おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏②

~forget me not~


2.【時雨の過去】


~鎮守府内~
 


「さて、と。
じゃあ、色々と説明をしようと思うけど、特に優先したい所とかはあるかな?」


「そうですね、じゃあまずは工廠を……」


「ゴホンッ!」


時任の言葉を遮る様にわざとらしく咳払いをし、嘆息する時雨。


「……敬語。」


「いや、ははは。手厳しいなこれは。」


「大尉、多分君の性分なのかもしれないけど、いずれはここの鎮守府で
提督になるんだから、僕としてはもっと堂々と構えて欲しいかな?」


「じゃあ、工廠を見てみたいんだけど、頼めるかな?
えっと、時雨、さん?」


「……時雨でいいよ。
ん……まぁ、いいさ。じゃあ、ご希望の工廠へ案内するよ。」


 


 


また、やってしまった…


そういうつもりではないのに、つい余計な一言が出てしまう。


仮にも上官に当たる人間に対して、少し言い過ぎたかと思いつつも
最初が肝心と思い直し工廠へと足を向ける時雨の後ろには、これまた
ばつが悪そうに頭を掻きながら、どうしたものかと思案顔の時任が続く。
 


 


「ここが工廠だよ。」


そう言って時雨の指し示す場所は、重厚な扉が門前にあり、
軍に関りの無い者が見ると、どこか物々しさも感じる建物がそこにあった。
 


「思っていたよりも、大きいな。」
 


時任が思わず声を上げ、建物を見上げていると、工廠の扉が開き中から
ツナギ姿の女性が出てきた。
 


「あれ?時雨じゃない。って、あららぁ~?男連れなんて、
時雨にしては珍しいじゃないの?」


「夕張…そんなわけ無いじゃないか。この人は」


「知ってるわよ~。新しく赴任してきた人でしょ?って、冗談なんだから、
そんな怖い顔しないでよ~。」


「まったく……大尉、一応紹介しておくね。この娘は夕張。」


「一応って、酷いなぁ。」
のっけから軽口を叩いてきた女性は、時任の方を向き、敬礼をしつつ自己紹介を始めた。
 


「軽巡洋艦 夕張です。兵装実験艦なので、出撃以外ではこの工廠に詰めている事が多いから、御用の際はお気軽に声掛けて下さいね!」


「時任 一道大尉です。
物を作る事には興味があるので、色々教えてくれると助かります。」


「物、か……」
 


時任の言葉を聞いた後、一瞬複雑な表情を見せた時雨だったが、
すぐさま何かを思い出した様な表情になり、夕張に問い掛ける。


「ねぇ夕張、明石は中にいる?」


「あぁ、明石なら中で画面と図面を交互ににらめっこしてるよ。」


「ありがとう。
大尉、少し外すけど、ここで待っててもらえるかな。直ぐ戻るよ。」


「あぁ、わかった。待ってるよ。」
 


いそいそと工廠の中へ入って行く時雨を見送っていると、先程とは違い少し翳のある表情をした夕張が時任へ話しかけてきた。


 


「大尉は、時雨を見てどう思いました?」


 


どう?と言われても、時雨とは今日初対面であり、会話らしい会話も出来ていない。
それを藪から棒に聞かれても、なんと答えてよいのやら。


ただ自分との会話の中で、少ないながらも距離を置かれている感じはした。


恐らくこの夕張という娘は、そういった第一印象を聞いているのだと思い
思った事を答える。
 


「うーん、そうだなぁ。まだ会話らしい会話をしてないから何とも言えないけれど
少し壁、と言うか距離を置かれている様な気がしたかな?
何かこう、他人を寄せ付けないと言うか。。。
特に彼女に何かしたわけじゃないから、嫌われたと言う事はない、、、はずだけどね」
 


そう時任からの答えを聞いた夕張は、『へぇ~』と言う言葉と共に
少し驚いた表情を見せる。


「中々に鋭い観察眼をお持ちの様ですね、大尉は。少し感心しました。。。
っと、偉そうにすみません。」


そう言うと夕張は、悪戯っぽく笑いつつも頭を下げ謝罪をした。
 


「そんな大層なものでもないよ。初対面でそこまで心を開ける人の方が
珍しいと思うけど?」


 
「そうですよね。私が特殊なだけかもしれませんけどね。」
 


確かに言われてみれば、この夕張という艦娘とはついさっき会ったばかり
であるにも拘らず、良く言えば親しみやすい、悪く言えば馴れ馴れしい。
そんな距離感を感じたのは確かである。


