おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏㉖

~forget me not~


26.【それぞれの真意】


「まずは、お疲れさんって所だな。」


「有難う…ございました。」
 


第一回目の演習は、結果・内容共にほぼ完敗。


時任にとっては着任後、初めての艦隊同士の演習。
しかもその相手が、歴戦の猛者である谷崎とあっては
その結果も当然といえば当然であろう。


演習終了後、内容の総括をする為に提督室を訪れた時任だが
その表情には疲労感の他、悔しさを滲ませていた。
 


「お?なんだなんだ?まさか一回目で俺に勝てるとでも思っていたのか?」


「い、いえ。そんな訳では…ただ…」


言葉を詰まらせ、動けずにいる時任に対し谷崎が続ける。


「何も出来無かった事が悔しい、か?」


「…はい。」


自身の心の内を読まれた事に驚きつつも、時任は素直にそれを肯定する。


 


「まぁ、初めのうちはこんなものだろうよ。
でも相手の戦力を分断させ、ある程度叩いた所で挟撃に持ち込むという
作戦自体は悪いものではなかったな。
だが、行動が素直すぎだ。」


時任が奇をてらわずに、正面から向かってきた事に関して一定の評価をしつつ
苦言も呈す谷崎。


「……はい。そう、ですね。ただ・・・」


「ただ?」


「艦娘たちは自分の作戦通りに行動してくれていました。
自分がもっと早く判断していれば…もう少し視野を広げていれば…」


「…ほぅ。貴様がもっと思うように動けていれば何とかなったと?」


「少なくとも、もう少し違う結果に」


次の瞬間、時任の言葉を遮るように谷崎の怒声が室内に響き渡る。


「自惚れるな!!これからの戦いを貴様一人の判断だけで押し通すつもりか?
俺は貴様の扱う道具として艦娘を預けたわけではないぞ!」


「い、いえ!自分は決してそのような…申し訳ありません……」


 


谷崎の本音として、時任がそんな事を思っているとは考えてはいない。
無意識のうちに与えられた課題に囚われ、自分を見失っているのではないか?
そう思った上での叱責であった。


 


「まぁあれだ。俺もたった1回の演習でお前を評価するつもりは毛頭無い。


いいか?見た物、感じた物全てを吸収し、己の血肉にしていけ。
これから貴様自身だけでなく預けた艦娘共々、一緒に成長して見せろ。以上だ。」


「はっ!ご指導頂き、有難うございました!
それでは、失礼致します。」
 


 


時任が退出した後、谷崎は内ポケットから煙草を取り出して火をつけた後
深いため息と共に煙を吐き出した。
 


「随分と大きなため息ですね。
幸せが逃げてしまいますよ?」


谷崎に一息つかせようと、お茶を運んできた扶桑が
にこにこしながら話しかける。
 


「いやまぁ、その…なんだ…
つい、言い方が強くなった、と思ってな。」


「大丈夫ですよ。大尉なら分かってくれているはずです。
それに、大尉の事を思っての事なのでしょう?」
 


”全てお見通し”と言わんばかりに、笑みを浮かべる扶桑に対し
谷崎は照れくさそうに頭を掻く。
 


本当ならもっと褒めてやりたかった。


たった数日間という短い期間でありながら、一癖も二癖もある艦娘たちを
若干制御できなかった部分があったにせよ、一つの艦隊として形にしてきた事は、
賞賛に値する。


それは恐らく、事前に時任から聞いていた事(時任の過去)
が関係しているのであろう。


最も、時任の話を聞いて全てを即納得出来るかと言えば、難しい所だ。


自分達の指揮官となる者が、深海棲艦と繋がりがあったなど前代未聞であり
”騙されているのでは?”と疑心暗鬼になってもおかしくは無い。


そこを上手く治められたのは、時任の人間性を少なからず評価した者が
多かったのだろう。
 


「まぁ、なんにせよ・・・」


白煙をくゆらせながら、谷崎が呟く。


「いずれ来る、実戦での行動で自分を表現していくしかないわな…」


 


 


