おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏㉘

~forget me not~


28.【答えを探して】



「大人しくしなさいっ!ビスマルクさん、今です!」
「分かってるわよ!Feuer!!」




前回の演習から1週間後。


演習場では2回目の演習が行われているのだが、
今回は前回と比べ緊張感のある演習となっている。


何故かと言うと…


”気心の知れた仲同士の演習とはいえ、緊張感を持て”


事前に秘書官である扶桑だけでなく、谷崎からも叱責があった為である。


しかも、演習内容変更のおまけつきとあれば
尚更であろう。


ただ変更と言っても、勝敗についてのルールではなく…



「寒いし、痛いし、恥ずかしいし…んもぉー、今に見てなさいよぉーっ!」
「うぅ~痛すぎですぅ! 飲まないとやってられないぃ!」



使用する砲弾等が、ペイント弾ではなく模擬戦闘用の弾に変更となったのだ。
その為、本人たちへは轟沈する程のダメージはないものの、
各々が装備している艤装には、当たり所が悪ければ使用不能となる。


要は、”より実践向け”の演習に変更である。




「よく狙って…てぇえええ~い!!」


「痛たぁ…砲塔へしゃげとるし、ボロボロになってしもうた…」




今回の演習で時任は、旗艦の金剛及び翔鶴はそのまま、
随伴艦にはポーラ・最上・浦風・白露。
といったメンバーに変えて挑んでいたが、奮闘虚しく、
再び自分たちの敗北を告げる、演習終了の信号弾を眺める結果となった。






「…流石にボクとポーラの水戦じゃあ抑えきれないかぁ…残念。」


「前回の演習で空母2人が居ても抑えきれなかったのに?
…随分と私もなめられたものね?」


「でも、加賀さんちょっと慌ててなかった?」


「…何か言って?」


「まぁまぁ、加賀さんその位で。最上さんも大丈夫ですよ。
次は私が抑えて見せますから。」


「…頭にきました。」



最上・翔鶴・加賀の三名のやり取りを笑いながら見ていた谷崎が声を掛ける。



「お~い、お前らその辺にしとけよ。じゃないとさっきから時任の奴が
目のやり場に困ってるぞ。」
「ちょ、提督!」


最初は何の事か分らずキョトンとしていた三名だが、改めてお互いの姿を見た後
顔を真っ赤にしながら、見たこともないようなスピードでその場を去って行った。



それもそのはず。
前回のペイントだらけの姿とは違い、今回は攻撃を受けた箇所の衣服が破れ
普段は見えない箇所の肌が丸見えなのだから。



「おぉ、あの早さを実践で生かせたら勲章ものだな。」
「ははっ。確かにそうですね。」


「しかし、今回はまた随分と思い切った編成にしてきたなぁ。
ちょっと驚いたぞ?」
「そう、ですね。今回は自分としても色々な場面を想定して
編成をしてみました。
まぁ、結果はあれでしたけど…」


