おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏⑨

~forget me not~


9.【苛立ち】


春雨の思いがけない告白を聞いてから数日、特に大きな戦闘も無く
比較的穏やかな日々が続いていた。
 


この日時雨は、浦風・電の二名と共に近海の哨戒任務にあたっていた。


「んっ~……穏やかな海じゃねぇ。
まぁ、たまにはこがいな日があってもええねぇ。」
「私もそう思うのです。出来れば平和が一番なのです。」


「二人とも、今は任務中だよ。私語もほどほどにね。」
二人を嗜める時雨に対し、浦風はやや不満顔を見せるが、
気にせず任務に集中する。


「げに真面目じゃねぇ、時雨は。そがいに肩肘張っとって疲れん?」
「真面目……なのかな?ただ、与えられた任務をこなしているだけだよ。」


時雨の素っ気無い返しに、浦風はおどけるように肩をすぼめて
電と共に苦笑いをしている。
 


確かに僕は人付き合いってやつは、他の皆と比べて上手くは無い方だ。
でも、別に馴れ合いが嫌いと言う訳ではない。
現に旧西村艦隊の面々や、姉妹艦の白露達とはそれなりに上手くやれている
と思ってる。


「なぁなぁ時雨ぇ。」
「何?」
「あんた、楽しみやら生きがいみたいなもなぁないの?」
「楽しみ、ねぇ……」


生きがいと言う事なら、過去の様な辛い思いをしない様に
皆を護れる艦である事かもしれないけど。
楽しみ……楽しみ……。


腕組みをして考え込んでしまっている時雨に、助け舟を出すかの様に
電が会話に入ってきた。


「私は、暁ちゃん達と間宮さんで甘いものを食べながら
おしゃべりをするのがとっても楽しいのです。」
「そうそう!そう言う事じゃ。後は色恋やら?」
「色恋?」
「例えば、提督とデー」
「それは絶対にありえない。拒否するよ。」


少しだけカマを掛けてみたつもりの浦風だったが、清々しいくらい全否定をされ
思わず笑い出してしまう。


「取り付く島もなしかい!少しだけ提督に同情するわ。
電は提督の事、どう思っとるん?」
「私も特にそう言う感情は……っ!あ、あれを見てください!
右舷上空なのです!」


電が指し示した方角を見ると、深海棲艦の偵察隊と思われる
艦載機の編隊を見つけた。


「流石に見つかったね。この距離じゃあ狙えない、か。」


この近海でそれ程大規模の艦隊が展開しているとは思えない。
ならば強行偵察も可能か。
そう考えた時雨は、すぐさま浦風と電に指示を出す。


「浦風!電と一緒に反転のち後退して!電は後退しつつ鎮守府司令部へ連絡をお願い!」
「ち、ちいと待まって!時雨、あんたはどうするんよ!」


浦風だけならば問題は無い。けれど電はそれなりの練度ではあるが、
実戦経験がやや不足気味だ。


「僕は少しでも情報を集める為に、このまま偵察を続ける。」
「あんた、また」
「大丈夫。無理はしないよ。それに練度的に見ても、僕が残るのが最善だと思う。
急いで!」
 


言い出したら引かない時雨の事だ。不本意ではあるが、浦風は時雨の提案を受け入れる。


「絶対に無理をしたらだめじゃ。無理じゃ思うたら、必ず引くんじゃよ!」
「分かった!」
 


さて、まずはどうしようか。
先程見つけた艦載機はもう離脱しているようだ。


『飛んできた方角は北東。だったらこっちから回ってみるか。』


回りこめる可能性も考慮して、西から北西へ回り込むように移動を開始する。


 


『普段はこんなに穏やかな海なのにな。って、浦風の言葉がうつったかな?
でも、ここは戦場なんだよね。』
周囲を警戒しつつ、そんな事を考えていると鎮守府から通信が入る。


『時雨、私だ!何故お前はいつも』
「提督?お説教なら後。今はまだ、敵影は確認できてないよ。」
『そうじゃない!全くお前は……』
「そんな事より支援準備はしてもらってるのかな?」
『……まずは状況確認が先だ。』
 