ただ出会った艦娘が少ないので、あくまでも時雨と比べてだが。
 


「悪い子ではないんですよ?私みたいなタイプからすれば、
もう少し力を抜けばいいのに、とは思いますけどね。」


そう言うと夕張は腕組みをし、うんうん!と大げさに頷いてみせる。
 


「まぁ、今日から暫くは一緒に行動してもらえるみたいだから、焦らずにやってみるよ。
自分の事をちゃんと理解してもらって、信用して貰える様にならないとね。」


「……信用、そうですね。
ただ……」
 


「ただ?」


少し間を置いて、夕張が口を開く。
 


 


「時雨はあまり、周りを信用していないんですよ。特に人間を。」
 


 


『えっ?』


人間を、信用していない?


どういう事だ?


着任挨拶の時に見ていた限りでは、谷崎提督とのやりとりでも
そんな風には見えなかった。
 


言葉を詰まらせたまま、考え込んでしまった時任を見かね、
慌てて夕張が続ける。
 


「あぁぁぁ、すみません大尉!別に、人間が嫌いと言う訳ではなくてですね、
何と言うか…


ん~……大尉は、谷崎提督が来る前の鎮守府の状況はご存知ですか?」


「い、いや、ごめん。分からない。」


「そう、でしたか。まぁ何れ判る事だし。大丈夫かな?」
 


そう言うと夕張は、大まかにではありますが、と付け加え、谷崎が着任前の鎮守府の
状況の説明を始めた。
 


以前の鎮守府は所謂”ブラック鎮守府”とまではいかなかったが、当時の提督であった
神保中佐の戦闘指揮が場当たり的な物であり、的確な指揮とは言えない物であった。


最初のうちは上官の指示と言う事で従っていた時雨だが、次第に不信感を募らせ、
独断で行動する事が増えた為に神保中佐から疎まれる様になる。


そんなある日、駆逐艦としては無謀とも言える任務を課せられ、旗艦として出撃し
結果として任務は達成できたものの、時雨自身は中破、僚艦四隻が大破、
そして一隻が行方不明という結果になってしまう。


然しながら、この戦果を如何にして困難な状況にも拘らず自分が先導し、
勝利をしたかのように上層部へ報告した為、結果的に神保中佐が大本営へ栄転となる。


この決定に思わず激昂してしまった時雨は、神保中佐に対し艤装を展開し、
銃口を向けてしまった為、一時は解体処分を言い渡されるも、
今までの功績や山城らの陳情もあり、処分は撤回された。
 


 


「と、まぁ、こんな経緯がありまして、人間不信というか、軍人不信なところがありまして。。。今でこそ谷崎提督に関しては、信頼をしているようですけど、着任当時は随分と苦労してたみたいですよ。」


「そんな事が……それで、行方不明になってしまった艦というのは?」


「あぁ、その艦娘は時雨の」
 


「随分とおしゃべりなんだね、夕張は。」
 


声がする方を見ると、冷めた表情をした時雨が立っていた。


時雨の顔を見て気まずい表情をしていた夕張はと言うと、『それでは!』と
一言を残して、そそくさと工廠内へと入って行った。
 


その場に取り残された時任も、特別悪い事をしていた訳ではないが、
思わず固まってしまって時雨に掛けていい言葉が思い浮かばずにいた。
 


「何れは判る事だし、聞かれればある程度は答えるつもりでいたけどね。
それで?夕張からはどこまで聞いたのかな?」


特に聞かれた事に関しての怒りと言うよりは、半ば呆れと言った感情が入ったトーンで
時雨が問い掛けてきた。
 


「そう、だね。大まかにだけど、谷崎提督が着任前の状況を聞いたよ。正直、
凄く驚いたし、同じ軍に所属している者として、申し訳なく思うよ。」
 


「何で大尉が謝るのさ。どんな理由であれ、僕が上官に対し反抗した事実は変わらない。
もしかして、上官に手を上げる様な艦娘には失望した?」


「……そんな事は、ないよ。」
 


自身の行動に後悔はない。言葉にしなくても、目でそう語りかけてくる時雨に対し、
時任はそう答えるのが精一杯であったと同時に、自身の偽らざる気持ちから出た
言葉ではあったが、月並みな事しか言えない自分自身にもどかしさを感じていた。

×

非ログインユーザーとして返信する