おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏⑮

~forget me not~


15.【交わり始めた運命】


今から20年程前の事。
それまで深海棲艦からの攻勢に、なすすべなく敗走を続けていた人類の前に
艦娘という存在が現れた。
深海棲艦と同等の力を持つ艦娘たちの力を借り、徐々に制海権を取り戻しつつあった頃、まだ戦火が届いていないとある小さな漁村付近に、傷ついた1体の深海棲艦が
流れ着いた。


辛うじて生きてはいるものの意識はなく、そのまま放って置けば間違いなく
息絶えたであろうし、感情を剥き出しにした住民の手にかけられても
おかしくは無かったが、発見された深海棲艦は、漁村に住む人間たちによって
一命をとりとめ、保護される事となる。


戦時中と言う事を考えれば、人類の仇敵とも言える深海棲艦を助けるなど
誰もが思わないであろう。
では何故、流れ着いた深海棲艦は人間に助けられたのか。


その深海棲艦が保護された理由は二つあった。


一つは、その漁村に住んでいる人間の殆どが、現在の争いをあまり好ましく思っておらず
以前にも、漂流してきた者には人種を問わず、手厚く看護をしてきた集落であった事。


そしてもう一つは、傷ついた深海棲艦が意識を失いながらも、自身の腕の中で、
我が子を守る母親の様に”人間の幼子を抱かかえていた事”である。


何か、深い事情があるであろう事は分かったが、深海棲艦の意識が戻ってからも
誰一人としてその理由を聞こうとはせず、ただただ献身的に看護を続けてた。


その甲斐あってか、体の傷も良くなり、初めのうちは殆どコミュニケーションを
取ろうとしなかった彼女だが、一人の老女に対しては、少しずつ心を開き始めていた。


その老女は、一人で暮らしている言う事もあってか、特に献身的に看護をしており
彼女だけでなく、抱えていた幼子も同様に良く面倒を見ていた人物である。


ある日の事、老女が食事や身の回りの世話をしてくれていた時
深海棲艦は自身が疑問に思っている事を聞いてみた。


何故、こんなにも親身になって世話をしてくれるのか?
私の事は怖くは無いのか?
私は貴方たち人間の敵であり、憎くはないのか?


すると老女は穏やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと彼女の問いに答えていった。


”困っているものを助けるのは当たり前の事。それは種族は関係の無いこと”
”怖くは無いと言ったら嘘になるが、人間の子供を守っていた貴方に害は無いと
皆が思っている”


そして最後の問いについては、少しだけ哀しそうな表情をしながら
こう答えた。


”お互い、自分たちの事を守る為に戦っている事は理解は出来る。
しかし、戦い続けたその先には何があるのか?
私達は出来る事なら、お互いがいがみ合う事が無い世界を望んでいる”


「それに……」


そう言った後、老女は彼女の目を真っ直ぐに見つめこう続けた。


「アンタも私と同じ様な気持ちを持っているんじゃないのかね?」


「……ナゼ、ソウ思ウ?」


「アンタは他の深海の娘らと違って、どこか優しい雰囲気を感じるからさね。
それに、人間を目の敵にしてるなら人間の子供を守ったりはせんじゃろう?」


「コ、コレハ……」


「こんな年寄りでもよければ、話くらい聞いてやるさね。
話してみんさいよ。」
 


少しの間、彼女は目を閉じ、何かを考え込むようにしていたが
助けてもらった恩人にならば・・・そう思い、ここに流れ着くまでを
老女に話し始めた。
 





~某日~
港湾棲姫は、艦隊を率いてとある島付近にて人間と艦娘を相手に
激戦を繰り広げていた。


しかし、今でこそ深海棲艦にとって、艦娘の登場は脅威ではあるが
当時は練度の問題もあり、損害は受けるものの、深海側の優位は変わらなかった。


その日も、人間と艦娘は必死の抵抗を見せたが、敗色濃厚と見るや
前線から撤退していった。
 


自分たちの制海権下ならば、もう問題は無かろう。


そう判断した港湾棲姫は、自分以外の艦隊を引き上げさせた後
近くにあった島に一人で降り立った。


その島には、小さいながらも人間の住む集落が”あったであろう”跡があったが、
建物の様なものは崩れ落ち、周囲の木々は未だ火が燻っていた。


「何モ……何モ……分カッテイナイ……」


哀しい目をしながらそう呟いた後、暫く戦火の痕を眺めていた。


静かに暮らしたい。


ただそれだけなのに……。


比較的好戦的な深海棲艦が多い中、数少ない穏健派の港湾棲姫は
現在の人類との戦争を、と言うより争い自体を好ましくは思っていなかった。


”誰を殺し、誰が殺された”
それに何の意味がある?