そう言って自嘲気味に話す時任だが、その表情はどこか晴れやかにも見える。



『ほぅ…何かきっかけでも掴んだか?
ま、そうでなくちゃ、な!』



僅かかもしれないが、愛弟子の成長の兆しを見て取れた谷崎も
満足そうにしている。



「そうだ時任。今日の夜、空いてるか?」
「え?えぇ、特に用事はありませんが…なんでしょうか?」
「たまには付き合えよ。」


谷崎はそう言って指を口元に合わせ、酒を呑む仕草をする。


「わかりました。お供します。」
「よし!じゃあ、20時に”鳳翔”な。」
「了解です!」



『…大尉、聞こえてるよ?その前にまだまだ仕事が溜まってるんだけど?
まさか忘れてないよね?』


通信機から聞こえて来た秘書官の声に驚きながら
即座に応答する時任。


「し、時雨か?わ、分かってるよ。今すぐ行くから!
では提督、また後程!」


そう言って挨拶も程々に切り上げ、先程の最上達の様に
猛ダッシュで第二会議室へ向かう時任を見ながら、谷崎がポツリと一言。


「ありゃあ、絶対尻に敷かれるタイプだな…」





~居酒屋鳳翔~



「少し早く来すぎたかな?」


時任は、約束の時間よりやや早めに着いたものの、店内に谷崎の姿はない。


どうしたものかと思案していると、女将である鳳翔から声を掛けられる。



「大尉、宜しければこちらへどうぞ。」
「あぁ、はい。有難うございます。谷崎提督は…」
「お話は伺っています。じきにいらっしゃると思いますよ?」


鳳翔に促されるままカウンターに着席してから暫くし、谷崎が店内に現れる。



「いやぁ~、すまんすまん。待たせたか?」
「いえ、ちょうど今来た所です。」
「そうか?まぁ取り敢えず好きなものを頼め。今日は俺の奢りだ。」
「有難うございます!」






それから暫くの間、谷崎と時任は取り留めのない会話を続けた。


お互いの学生時代の事、講師と生徒時代の事、艦娘の事や
谷崎が鎮守府に着任した当時の事などの様々な話をしていた。



すると突然、何かを思い出したかのように谷崎が問い掛ける。


「そういえば時任、聞いておきたかったんだが…」
「はい?なんでしょうか?」


「お前さん、時雨とは”ケッコンカッコカリ”するのか?」
「ブフォッ!」


予想だにしなかった問い掛けに、時任は思わずむせる。


「ゴ、ゴホッ!て、提督!いきなり何を…」
「いや~、はたから見てるとお前らお似合いだなと思ってな。」
「…酔ってます?」
「さぁ~どうだかな?」


若干悪意のある笑みを浮かべながら、谷崎が畳み掛けるように突っ込んでくる。


「で?どうなんだ?ん?」
「じ、自分はまだまだヒヨッコですし…何よりまだ彼女たちの事を」
「たち?ってお前、時雨以外にも候補がいるのか?」
「いやそうではなくて…もう、勘弁して下さい…」


そんな時、にこにこしながら二人の話を聞いていた鳳翔から助け舟が入る。


「提督、そんな風に苛めては大尉がかわいそうですよ?
あ、そうそう!大尉、面白いお話を聞いてみたくはありませんか?」


「面白い話、ですか?」


「えぇ、とっても。提督がこのお店で扶桑さんに」
「OK、鳳翔そこまでだ。俺が悪かった。」


余程聞かれたくない様な話だったのだろう。
鳳翔が言い終わるよりも早く、谷崎が二人の間に入り平謝りを始めた。



場所が場所だけに、艦娘同士だけでなく将官や整備員達も立ち寄る店なだけあって
様々な情報が入ってくる。


勿論、鳳翔はそれらを黙って聞いているだけであって、所構わず言いふらしたり
する訳ではない。


ただ今回の様に、少しだけ”おいた”が過ぎる場合には、相手にくぎを刺す意味も含めて
こっそりと助け船を出す事もある。


また、この鎮守府には在籍していないが、他人に知られたくない秘密を知られたら最後、
瞬く間に話が広がり、面白おかしくネタにしてしまうと言う情報屋もどきの艦娘も
いるという。


そんな艦娘に比べれは、今回の鳳翔の事など可愛いものである。



「まぁ半分は冗談だが、何れはそうなるかもしれないだろ?
何かの時にはアドバイス出来るか、と思って聞いてみたんだよ。」


先程の声のトーンとは違い、少し真剣な表情で谷崎が時任に改めて問い掛ける。


「そうですね…今はまだそういった感情よりも、彼女たちの心からの
信頼関係を築く事で精一杯なので…」



日々の執務だけでなく、艦娘たちの演習や遠征などの任務に関しては
時雨だけでなく、他の艦娘達のサポートがあってこその状況。


その事を思えば、飲みかけのグラスを見つめながら出た言葉は、時任の本心であろう。



「相変わらず真面目だな、お前は。」
「そりゃあ、真剣に考えますよ。だって艦娘とケッコンカッコカリしたら
”記録として残る”じゃないですか。」


「お前…」


時任の発言を聞いた谷崎が何かを言いかけたが、手に持ったグラスの中身と一緒に
言葉も飲み込む。


谷崎の様子で何かを悟った鳳翔が、代わりの飲み物を提案するが
やんわりと手でそれを制す。


「提督、あの…」


時任も何かを言いかけたが、それを遮るように谷崎が被せる。
「まぁお前のペースでやればいいさ。
なぁに、俺の知ってるお前なら、余程の事がない限り艦娘達に嫌われる様な事は
ないだろうよ。