そういう所だよ、提督。


何の為に浦風と電を後退させて、連絡をしたと思ってるの?
どうして先手を打ってくれないのかな。
なにも、戦艦主体の援護を求めてる訳でもないのに……


「……敵影を確認次第、追って連絡するよ。」


そう言って、一方的に通信を切ってしまった。


通信を切ってから数分後、鎮守府で何か情報が入っていないか確認しようと思い
回線を開こうとした時、神保から通信が入る。


「・・・!・・・れ!今・・・入っ・・・」
「え?何?ノイズが酷くて聞こえないよ!」


神保が何かを叫んでいるように聞こえたが、ノイズが酷く上手く聞き取る事が出来ない。


「今・・・れっ!戦・・・巡が多・・・っ!」
「ちょっと、ホントにわからないよ!提督どうし」


次の瞬間、時雨の周辺で轟音と共に水柱が上がる。


「長距離砲撃!?この威力・・・まさか!」


直ぐさま回避行動を開始し弾幕を張りつつ、回線を開く。


「こちら時雨、現在敵と交戦中!
敵の数は定かじゃないけど、目視できる限りで軽巡2駆逐2を確認。」


どこだ?
どこにいる?
恐らく……いや間違いなくいるはず。


敵の砲弾を巧みに躱しながら、いるであろう敵旗艦を探す。
 


「いた!でも、まさかこんな近海で出会うとはね。」


そう言って睨んだその先に、薄ら笑いを浮かべた《戦艦ル級》を捉えていた。


 


遠征任務から帰港中の艦隊から敵艦隊発見の報を受け、敵編成を確認した神保は
言葉を失っていた。


暫くして我に返り、慌てて時雨に続報を入れたが、既に交戦状態にあり
交信が途絶えてしまう。


「な、何故この近海にまでル級が……」
「今はそんな事を言ってる場合じゃないでしょう!待機中の各艦に通達!
敵の編成は戦艦1軽巡2駆逐2の計5隻。龍驤・翔鶴の空母組は
出撃後直ぐに艦載機の発艦を宜しく。」


『了~解や。っていうか、既に出しとるけどな。』


「龍驤!それに山城、勝手に何を」
「時雨を沈めさせるおつもりですか?」


静かな物言いではあったが、神保を黙らせるには十分な迫力であった。


別に時雨に危機が迫っていたからではない。
他の艦娘が同じ状況に置かれたとしても、同じ様に行動しただろう。


”提督が動かないのであれば”


神保は決して有能とは言えないが、無能と言う程ではない。
よく言えば規律正しく、悪く言えば融通が利かない。
それがよく分かっているからこそ、山城は神保に対し苦言を呈した。


「提督、勝手に艦隊へ指示を出した事は謝罪します。ですが秘書艦として
敢えて言わせて貰います。
貴方は提督としての、艦隊を指揮する長としての自覚が足りないんじゃないですか?」
「何だと!?」


流石にまずいと思い始めた艦娘達が、山城を止めようとするも
その制止を振り切り、尚も続ける。


「私達艦娘を駒として扱うならいざ知らず……まぁ扱っては欲しくないですけど。
扱えていないのが現状じゃないですか?もしこれで、時雨の身に何かあったら」
「山城、そこまでにしておきなさい。」


見かねた扶桑が間に入り、山城を宥めつつ神保に妹の非礼を詫びる。


「提督、山城の行き過ぎた言動、後できつく言い聞かせておきますので、
どうかご容赦下さい。
それよりも今は、先行した支援艦隊の他数隻に出撃準備させる事を具申致します。」


「そ、そうだな。
山城!出撃可能な軽巡及び駆逐艦を4隻選抜し、待機させろ。
そして、時雨には直ぐさま後退するよう呼び続けろ!」
「……了解です。」


 


 


「くっ!これで!!」


時雨の主砲から放たれた砲弾が敵軽巡へ級に命中し、爆発音と共に沈んでゆく。
圧倒的不利な状況下にありながら、自身の損傷は小破に留めて、
軽巡及び駆逐艦各一隻ずつを撃破していた。


