おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏⑦

~forget me not~






7.【埋められない隙間】


~提督室内~


「時任一道大尉、只今到着致しました。」


「入りたまえ。」
 


入室の許可を貰い、部屋へ入ると谷崎と扶桑、それに2人の女性が並んでいた。


「おぉ、待ってたぞ。ん?時雨は一緒じゃないのか?」


「え、えぇ、今は外しております。」
そうばつが悪そうに答える時任を見て、意地悪そうに谷崎がいじり始める。


「なんだなんだ?もう夫婦喧嘩か?まぁ、犬も食わないんだから程々にな。
ま、冗談はさておき、こちらの二人を紹介しよう。金剛と翔鶴だ。
二人とも自己紹介を。」


「ではワタシからネー。金剛型一番艦の金剛デース!よろしくお願いしマース!」
「翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴です。」


「時任 一道大尉です。これから宜しく。」


一通りの挨拶が終わった後、谷崎が申し訳なさそうに時任へ話しかける。


「大尉すまない。君に預ける予定だった川内だが、少し事情があって
君の元へ着任出来なくなってしまった。本当に申し訳ない。」


「いえ、そんな風におっしゃらないで下さい。先日の9名もそうですが、
今日のお二人の様な、優秀な方たちをお預かり出来て光栄です。」


「Oh!大尉は中々女性の口説き方がGood!デスネー。」


「なっ!自分はそんなつもりでは…って、提督!時雨への回線を開いて
何をするつもりなんですか!」


「ん~?何の事かな?」
 


完全にいじられキャラとして確立しつつある、時任であった。
 


「さて雑談はこのくらいにしておこうか。扶桑、あれを。」


谷崎から指示を受けると、扶桑が1冊のファイルを時任へ手渡す。
受け取ったファイルは艦娘のリストで、6名の艦娘が記されていた。


戦艦:ビスマルク、正規空母:加賀、重巡洋艦:高雄、軽巡洋艦:神通
駆逐艦:秋月・綾波


「先日の話は覚えているな?そのリストに書かれている6名は、君の演習相手、
つまりは君が勝たなければならない相手だ。相手としては不足なかろう?」


リストに記されているメンバーは正にレギュラークラスであり、
不足などあろうはずもない。


「ワタシ達にも見せてクダサーイ!」
そう言って、翔鶴と一緒に時任に渡されたリストを眺める金剛。


「Hum……テートクー、結構容赦ないデスネー。」
「本当ですね。でも、私は加賀さんと手合わせ出来るのは楽しみです。」


「俺の事をそんな嫌な上司みたいに言わないでくれよ。
それに勝てなかったとしても、何かペナルティがあるわけじゃない。
ま、大きくなれよって言う親心かな?」


そう言った後谷崎は、口に人差し指を当てて『静かに』と言うジェスチャーをして
小声で話し始めた。


「大尉の表情を見てみろ。あれがリストを見て絶望した奴がする顔か?」


そう言われて金剛達が振り返ると、当の時任は顎に手を当て真剣な表情をしながら
ぶつぶつと何かを呟いていた。


「こうなると制空が・・だとして対空を・・・・夜戦に・・・・」


「Wao!」
「まぁ。」


「あいつの事は学生時代から知ってるが、首席を取るような奴でもなければ
名家の出でもない。
その代わり熱意を持って、人一倍努力をするタイプだったよ。」


自身の頭の中で試行錯誤しながら、様々なシミュレーションをしているであろう時任を
谷崎は誇らしげに見ていた。
 


「っ痛!」


時任はいきなり背中を叩かれ何事かと振り向くと、そこには満面の笑みで
サムズアップポーズを決めている金剛の姿があった。


「Hey!大尉ー。頭の中でStadyもいいけどサー、ワタシ達に任せてクダサーイ!
もし駄目だったとしても、当たって砕けろデース!」


「「「いや、砕けちゃだめだろ!」」」


谷崎達のツッコミを受けてなおドヤ顔の金剛へ向き直り、時任は礼を述べた。


「有難う金剛さ……いや、金剛。頼りにしているよ。
後、呼び方なんだけど「さん」付けはなしでもいいかな?
堂々としてろって、時雨に怒られるんだ。」


「No problemネー!Ah……でもノロケ話はNo thakyouでオネガイシマス!」


「そ、そんなつもりじゃ」


覆水盆に還らず、時既に遅し。
時任自身で踏み抜いた地雷によって、提督室は笑い声でいっぱいになった。


「大尉、私の事もお気軽に”翔鶴”とお呼び下さい。
五航戦、そして翔鶴型の力を存分にお見せします。」
「有難う、心強いよ。航空戦力に関しては龍驤も一緒に話を詰めようと思う。
その他の戦略については・・・」