さて、今日は付き合わせて悪かったな。鳳翔、ごちそうさん!」


「提督!今日はご馳走様でした!」
「おう!」


背中越しに手を上げ、谷崎は店を出て行った。



「では、自分もそろそろ」
「あ、大尉!」


時任が店を出ようとすると、鳳翔が声を掛ける。


「たまにでも結構ですから、提督とまたいらして下さい。
あんなに楽しそうに呑む提督は久しぶりに見ましたので。


勿論、隊の誰かとでも結構ですよ。フフッ。」


「わ、分かりました!是非また寄らせて頂きます。
では、ご馳走様でした。」







鳳翔からのちょっとした意地悪に、挨拶もそこそこに店を出た時任は
腕時計で時間を確認した後一人頷き、自室ではなく埠頭へ足を向ける。


暫く歩き、沖合にて砲撃音と共に火花が上がっている箇所を見つけると
時任は徐に通信機を操作し、通話を始めた。



「夜間訓練ご苦労様。調子はどうかな?時雨。」
「え?ちょ、大尉?どうし…って今無理!!!」



どうやら通信相手である時雨は今、夜間演習の真っ最中らしく、
時任から突然の通信に驚きながらも、一方的に通信を切ってしまう。



通信が途切れてから間もなく、幾つかの火花が上がった後砲撃音が止んだ。



「|La nostra vittoria~!《私たちの勝ち~!》
シ~グレ~、約束ですよ~。お酒ご馳走して下さ~いね!」
「あ、ウチはお好み焼きね!」



夜間戦闘訓練は時雨の他、ポーラ・浦風の3名で行っていたらしく
どうやら勝敗で何やら賭けをしていた様子。


「…分かったよ。」


時雨はそう答えるも、どこか納得いかない様子で周りを見回し
誰かをさがしている様子。


そしてお目当ての人物を見つけると、勢いよく近づき
不満をぶつける。



「もう!大尉がいきなり話しかけるから負けちゃったじゃないか!
それまでいい勝負してたのにさ…。」


「はははっ。そりゃあ申し訳ない。でも、実際の戦闘でそれは通じないよ?」
「それは分かってる。だけど…」
「だけど?」


勿論、時雨は時任の言っている事は正論であり、彼に何の責もない事は
十分に分かっている。


「ううん、なんでもない。ごめん大尉。今後はもっと気を引き締めるよ。」


分かっているからこそ、素直に自身の非を認め謝罪の言葉を口にする。



時雨のその言葉を聞いた時任は、満足そうに笑みを浮かべ
浦風とポーラにも労いの言葉を掛けた。



「二人もご苦労様。
夜間の、それに多対一での訓練はどうかな?やってみた感想は。」



3名とも夜間戦闘は経験済みであり、今までもそれに合わせた戦闘訓練もやっている。
ただ訓練に関しては標的を打ち抜くものであったり、航行訓練などが殆どで
対艦での訓練は未経験であった。



「う~ん…やっぱり独特の怖さはあるんじゃねぇ。
しかも今回は時雨が相手じゃったし。」


「Oh si!ワタシもヤセンはそれなりに自信はありますけど~
素早い駆逐艦には苦労しますね~。
ウラカゼも言ってましたけど、ヤセンのシグレは手強いですからね~。」