「損傷はまだ大丈夫だけど、この辺りが引き時かな?」
現在の戦闘は完全に想定外であり、不要な損傷が避けられるのであれば
それに越したことはない。


残弾を確認しつつ撤退のタイミングを図っていた時雨だが、
先程からの戦闘において、ある種の違和感を抱いていた。


『何かがおかしい……ル級の攻撃ってこんなものだったかな?』


時雨が感じていた違和感とは、敵戦艦ル級の攻撃は至近弾はあるものの、
その後に続く攻撃が散漫で、回避が容易いものばかりであった。


もしかすると敵にとっても想定外の戦闘で、何かしらのトラブルを
抱えているのかもしれない。
ならば早めに撤退するのが得策だ。
そう考えた時雨は、先程沈めた軽巡の周辺に敵陣形の乱れを見つけ、
速度を上げて海域からの離脱を試みる。


『あそこから抜けられそうだし、さっさと離脱しよう』


敵の合間を縫って、海域を離脱したかと思った次の瞬間、
右側面に強い衝撃と共に激痛が走り、時雨の身体が海面を滑る様に吹き飛ばされる。


「がっ、はぁっ……な、何が?敵の……攻撃?」
 


激痛に顔を歪めながらも、状況を確認する為周囲を見渡すと、
もう一隻の戦艦ル級から主砲を向けられているのが見えた。


『罠、だったんだね。僕とした事がなんてミスを……』
 


このままではまずい、とにかくこの場を離れないと。
それにこの近海に戦艦が二隻もいると言う事は、もしかすると
他にも大きく展開されている可能性もある。急いでこの事を伝えなければ。


痛む身体を引きずりながらも何とか体勢を立て直しつつ、司令部への回線を開く。


「こちら時雨、現在も敵と交戦中。残敵は戦艦2、軽巡・駆逐が各1。
可能性として敵の大規模作戦が展開されている恐れあり!」


『時雨!?今、そちらに支援部隊が向かっているわ。あなたの状況は?無事なの?』
「山城?取り敢えず通信出来る位は無事だよ。ただ、中破してしまって
敵に囲まれつつあるかな?』
『全然無事じゃないじゃない!!いい、時雨。下手に反撃は考えないで、
兎に角回避に徹しなさい!……絶対に馬鹿な事は考えちゃだめよ!分かった?』
「……うん、分かったよ。」
 


通信を切り、改めて周囲の状況を確認しながら呟いた。
『全く、人を死にたがり見たいに言わないで欲しいよ。
僕はまだまだやらなければいけないんだ。』


とは言ったものの、先程の攻撃で自身の主砲は破壊され、残された装備は
虎の子の魚雷が数本のみ。


『山城にはあぁは言ったけど、最悪も覚悟しなきゃ、かな?でも!』


最後のあがきとばかりに魚雷を装填し、発射しようとしたその時、
聞き慣れた声が響いた。


「邪魔じゃけぇ!!そこどけやぁぁ!!!」
男勝りの威嚇と共に放たれた砲弾が、敵駆逐艦に命中し、爆発音と共に水柱が上がる。


「浦…風?どうしてここに?」
「あんた一人じゃ心配じゃけぇ、戻ってきたんよ!」
「でも、このままじゃ二人とも」


そんな考えが頭を過ぎったとき、自身の背後から複数の艦載機が迫ってくるのを
感知した。


『時雨~!生きとるか~!今からウチの艦載機の皆がお掃除始めるから
上手く避けてや~!』
『ふふふっ。私の村田隊もいますよ。』


「龍驤に翔鶴!?来てくれたんだ。」
 


龍驤達の言葉通り艦載機達が、敵艦隊を一掃するが如く猛攻撃を開始し
時雨の退路を確保する事に成功した。


その後、後発の支援艦隊の働きもあって、海域を離脱し無事母港へ帰艦する事が出来たが
時雨にとって、苦い記憶として残る戦闘であった。

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