時任達で演習の話が盛り上がりかけていた所、わざとらしく咳払いをした
谷崎が口を挟む。


「あー……話の途中で申し訳ないが、いいのかな?
『演習相手』の目の前で作戦会議などを始めてしまって。」
 


「……。扶桑、テートクはいつから覗きが趣味になったんですカ?」
「えぇ、私も注意してはいるんですが…聞き入れてもらえなくて……」
そう言って扶桑はわざとらしく袖口で涙を拭う仕草を見せる。


「って、おい!ここは俺の部屋!提督室!
そこでお前たちが勝手に話し始めただけだろう。全く、扶桑まで……」


恐らく、扶桑なりの助け舟だったのだろう。
時任の方を見て微笑んでいる表情からは、『たまにはやり返してもいいのですよ?』
そう言っているように見えた。


「あぁ、もうこれ以上は敵わん。大尉!後は会議室で続きをやってくれ。
それと三日後、さっき渡したリストのメンバーと演習を行うから、
君の方もメンバーを選んでおいてくれ。そちらは特に報告は不要だ。」


「了解しました!精一杯ぶつからせて頂きます!」


そう力強く宣言した時任は、金剛・翔鶴を従え提督室を後にした。


 


「なぁ、扶桑はどう思う。」
「何がですか?」


扶桑が煎れたくれた茶を啜りながら、扶桑に問い掛けた。


「大尉と他の艦娘、特に時雨の事。」


それを聞いた扶桑は、少しだけ難しい顔をして答える。
「まぁ、まだ日も浅いですし、時間が掛かるかもしれませんね。
でも貴方同様にお節介をやきたい気持ちもありますが、
出来るだけ見守った方が宜しいのではないですか?」


「だよなぁ……」


『なんだか二人の子供の親の気持ちだな』


そんなことを思っていた時、通信を知らせるアラームが鳴り、インカムを装着し
通信を繋げる。


『おーい。聞こえるー?』
「あぁ、良好だ。そちらの様子はどうだ?」


『ん~。今のところ目立った動きはないね。
ただやっぱり、提督の予想通り、大本営の中で対象はやや浮いているかもね?
詳しくはレポートを送信したから確認して。』
「そうか。ただ今後の動き方によっては、憲兵が動く可能性もある。
そちらも注視してくれ。」


『りょーかい!あ、それと、この任務が終わったら目一杯夜戦任務やらせてよね!』
「わかったわかった。くれぐれも用心を怠るなよ。頼むぞ。」
 


「川内さんの定時報告ですか?」
「あぁ。もしかすると、こちらものんびりはしてられんかもな。」


そう言って谷崎は、険しい顔で川内から送られてきたレポートに目を通し始めた。


 


 


 


~同時刻、鎮守府内~


時任からの指示を受け、電は時雨を探し歩いていた。


「……ここにもいないのです。」


間宮、工廠など、時雨が立ち寄りそうな場所を回ってみたが見つからない。
もしかしたらもう、自室に戻っているのかもしれない。
そう思って、電は艦娘寮の時雨の部屋へ向かった。
 


「時雨ちゃん、いますか?」
ドアをノックし、声を掛けるが返事が無い。
期待を込めてもう一度ノックをすると、小さく一言だけ返ってきた。


「……開いてるよ。」


返事を聞いた電は、ゆっくりとドアを開け部屋に入る。
部屋の中には、ベッドの上で両脚を抱えるように顔を伏せている時雨がいた。


時雨を見つけられた事に安堵した電は、側に近づき声を掛ける。


「時雨ちゃん、大丈夫ですか?」


時雨からの返事は無い。


「隣、座ってもいいですか?」
返事は無かったが、空けてくれたスペースに電は座って再び話し掛ける。


「時雨ちゃん、今日の演習の事はあまり気にして欲しくないのです。
今回みたいな演習は初めてで、私も鬼怒さんも……
というより私が一番上手く出来ていなかったのです。」


「・・・よ。」
「え?」


「違うよ。…そうじゃないよ、電。」
俯きながらではあるが、ポツリポツリと話し始める。


「別に一人でいい格好しようとしたとかじゃないんだ。
ただ、僕は例え演習でも負けたくない。」
十分わかっているよとでも言う様に電は大きく頷きながら聞いている。


「僕は…僕は強くなくちゃいけないんだ。もう艦船時代や、あの時みたいに…」
「…春雨ちゃんの事ですか?」


その名前を聞いた瞬間、時雨の身体が震えだす。
両手で必死に押さえる様子を見た電は、そっと抱きしめようとするが、
時雨に拒絶されてしまう。


「時雨ちゃん?」


「ごめん電。色々考えたいんだ。
一人にしておいてくれないかな?」


「……はい。」


 


時雨の部屋を出てからの帰り道、電はうまく話せなかったことに
もどかしさを感じていた。
「私も皆を守りたいのです。でも、強さって何なのですか?」


電自身もまた同じ様な悩みを抱えていた。


『大尉さん、電ではどうにもできなかったのです……」
そう心の中で時任に詫びていた。

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