港湾棲姫はこの人類との争いにおいて
常に葛藤があった。


しかし、自分たちの存在を脅威に思い
自身の生活を脅かす人類を迎え撃たない訳にはいかない。


過剰に人類を刺激し侵攻を続ける同朋も数多くおり、港湾棲姫の力を持ってすれば
それらを排除することは容易いが、それも彼女の本意ではない。


「私ハ一体、ドウスレバ……」
 


もう戻ろう。


そう考え、島を出ようとした彼女の耳に、物音と何かの声が聞こえてきた。
 


敵か?
いや、もし敵であればもっと早い段階で狙撃なり砲撃をしてくるはずだ。


では何だ?
周囲を警戒しつつ、辺りを見渡していると、崩れかけた建物の方から
人間の幼子と思われる泣き声が聞こえてきた。
 


恐らく親とはぐれたのだろう。
しかし、このままではいずれ可哀想な結末を迎えるのは目に見えている。


”何とかしなければ……しかし……”


港湾棲姫は鳴き声が聞こえる建物へ近づくが、数メートル手前で立ち止まり
一つため息をついた後、建物に向かって声を掛ける。


「無駄ダ。ソンナ物デ、私ヲドウニカ出来ル筈ガナイダロウ?」


「……そう、だろうな。」
 


建物の中からは、幼子を片手で抱かかえた軍人らしき人間の男が、
銃口を港湾棲姫に向けたまま、足を引き摺りながら姿を現した。


暫くの間黙って対峙していた二人だが、男が黙って銃を下ろし、沈黙を破った。


「最後に一矢報いようと思ったんだが、どうやら無駄なようだ。
もう、煮るなり焼くなり好きにしろ。
だが、この赤ん坊は勘弁してやってくれないか?」


男は自分の最後を覚悟した上で、抱えていた幼子に情けを懇願すると、
地面に座り込んでしまった。


その様子をじっと見つめていた港湾棲姫だが、周囲を改めて見渡し
他に誰もいない事を確認した後、静かな口調で男に問い掛けた。


「……此処デ何ヲシテイル?ソシテ、オ前ハ何者ダ?」


港湾凄姫の意外な問い掛けに、男はあっけにとられた様子で固まってしまう。


てっきり情け容赦なく自分もろとも抱えた幼子も殺されてしまうだろうと
思っていたからだ。


男は暫く港湾棲姫を見据えて考えていたが、問い掛けの意図も分からず
周りの状況を見ても、どうこうできる物ではないと判断し
素直に自身の置かれた状況を話し始めた。


「ご覧の通り、俺はついさっきまでお前たちと戦っていた軍人だ。
しかし、このざまで逃げ遅れたと言うわけだ。」


そう言って男は、血で赤く染まった自身の脚を指差し自虐的に笑った。
 


「ソノ子供ハ、オ前ノ子供ナノカ?」
 


『随分と饒舌な深海棲艦もいたものだ。』
男は続けざまに質問をしてくる港湾棲姫を不思議に思いながらも
正直に答えを返す。


「いや、この子は撤退途中に見つけた子供だ。
両親と思しき人は近くに倒れていたが、駄目だった。
それで、このまま放っておく訳にもいかず、一緒にいたと言うわけさ。」


そう言いながら、再び泣き始めた幼子を不器用ながらもあやしていた。


「俺にはまだ妻と呼べる人も子供も居なくてな。
っと、よーしよし。……中々難しいなこれは。」


色々と手を尽くして幼子を泣き止まそうとしてはいるが、一向に治まる気配がない。
むしろ泣き声は大きくなるばかりだ。


暫く黙って男のやり方を見ていた港湾棲姫だったが、男の下へ近づき
男の眼前に両手を差し出した。


「え?」


「私ニカシテミロ。」


突然の申し出に、男は戸惑う。


「い、いま静かにさせるから、もう少し待ってくれ!
頼む、こんな小さな子の命を」


「イイカラ、早ク寄越セ。」


有無を言わせない圧のある口調ではあったが、どこか不思議な温かみを感じ取った男は
恐る恐る抱えていた幼子を、港湾棲姫へ手渡した。


男から幼子を受け取った港湾棲姫は、両手で優しく包み込むように抱かかえた後
黙って男の隣に座る。


するとどうだろう。


港湾棲姫に抱かかえられた幼子の鳴き声は次第に小さくなり、
ついには彼女の腕の中で、安らかな寝息を立てていた。


男は一部始終を見ていたが、港湾棲姫は特別なことをしているようには見えず
自分との違いが全く分からずにいた。


一体何をしたのだろう?


そう思いながら港湾棲姫の顔を見た時、男なりに理解をする事が出来た。
 


「成る程な。今の俺には無理な訳だ。」


「……ナンノ事ダ?」


「お前さん今、本当の母親みたいな優しい顔をしてるよ。」


「……何ヲ、馬鹿ナ事ヲ……。」


思っても見なかった言葉を掛けられ、照れてしまったのだろうか。
そう言って港湾棲姫は、顔を男から背けてしまった。


 


少しだけ、口元に微笑を浮かべながら。

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