おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏㉓

~forget me not~
23.【それぞれの思惑】


~演習開始前の第二会議室~


「いいか、みんな。今回は敢えて、正面からぶつかって欲しい。」


これを聞いたメンバーの表情が一瞬にして曇る。


「What's?…まさかの特攻デスカ?」


「大尉、僭越ながら具申させて頂きますが、それはあまりにも無策ではないでしょうか?
それとも、私達では力不足とお思いなのですか?」


普段は大人しく、戦闘に関しては内に秘めるタイプの翔鶴までもが
時任の作戦案に異を唱えた。


「うん、僕も翔鶴と同じ意見だよ。
それだと、最初から勝ちを捨てている様に聞こえるよ?」


「そうだね。ある意味そうかもしれない。」


「大尉!それはないんじゃないかな?僕たちだって」


思わず立ち上がって、時雨が抗議をしようとすると、
龍驤がそれを宥めるように間に入る。


「まぁまぁ、ちょっとは落ち着きぃな。
よお~く大尉が言った事、思い出してみぃ?大尉は、”敢えて”って言うたんやで?
何か考えがあるんやろ、大尉はん?」


「有難う龍驤、その通りだよ。
ただ、勘違いはしないで欲しい。俺だって勝ちたいと思ってるし、
端から負けるつもりで君たちを選んだわけじゃない。」


「……詳しく聞かせてクダサーイ。」


時任は金剛の問い掛けに頷くと、ホワイトボードに作戦要綱を書き出し
熱心に説明を始めた。


不慣れながらも、自分の思いを込めながら、丁寧に。 


そして、一通り説明を終えると、メンバーの方を向き直り話し掛ける。
 


「これが、最終的に谷崎提督に勝つ為の作戦概要だ。」


「成る程……中々面白そうな作戦ではありますね。」


「そやね。ただまぁ、ちぃ~っとばかし詰めが甘い気がせんでもないけどなぁ。」
 


うん。
確かに作戦自体は悪くないと思う。でも龍驤の言いたい事も分かる。
机上の作戦で終わらなければいいけど……
 


本来であれば、秘書艦である自分が作戦についてのサポートをし
助言をするべきであろう事はわかっている。
 


だがもう一度軍人、いや人間を『信じてみたい』と思わせてくれた時任が
どの様に自分たちを導いてくれるのかを見てみたい。
時雨はそんな思いから、今回の作戦に口を出せずにいた。


すると、時雨の思いを知ってか知らずか
時任が改めて、メンバーへ話し掛ける。
 


「俺はこの通り、まだ何の実績もない駆け出しだ。
下手をすれば、君たちの足を引っ張るだけの存在かもしれない。
それに、君たちが出撃した後は弾も飛んでこない場所から待つ事しか出来ない。」


この時任の言葉を聞いた後、真面目な性格の朝潮が、挙手をして時任に問い掛ける。


「でも、それが司令官のお仕事なのではないでしょうか?」


「うん、確かにそうだね。でも、俺は君たちを預かる者として
可能な限り手助けが出来る存在でありたいと思ってる。


だから今回の作戦は、やけを起こしたとか、君たちを試すものではないんだ。
俺が君たちの信頼に応えられる様になる為、成長できる様力を貸してほしい。」


そう言って深々と頭を下げる時任に、翔鶴が歩み寄り声を掛ける。


「…つまりは、谷崎提督たちだけでなく、私たち11人に対する布石でもある、
と言う事ですか?」


「あぁ、そうだ。その通りだよ。
ただ、捉え様によっては君たちを利用していると思われるかもしれないが
そんな事は決してないと誓うよ。」
 


 


 


~演習場~


演習開始前、各々が装備を確認している中、旗艦の金剛と翔鶴
それに時雨を合わせた3名で作戦の最終確認を行っていた。


その中で、ふとミーティングの時の話になり…


「全く、あの言い方はずるいよね。大尉にあんな風にされたら
助けたくなるに決まってるじゃないか。ねぇ、みんな。」


「えぇ、そうですね。話を聞いていたら、この人にならこの身を任せてもいい、
そう思えますね。」


「Wao!時雨ー、これは強力なライバルの出現デスネー。
Ah……デモ、ワタシもちょーっといいなぁーとは思いマス。」


「え、ちょっ、な、なにを言ってるのかな、金剛は!
僕は別にそんなんじゃ……」
 


確かに、信用できる人だとは思うけど…
大尉に対してそういう感情は……
う~ん……どうなんだろう?


金剛は谷崎提督に対してもこんな調子だけど、翔鶴は?


い、一応聞いてみよう。
うん。大尉の秘書艦として、ね。
 


「ね、ねぇ翔鶴。さっきの言葉、あれは本当?」


そう言って小声で聞いてきた時雨に対して、
翔鶴が悪戯な笑みを浮かべながら返す。
 


「さぁ?どうでしょうね?ふふふっ」


無論、翔鶴にしてみればあくまで上官に対しての思いであり
特別な感情から出た言葉ではなかったのだが、時雨があまりにも真剣な表情で
聞いてきたので、ついからかってみたくなっただけなのだが…


「え?えぇっ!!どういう事?教えてよ、翔鶴!」


その手の感情に関しては、まだまだ疎い時雨にはその効果は抜群だったようだ。


『あー、おほんっ!リラックスするのもいいけど、そろそろ時間だ。
準備はいいかい?』


「あ、う、うん!大丈夫だよ。」
 


いけないいけない。集中しなきゃ!
僕は僕のやるべき事を、大尉の力になるんだ!


