おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏㉔

~forget me not~
24.【机上と実戦】


「各艦へ通達!
当初の予定より少し早いが、これより艦隊を二分する。
以降は金剛、鬼怒にそれぞれの隊を任せる。」


『りょーかい!』
『任せてくだサーイ!』


 


「しかし、いざ実際に対峙して見ると秋月型の対空防御は流石の一言だな…」


「そうだねぇ。味方にするとこれ程心強い駆逐艦はいないんだけどね。」


「だろうな。しかし今は倒すべき相手だ。最上、次へ繋げる為にも
しっかりとデータ取りを頼むよ。」


「了解。任せてよ。」
 


恐らく提督は、こちらの一次攻撃隊はあえて受けたんだ。
しかも受けるだけでなく、しっかりと砲撃のおまけもつけて…
隊を二分する事は予定通り。


だけどこれも、恐らく提督は…


「大尉!金剛さんから入電。どうやら向こうも隊を分けたみたいだよ。
向こうはビスマルクに…加賀さんと高雄さんが付いたみたい。」


最上の報告に時任は頷き、すぐさま指示を出す。


「金剛は高雄の接近に注意しつつ、狙いをビスマルクに集中!
龍驤に翔鶴は、加賀をけん制しつつ金剛の援護!抜かれるなよ!」
 


やっぱり凄いな、谷崎提督は。
全てお見通しって訳か。


それでも、俺は提督を…この壁を乗り越えなきゃいけない。
 


「鬼怒!残りの神通たちを牽制しつつ、金剛隊と早めの合流に努めてくれ。」


『……ん~と、大尉。すこ~し難しいかもしんない。』


「どうした?」
 


 


~金剛隊side~


「龍驤、翔鶴。大尉の指示は聞きましたネー。
ソーセージへの対処はワタシに任せて、高雄と加賀への攻撃を!」


「了解や。あの高慢ちきな一航戦に一撃喰らわせたるわ!」


「翔鶴攻撃隊、発艦開始します!」
 


『かの一航戦と言えど、私と龍驤さんの航空隊相手なら!』


確かに戦歴で言えば、翔鶴・龍驤共に加賀には及ばない。
しかしそれはあくまでも場数の違いであって、潜在能力で言えば
勝るとも劣らない二人である。
 


だがこの日、二人は改めて一航戦の力を思い知らされる事となる。


 


 


「……こんなものですか?」


 


「そ、そんな……」
「嘘やろ……」
 


 


決して慢心などはしていない。
全力で向かっていったはず、だった。


二人の放った艦攻隊・艦爆隊は、加賀から放たれた艦戦隊によって
次々と撃墜され、数機はなんとか攻撃を潜り抜けて高雄を射程に収めるも、
今度は三式弾によって撃ち落される。
 


「ふぅ、流石提督、読み通りですね。
でも、いいのですか?脚が止まってますよ!」


声と共に高雄から放たれた砲撃は、脚の止まってしまった龍驤へ襲い掛かる。


「っやばっ!」


咄嗟に体を反転させ、直撃は避けられたものの小破判定を受ける龍驤。


「龍驤さん!!」


「止まるな!ウチはええから、早う動き!
そんで少しでも多く直掩機を上げて金剛を援護せな!次は本命が来るで!」
 


そう。
加賀から放たれたのは、見た限り”艦戦隊”のみや。


……艦戦のみ、やと?
もしかして、加賀の本命は……


 


 


~時任side~


「どうした?」


『……加賀さんの狙いは、こっちみたい。
うわぁ…空一面攻撃隊でいっぱいだぁ…
って、言ってる場合じゃない!時雨!背中、任せるよ!』


『了解!朝潮、君は回避に専念して!』


『わ、わかりました!』
 


迂闊だった…
この可能性を失念していた。
 


時任の当初の作戦はこうだ。


極力6隻で敵陣深く切り込み、相手方を分断させて挟撃に持ち込む、
はずだった。


しかし、自分の隊を分けるのが早すぎた為、谷崎に作戦を読まれた上
先手を打たれてしまったのだ。
 


「大尉!後悔するのは後だよ!早く指示を!でないと」


「あ、あぁ、分かってる。」


最上の声で我に返り、必死に知恵を絞る時任。
 


考えろ、考えるんだ!


幸いな事に、鬼怒・時雨には対空に特化した装備を持たせてある。


「龍驤さん小破判定!っと、朝潮が狙い撃ちされてる!
大尉、早く!」
 


「っく!鬼怒!攻撃機はあとどの位残ってる?」


『っと。…まだ半分くらい、残ってるかな?』
 


「……すまない。時雨を金剛隊へ向かわせたいが、そこは任せてもいいか?」


『…マジ?りょ、りょうか~い!』


「時雨、いいな?何とか隙をついて金剛たちに合流してくれ!」


『で、でも』


「無茶は承知の上だ。このまま何も出来ないまま、終えたくは無いんだ。
大丈夫、鬼怒ならやってくれる。」


『わ、分かった。なんとかやってみるよ。』


 


~金剛隊side~
 


「やってくれたなぁ。まさかウチらを無視するとはねぇ……」


「勘違いしないで頂戴。これは私と貴方の勝負ではないわ。
私たちはこの演習に勝つ為に行動しているの。
そして、その作戦を実行しただけ。」


「ほっほぉ~ん?もう勝った気でいるような口ぶりやな?」
 


しかしこのままやと、旗艦を狙う為に編成されたウチらの意味が無い。
それに、少しでも加賀の動きを止めんと時雨たちの合流が遅れる。


その為にもっ!
 