「…二人とも、そんなに煽ててもご馳走の品数は増えないからね?」


「あらら…ダメですかぁ~?」



そんなやり取りに、思わず全員が笑い出す。



「まぁ、賭け事をするなとは言わないけど
さっき時雨にも言ったように、演習とはいえ緊張感を持って行う事。いいね?」



「|Ho capito《わかりました~》~」
「了解じゃ。」
「うん。」



そう言い残し、時任がその場を離れようとした時
ワザとらしく何かを思い出したかのように、大声で浦風が話始める。



「あぁ、そうじゃ。ねぇポーラ、艤装の事で明石さん所に行くんじゃけど…
ちぃと付きおぉてくれんかね?」


その言葉を聞いたポーラは、始めはキョトンとしていたものの
話しの意図を理解したのか、浦風と同じようにワザとらしく応える。


「|È strano!《奇遇ですね~》
ワタシもアカーシに用事があるので一緒に行きましょ~!」


「あっ!じゃあ僕も」


二人に同調するように時雨も一緒にと言いかけるが
それよりも先に浦風に強引に背中を押されて転びそうになる。


「ちょ、ちょっと!危ないじゃないか!いきなり何をするのさ。」
口を尖らせながら文句を言う時雨。


「時雨はほら、あれじゃろ?
演習の報告やらをせにゃあいけんじゃろうが。」



浦風は尤もな言い分を並べるが、表情はいたずらっ子のそれである。



「それじゃあ、またの!」
「|Buona notte《お休みなさい~》~!」




そう言って去っていく二人を黙って見送る新米指揮官とその秘書艦。


暫くの間沈黙が続いたが、どちらからともなくお互いの顔を見て笑い出す



「帰ろうか」
「…うん。」



帰り道、ぎこちない雰囲気ながらも会話をしながら歩く二人。
しかしその内容は…


「・・・で、こう。」
「ふーん。そうなんだ。」


「あぁ、それはね・・・」
「なるほどね。」


といった、なんとも盛り上がりに欠ける内容。



だが次に、時任が何気なしに言い放った言葉で時雨が動揺する。



「あぁ、そうだ。さっき谷崎提督と『ケッコンカッコカリ』の話題になったんだけど、
時雨はどう思う?」



「…え?」




時任から予想外の言葉を聞き、パニックに陥りそうになるが
努めて冷静になろうと、時雨は必死に頭を回転させる。



『ちょっと待ってちょっと待って!
いいかい?一旦落ち着くんだ時雨。こんな風に動揺してたら
大尉に変に思われるじゃないか。



”ケッコンカッコカリ”



確かに全く興味がないと言う訳じゃあないけど…
そもそも、まだそういった感情が僕には良く分からないし…



で、でも大尉はどんな意味で聞いているんだろう?


あぁ、もう!こういう時、何て返事をしたらいいのかわからないよ!』




そんな風に頭の中で悩み続ける時雨だったが…



「おーい、時雨?」


「え?な、何かな?
あ!ケッコンカッコカリの事だよね!え~と、うん。その…」


「あぁ、そんなに深い意味はないんだよ。
時雨達艦娘の皆は、どんな風に考えているのかな、と思ってさ。


…ってあれ?どうかしたかい、時雨?」



時任の言葉に、時雨は小さく肩を震わせ俯いたままだ。


『……なんだい、それ?
まるで真剣に考えてた僕がバカみたいじゃないか!


僕はてっきり…っていやいやいや、それ以前に僕と大尉はそんな関係じゃ…


でも、もしかしたら…』



そんな事を考えながら時任の顔を見る時雨だが、その表情から察するに
時雨の期待するそれでは無く、大きく落胆の溜息を吐く。




『ま、そうだよね。分かってはいたけどさ。』



そう心の中で呟くと、改めて時任の方へ向き直り
時任の問いに対し、己の答えを伝える。



「ケッコンカッコカリ…確かに女の子としても、艦娘としても
色々と憧れるよね。


で・も!


今の大尉とは、したいとは思えないかな?」



「えぇっ!お、俺ってそんなに嫌われてるの?」


少しは信頼されていると思っていた秘書官からのダメ出しに
落ち込む時任。


そんな彼を見て悪戯な笑みを浮かべながら時雨が続ける。



「大尉、ちゃんと聞いてた?


僕は、”今の大尉とは”って言ったよ?」


「え?それって…」


「さぁ?なんだろうね?
さっ!もう帰ろうよ。」


「お、おい時雨、待ってくれよ。」



時雨の思わせぶりな言動に動揺し、一瞬固まったままの時任だったが
先に歩き出した時雨を慌てて追いかける。



『まぁ、今はホントに分からないよ。


どうしたいのか?
どうしたらいいのか?


僕自身がそれを分からない限り、明確な答えは出せないよ。


でも大尉となら、何となくだけど答えの様なものが出せる気はするよ。



だから……』




「大尉、これからもよろしくね!」




時雨は追いかけてくる時任に向かい、笑顔でそう言った。

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