おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏③

~forget me not~


3.【秘書艦カッコカリ】


大尉が僕に対して謝罪の言葉をかけてくれた事は、素直に嬉しく思う。


でも、そうじゃない。


別に同情して欲しい訳じゃないし、意地悪をする訳でもないけど
実際戦場で行動するのは僕たち艦娘なんだ。


ただしっかりと、導いてくれさえすればいい。


僕は僕のやれる事、やるべき事をやるだけ。それに……


 


軍人に過度な期待をしても無駄だと思うから。
 


 


「何だか変な空気になっちゃったね。
大尉、次に行こうか?」
 


「あ、あぁ、そうだね。そうしようか。」
 


そう言って時雨は話題を逸らすかのように歩き始め、鎮守府内の案内を再開する。


演習場や資料室、外観だけではあるが艦娘寮や入渠施設等も案内をした。
 


一方時任はと言うと、時雨の説明を聞き、熱心にメモを取っていた。
 


「ふ~ん、真面目なんだね?大尉は。あ、別に嫌味とかじゃないからね。」


「そんな事はないよ。分からない事が多いからしっかりと覚えないとね。
やっぱり性格なのかな?」


少し前のやり取りをやり返されたと思った時雨は、少しだけはにかんだ様子で答える。


「まぁ、いいさ。他にも何か興味があったら、何でも聞いてよ。」
 


そんな他愛もない会話が出来た事を嬉しく思う時任の目に、
一つの看板が目に入った。


時雨も気付いたようで、ポケットから懐中時計を出し時間を確認すると


「大尉、そろそろ一息入れようか?ちょうど好い所があるし」


「いいね。一度入ってみたかったんだよ。」


 


それじゃあ、と言って歩き出し、時雨が案内をしたのは甘味処『間宮』
 


「いらっしゃ~い!あら?」


「こんにちは間宮さん。こちらは時任大尉。
今日から鎮守府に赴任してきたんだ。」


「時任 一道です。評判の間宮にこられて光栄です。」


「貴方が時任大尉でしたか。あらぁ~。そんな評判だなんて。
煽てても甘味しかでませんよ?」
 


ここ間宮は、小さなお友達(駆逐艦)から大きなお友達(戦艦)まで
幅広い層から人気があり、艦娘だけでなく、鎮守府内に勤める人間からも
好評な憩いの場となっている。
 


余談ではあるが、昼の『間宮』と夜の『居酒屋風翔』の間で
熾烈な売上バトルが繰り広げられている鎮守府もあるという。
 


案内された席に座り、それでは一息・・・と思ったが、
間の悪い時は重なるもので、時任達と同じ様に一息しようと思って
来店した艦娘や遠征帰りの艦娘などなど様々な艦娘達に囲まれ、
中々終わらない質問タイムが始まる。


やれ歳はいくつだの、好きな艦娘のタイプはだのはまだ良いとして
好きな兵装だの戦闘機を聞かれても、人間である時任に使える訳がなく
一番返答に困る。


最初のうちは黙ってみていた時雨だが、流石に店にも迷惑が掛かると思い
止めに入ろうとした時、新しく入ってきた客の一声で騒動が収束する。
 


「何だ随分と賑やかだな。質問攻めもいいがお前たち、
その辺で勘弁してやれよ。大尉も時雨も困っているだろ?」
 


ふと声のする方を見ると、谷崎と扶桑がいた。
 


まだ話し足りないのか、不満を言う艦娘もいたが扶桑に促され
店内に静けさが戻った。
 


「助かったよ提督。それに扶桑も有難う。
大尉も少しは断ってくれればいいのに。」


あからさまに不機嫌な表情を向けられた時任は、面目ないといった表情で頭をかく。
 


「傍から見ていたら面白そうだから放っておこうかと思ったんだが。
まぁ、間宮にも悪いしな。それにしても……」


意地の悪そうな表情を時任に向ける。
 


「初日から大人気じゃあないか。えぇ?大尉?」


「よ、よして下さい谷崎提督!自分はそんな……」


「はっはっはっ!いいんじゃないか?興味を持たれるって事は悪い事ではないよ。


それで?大尉はどんな艦娘が好みって、、、痛っった!」


「……提督?」
 


涼しい顔をした扶桑の横では、谷崎が足を押さえ苦悶の表情を浮かべている。
 


何事かと驚いた表情をしている時任の横では、あぁ、いつもの事だと教える時雨。
 


「扶桑よ。いつもより痛いと思うのは気のせいかな?」


「いえ?いつもと同じかと。そんな事より提督、
他にお話しをする事があったのではないですか?」
 


「あぁ、そうだったな。
大尉、今後の君への教導課程についてだ。まず君には、
実際の艦隊運営に慣れてもらう為、うちの艦隊から数名の艦娘を君に預ける。
その艦娘達を率いて遠征・哨戒・出撃等の任務にあたってくれ。」


「はい!」


「初めの内は当然失敗もするだろう。私は失敗するなとは言わん。
しかし何も行動せずに失敗する事は許さん。
何故失敗したのかを考え、次に繋げる努力をしろ。


そういった姿勢や努力は、必ず我々や艦娘達が見ていると言う事を忘れるな。


私は君に、期待をしている。」
 


「はっ!必ずご期待に副える様、努力いたします!」


 