大尉の……
 


「Hey!大尉ー。時雨がお熱みたいだから、終わったら看病してあげてクダサーイ!」


『えっ?体調悪かったのかい、時雨。』


「な、なんでもない!大丈夫だから!!」
 


こ~ん~ご~う!
何を言ってくれちゃってるのかな?
睨んでみたけど、すっごい笑顔とサムズアップで返された…


まったく……演習終わったらどんな顔をして会えばいいのさ!


 


そうこうしているうちに、演習開始の信号弾が打ちあがる。
 


「さぁー!行きますヨー!Follw me!」


「「『了解!』」」
 


 


「さぁ~って艦載機のみんなー、お仕事お仕事~!
翔鶴、一気にいくでぇ~!」


「はいっ!」


先手を取るべく、龍驤の合図で艦攻隊及び艦爆隊を発艦させる時任艦隊。


だが……
 


『翔鶴に龍驤、攻撃隊からの報告はどうかな?』


「今入りました……えっ?まさか、そんな…」


「どうしましたカー?」


「第一次攻撃隊は、相手方の対空射撃により……ほぼ壊滅。
相手方の損害は…軽微。」


「っかぁ~、マジかいや。やっぱり秋月は敵に回したくないなぁ。」
 


『気落ちしてる暇はないぞ!続けて第二陣の準備を!』
 


時任からの指示を受け、翔鶴たちが発艦準備をしていたその時
対空監視をしていた朝潮から報告が入る。


「左舷上空!観測機です!」


「あれは……Shit! Every Body! break out !!!」


金剛の指示を受け、回避行動を取ろうとした瞬間、朝潮の悲鳴が響く。


「きゃあぁぁぁっ!」


「朝潮!」


時雨がすぐさま近づき、損傷度合いを確認する。


「…中破、だね。」


「だ、大丈夫、まだ、やれます!」
 


観測機を使っての正確な射撃、ビスマルクか!
まさか、旗艦がこんなに早く前にでてくるなんて……


「続けて来たよ!加賀さんの攻撃隊発見!」


「っ!早い!」
 


 


~時任艦隊指揮所~


「最上、現状は?」


「最初の砲撃で、朝潮が中破判定。
今は、艦載機からの攻撃を凌いでるみたいだけど…押され気味かな?」


 


出来れば、このままもう少し近づきたかったが……


「金剛!このままジリ貧になるのは避けたい。少し早いが作戦通り隊を分ける。」


『Hum……悔しいですけど、仕方ないネー。了解デス。』


「時雨は朝潮をカバーしつつ、鬼怒の援護を!いけるか?」


『それが僕の仕事でしょ。大丈夫、いけるよ!』


 


 


 


~谷崎艦隊指揮所~


「出だしはまぁまぁ…ってところだな。」


「そうですね。大尉からすれば、開幕の航空隊で
もう少しダメージを与えておきたかった所でしょうけど。」


「まぁ、うちの”対空の鬼”の網を抜けるのは至難の業だからなぁ。」


”対空の鬼”こと、『防空駆逐艦 秋月』
鎮守府内で、こと対空に関して、他の艦娘からは”右に並ぶものなし”
と言わしめる程の実力を持つ。
だが、この呼び名を本人はあまり好ましく思ってはいないようで…


『あのぅ……提督にお願いなんですけど。
その呼び方はやめていただけませんか?』


秋月から抗議の通信が入るが、とぼけた様子で谷崎が返す。


「あれ?聞こえてたか?気にするな、ただの褒め言葉だよ。その調子で頼むぞ。」


『もっと違う褒め言葉がいいです……』


『Admiral。最初に当てたのは私なんだけど、私には何もないのかしら?』


「おぅ、流石だなビスマルク。その調子でMVP取れたら、
ビールとヴルストをご馳走してやるよ。」


『Gut!私の活躍、そこでよく見てなさい!』
 


もう少し、緊張感と言うものを持って欲しいのですけど…
やはりここは、秘書官として一言言っておくべきかしら?


「あなたたち、今は演習中よ!もう少し」


扶桑が苦言を呈そうとした時、加賀から通信が入る。


『提督、あちらに動きがあるわ。
どうやら、隊を二つに分けたようね。』


ほぉう?
猪みたいに突っ込んでは来ないか。
その方がちと面倒かと思ったが……


「加賀、別れた面子の報告を。」


『金剛さんに翔鶴と龍驤が付いたみたいね。』
 


少しの間考え込んだ後、谷崎が命令を下す。


「よおし、こちらも隊を分けて応戦するぞ。
ビスマルク、高雄、加賀は金剛たちへ向かい旗艦へ攻撃を集中。
神通は秋月、綾波を率いて時雨たちの足止めだ。」


『『『了解!』』』
 


『さてさて、楽しませてくれよ。時任。』
 


谷崎は、子供のように無邪気な笑みを浮かべていた。

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