「せやけど、うちらは簡単に負けるつもりはないよっと!」


加賀から距離を取りつつ、艦載機を発進させる。


「ウチかて、アンタの足止めくらいは出来るんやで!避けられるかなぁ?」
 


「いいんですか?また脚が止まってますよ!
私の存在を忘れるなんて…馬鹿め!と言って差し上げますわ!」


高雄のお得意の台詞と共に放たれた砲撃によって、龍驤は中破判定となる。


「くっそぉ~…いつの間にぃ……」
 


「さっきも言ったでしょう。これは私と貴女だけの私闘ではないのよ?」
 


慢心したつもりはない。
が、結果として、加賀に固執するあまりに高雄の接近を許し
攻撃はおろか、味方を援護する事も出来なくなってしまった現実のみが残る。


 


『ちょっと加賀!おしゃべりはそのくらいで、こっちに直掩機をまわしてくれない?
っぐぅ…紅茶バカがしつっこいのよ!』


 


やれやれ、と言った感じに加賀は嘆息すると
 


「いいものを持っている筈なのに……がっかりしました。」


肩を落としている龍驤に対して、そう一言ポツリと漏らすと、ビスマルクを援護すべく
その場から離れていった。


 


「……大尉、聞こえるかぁ?ごめん、失敗してもうたわ。」


『あぁ、聞こえてる。今回は、俺の判断ミスが原因だよ。
次に繋げよう。』


「次、かぁ…」


空を見上げてそう呟く龍驤の頭に、一つのプランが浮かび上がる。


「なら、ウチなりにやれるだけの事はやっておくわ。」


『龍驤?ちょ、ちょっとまて、お前は中破してるんだぞ!一体何をするつもりだ?』


「まぁまぁ。ええからそこで見ときや。」
 


 


 


~鬼怒隊side~


まぁったく、大尉も結構無茶な注文してくれるよねぇ……


確かに対空に関してはレベルが上がっては来たと思うよ?
まぁ、ひとえに大尉の訓練メニューの賜物なんだけどさ。


でも、この編成だと私と時雨ありきな訳じゃん?


それを私一人ってさぁ……
 


でも……


『大丈夫!鬼怒ならやってくれる!』
 


……。
 


「それじゃあ、行くよ。って、鬼怒!この状況で何にやにやしてんの?」


「え?あ、うん。な、なんでもないって!大丈夫、まっかせなさい!」


 


ヤバイヤバイ、集中しなきゃ!


でも、あんな事言われたらさ…
 


「意地でもやってやろうって気になるっしょ!!」
 


そう叫びながら放った対空砲が、攻撃機を打ち抜いていく。
 


「ほらほらぁ~!どっからでもかかっておいで!」


「鬼怒さんの足元は私がカバーします!時雨さんは早く金剛さんたちの元へ!」


「朝潮…分かった。頼んだよ!」
 


この場を二人に任せ、その場を離れようとした瞬間
時雨の眼前で、大きな水柱があがる。
 


「……どこへ行くつもりですか?」
 


「じ、神通、さん……」
 


”通りたくば私を倒して行きなさい!”


まるでそう言っているかのように、神通が立ち塞がる。
 


「きゃぁあぁぁぁ!」


「っ朝潮!!」
 


朝潮の悲鳴を聞き、振り返ると大量のペイント弾を浴び、
大破判定となった朝潮の姿があった。


「やぁ~りましたぁ~」


「綾波さんは続けて鬼怒さんへ攻撃を。秋月さんは…」


「はいっ!対空監視を行いつつ、綾波さんをサポートします。」


自身の意を汲み取った行動を取る秋月を、満足そうに笑みを浮かべながら
見つめる神通だったが…
 


「ですが……」


朝潮の姿を見て、足が止まってしまった時雨を見て嘆息する。
 


「常に先手先手を取る為の次発装填速度の重要性、
それに初撃後の次発に備えた回避行動は口酸っぱく教えていたはずですが……
これでは、再度訓練が必要のようですね。」


冷たい視線を投げかけたまま、神通は時雨に対し主砲を向ける。


「どうしました?それとも、もう終わりですか?」
 


悔しい…


でも、何も言い返せない…


あれだけ厳しい訓練を受けたのに、その成果を発揮できていないんだから…


「時雨!!動いて!!!」
 


大尉、ごめん。
 


次の瞬間、一発の砲撃音が鳴り響く。


「……わざと外したの?」


神通が放った砲撃は、時雨の肩を掠めただけだった。


「…興が冷めました。貴方はもう攻撃するに値しません。」


「……。」


「貴方がそんなだから、”春雨さん”を守れなかったのも頷けますね。」
 


ドクン…。


神通からの思いがけない言葉を聞いて、
時雨は自身の鼓動が早くなっていくのが分かった。


「今の貴方の姿を彼女が見たら、どんな顔をするでしょうね?
もっとも、そんな貴方の姉妹艦だったのだから、
あの結果は仕方が無かったのかもしれませんね。」


「……てよ。」


両手を血が滲むほどに握り締めながら、搾り出すように声を発する時雨。
 


「はい?何か言いましたか?」


「今の言葉、取り消してよ!!いくら神通さんでも今の言葉は許せない!」


「事実でしょう?
現に貴方は今、言葉での反論はおろか行動すらしていない。


淡い期待を抱いた私が愚かでした。」
 


師と仰いでいたのに…


厳しさの中にも優しさ溢れる先輩だと思っていたのに…
 


慕っていた者からの、思いがけない言葉を聞いた時雨の頭の中で
何かが弾ける。


「黙れ…黙れ黙れ黙れ黙れぇ!!!!!


沈める・・・必ず沈めてやるっ!」
 


許さない……絶対に許さない!!!
 


時雨は神通を睨みつけた後、怒りに任せて突進を始めた。

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