あぁ、こういう所なんだよね。


神保提督にもこんな風に言ってもらえたら……
行動してもらえていたら……


あの時、あんな事にはならなかったのに……
 


時雨は谷崎の言葉を聞いて、そう思わずにはいられなかった。
 


「当面は、私が率いる艦隊のバックアップという事になるが、
今まで君が学んできた知識を総動員して、思うように艦隊を動かしてみて欲しい。


それで、だ。


君に預ける艦娘なんだが、特に希望する艦種・艦娘はいるか?
あ、時雨は確定だからな。」


「……あぁ、成る程ね。それで僕が案内役に選ばれた訳だ。」
 


「お!察しがいいな時雨。まぁそれだけではないがな。」


「?まぁいいさ。僕は僕のすべき事をするだけだよ。改めて宜しく、大尉。」


「こちらこそよろしく!時雨。
提督、特に希望する艦種・艦娘はおりませんので、お任せ致します。」


「ん、そうか。では明日、改めて君に預ける艦娘を紹介するとしよう。」


 


と、その時、和やかな雰囲気の中、扶桑がとんでもない爆弾を投下する。
 


「あらあら。何だかこうしてみると、二人のお見合いの場みたいですね。
私と提督が仲人役で。」


 


「「はいっっ?」」
 


飲みかけのお茶を吹き出しそうになり咽こんでいる時任の隣では、
顔を真っ赤にしながら、扶桑に文句を言う時雨。


そして店内では、たまたま横を通りがかった伊良子が驚いて持っていた食器を落とし、
たまたま店内にいた隼鷹と千歳が、居酒屋鳳翔へ祝宴の予約を入れようとし、
谷崎に至っては明石に指輪の注文をしようとしていた。
 


谷崎が、折角騒動を収束させたにも拘らず、自身で悪乗りし
再び騒動を起こしたと言う事で、間宮に別室にて説教されたのは言うまでもない。


 


「いやいや、参ったよ。あそこまで間宮が怒るとは思わなかった。」
 


すっかりお説教で疲弊した谷崎の横では、扶桑が申し訳なさそうに小さくなっている。


「ただまぁ、お見合いってのは冗談にしても、これから何かと一人では
不都合な面もあると思う。
それをサポートするって事で、時雨を秘書艦にするってのはどうだ?大尉。」


「秘書艦、ですか……」
 


通常、鎮守府において最高責任者でる提督には、主にサポートの役割を担う
秘書艦が着くことになっており、任命する権限を持っている。
また、艦種に制限はなく、どの艦娘でも秘書艦になる事が出来る。


提督によっては日替わりで秘書艦を選んでいる所もあれば、
自ら猛烈に提督にアピール(婚活)し、秘書艦の座を争っている所もあるという。


ただ、秘書艦といっても、特に何か特別な恩恵が有る訳ではないので、
単に提督・艦娘の好みの問題と言えよう。
 


「ま、無理強いをするつもりはないが、二人にとって悪い話では無いと思っている。
互いの知識を合わせる事で良い結果を生む事もある。」
 


ふと、谷崎の言葉を静かに聞いていた時雨が問いかける。


「……他意はないんだよね?」


「ん~?どうだろうな?」


絶対に半分は面白がってるな、これ。


そう思いながらも、時雨が口を開く。


「わかったよ。取り敢えずって事なら、務めさせてもらうよ。
というか、大尉は僕でいいのかな?」


「勿論、問題はないよ。むしろこちらからお願いしたいくらいだよ。」
 


「よし!んじゃ決まりだな。ま、何か不都合があれば、
明日改めて紹介する艦娘から選べばいい。


取り敢えずは【秘書艦カッコカリ】ってとこだな。」


 


嵐のような騒動が終わり、谷崎達と別れた時任と時雨は埠頭を歩いていた。
 


気が付くと日が沈みかけ、水平線が紅く染まっていた。
 


「静かな海だな……」


「そうだね。」


ふとした時任の呟きに、時雨も返す。
 


「ずっと、こんな平和な海を眺めていたいな。」


「それは僕も同じだよ。でも、その為にはやらなきゃいけない事が山ほどあるよ。」
 


確かにね。時任は笑ってそう返す。


「まだまだ、お互いの事も分からない事だらけだけだし、
助けて貰うことがたくさんあると思う。
でも、時雨だけじゃなく、皆に信用、信頼して貰えるよう頑張るよ。」
 


「……信用、ね。」


少しだけ悲しそうな表情をして、時雨が呟く。
 


「時雨?」
 


「ううん、なんでもないよ。うん。
僕で良ければ、大尉の力になるよ。」
 


すると突然、時任が時雨に対し敬礼をしてみせる。


「これからよろしく!秘書艦殿。」


少しだけ驚いた表情を見せた時雨だったが、同じ様に返礼をしてみせた。


「【カッコカリ】だけどね。こちらこそよろしく!大尉殿。」
 


姿勢を崩した後、静かな海に二人の笑い声が響いていた。

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