が聞こえてきた。


金剛が翔鶴の方を振り向くと、ビスマルクの砲撃を受け
大量のペイントを浴びた翔鶴が項垂れている。


 


「龍驤が追いついてきた事は驚いたけど、私を狙うまでには至らなかったようね。
加賀、今回は貸しにしておくわ。」


「えぇ、そうね。
心を折ったつもりで、止めを刺さずに彼女を放置してしまったのは私のミスです。」
 


「ま、まだ私は終わっていないネー!これでも喰ら」
「”もう終わり”、と言ったでしょう?」


金剛の言葉を遮るように加賀が被せた後、複数の艦爆隊が飛来し
次々と搭載された爆弾を金剛めがけて落としていく。
 


「……Oh,Jesus……」


状況を悟った金剛はそう呟くと、微動だにせず、ただその場に立ち尽くすだけだった。


 


 


そして間もなくして、演習終了の信号弾が打ち上げられる。


 


「ビスマルクさん、これで帳消しかしら?」


「…まぁいいわ。
さぁ、みんな!帰るわよ!」


 


 


 


第一回目の谷崎艦隊・時任艦隊の演習結果
 


谷崎艦隊:大破(高雄)、中破(綾波)、小破(ビスマルク・加賀・神通・秋月)


時任艦隊:大破(金剛・翔鶴・龍驤・朝潮)、中破(時雨)、小破(鬼怒)
 


旗艦のビスマルクに損傷は負わせたものの、大破には至らず。
よって谷崎艦隊の勝利。


 


時任たちの最初の挑戦が終わった。

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