~母港~


「朝潮、大丈夫かい?ほら、手を。」


「あ、有難うございます、時雨さん。」


演習開始早々に脱落してしまった事を気にしているのか、
朝潮はどこか申し訳なさそうに差し出された手を握る。
 


「今回の演習は残念な結果だったけど、次、頑張ろう…って
僕が言えた義理じゃないね。」


「そ、そんな事は」


「そうそう!誰かさんは途中で暴走しちゃうしねぇ~?」


「あぅ…」


鬼怒の言う通り、神通さんの挑発に乗って勝手な行動を取ってしまったんだ。
責められても仕方ないよね。


「あぁ~誰かさんがあの時、ちょ~っと冷静に行動してくれればなぁ・・・」


「ご、ごめんよ。凄く反省してる。」


「ほんとにぃ~?じゃあ、間宮さんとこの甘味で手を打とうじゃないかぁ!
それでいいよね、朝潮?」


「わ、私は今回皆さんの足手まといになってしまったので…」


「いいのいいの!じゃあ時雨、ごちそうさ~ん!」


そう言った後、鬼怒は時雨に向かってウインクをする。


”今回の事は自分の責任”
そう言って自分で抱え込んでしまう癖のある時雨の事を、
よく分かっているからこその鬼怒の気遣いであった。
 


「全く、もう。でも…」


『鬼怒、ありがとう』


面と向かって言うのは恥ずかしかったので、そう心の中で呟く時雨。
 


「でも、あれだよね~。神通はホント厳しいというか何と言うか…」


「今日はちょっと熱くさせられたけど…うん、でもやっぱり凄いと思う。
半端な気持ちじゃ勝てない…改めてそう思ったよ。
だからこそ、もっともっと頑張らなきゃ、だね。」


そう言って、今後の自身の気持ちを新たにした所に、
不意に背後から声を掛けられる。


 


「…良い心がけですね。その気持ち、忘れないで下さい。」


「じ、神通さん!お、お疲れ様でした。」


「はい。お疲れ様でした。」


軽く視線を合わせた後、簡単に挨拶を済ませてその場を去ろうとしていた神通に
鬼怒が突っ込む。


「神通~、今日は時雨に随分と厳しかったんじゃない?」


「…そう、でしょうか?いつもと同じですよ。」


振り向きざま、表情を変えずに鬼怒の問いにそう返す。


「そうかなぁ~?だって、いつもならあんな風に煽らないんじゃないの?」
 


そう。


鬼怒が言っているのは、演習中の僕と神通さんの会話の事だ。


僕が着任後、ずっと指導を受けていたからこそ、彼女の性格は理解している。
指導は厳しくとも、尊敬できる存在だった。
だからこそ彼女の物言いに対し、理解、と言うか納得が出来ない。


 


”どうしてあんな事を、春雨の話を持ち出したのか?”


 


演習が終わり完全に頭が冷えた今でも、その真意はわからないままだ。
 


「まっ、別にいいんだけどね。でも、あんまり苛めると嫌われちゃうぞ~?」


そう言っておどける鬼怒に対し、神通は言葉を発する事はなかったが
少しだけ寂しそうな表情をしていた。
 


「では、私はこれで…」


「じ、神通さん!」
 


神通が吐いた言葉の真意は分からない。


しかし、自身も演習中吐いた言葉は、頭に血が上ってしまって、
売り言葉に買い言葉とはいえ、到底、師に対して向けるべきものではないものだ。
それについては謝らなければ…


そう思い、時雨は神通を呼び止め、謝罪の言葉を口にする。
 


「あ、あの…演習中は、その……すみませんでした。」


「別に、気にする程の事ではありませんよ。
ただ、貴方を指導した者として言わせて頂ければ、今日の演習だけでなく
これから経験した事を次に生かすも殺すも、貴方の気持ち次第。


その事は忘れないで下さい。」


「はいっ!」


時雨の返事を聞いた神通は、少しだけ口元を緩めその場を去っていった。
 


そして、演習後に師弟のやりとりもある一方では・・・
 


 


「あらあら、随分と派手な色合いの艤装ね?新しく改装でもしたのかしら?」


「Shut up! 次はこうはいかないから、覚悟しとくデース!」


 


”また始まったよ・・・”


そんな周りの声が聞こえてきても、お構いなしに繰り広げられる
ビスマルクと金剛のいつものレクリエーション。
 


「Di〇ser 〇diot!」


「Kiss my 〇ss!」


 


「・・・な、なぁ、あれってそろそろ止めた方がええんちゃう?
駆逐艦もおるんやし、ちょっとあかんやろ?」


「で、でも私たちで止められるかどうか・・・」


二人の様子を遠巻きに見ていた龍驤と翔鶴が、間に入ろうとした時
加賀が声を掛け、二人を止める。


「問題ないわ。助っ人を呼んだから。もう直ぐ来るでしょう。」


「助っ人て誰を・・・ひっ!」


何気なしに龍驤が振り向くと、そこには・・・
 


「そんなに怯えてどうかなさいましたか?」
 


龍驤が怯えるのも無理は無い。


そこに立っているのは、柔らかな表情を作りながらも
禍々しいオーラを纏った谷崎の秘書艦、扶桑なのだから。


 


「い、いや別に・・・あはははぁ。
ほ、ほな翔鶴!うちらはもういこか!大尉も待っとるやろうし。」


「はい。ではまた。


さて、と。」


 


数秒後、戦艦二人の息の合った叫び声が響き渡った。


 


「全く、あなた方は他を引っ張る立場でしょう?
レクリエーションもいいですけど、もっと自覚を持って下さい。」


「「ごめんなさい・・・」」
 


扶桑に特大のカミナリを落とされ、すっかり小さくなってしまった
金剛とビスマルク。


二人の脳裏に、改めて怒らせたらまずい人が刷り込まれた日であった。

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