おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏㉚

~forget me not~


30.【疑心】



~南方鎮守府~


暫く静かだった鎮守府内に、けたたましいサイレンと共に館内放送が鳴り響く。


『緊急招集です。時任大尉及び秘書官時雨の2名は、速やかに提督室へ出頭願います。
繰り返します。時任大尉……』



第二会議室内にて執務を行っていた時任と時雨は、無言で目を合わせたのち
急ぎ提督室へと向かった。





~3日前、西方海域周辺~





「ふぁあ~ぁあ・・・・・・長閑な海だねぇ。」


「おいおい、いくら暇だからってちゃんと哨戒任務はやれよ。」


「わぁ~かってるって。でもそんな事言ってもさ、こう静かだとつい、な?」


「まぁ確かに、うちは北方や東方に比べたらなぁ…」



そう言って哨戒中の船上から、現状をぼやく見張りを担当している男が二人。


ここは西方海域周辺。担当は西方鎮守府。


現在稼働している鎮守府は合計で5つ。
軍の中枢を担う『中央鎮守府』を中心に、各方角に1つずつ設置されている。


北に”北方鎮守府”
東に”東方鎮守府”
南に”南方鎮守府”
西に”西方鎮守府”


そしてそれらをまとめる”中央鎮守府”の計5つで
谷崎や時任達が所属しているのが南方鎮守府。


その5つの中でも、比較的深海棲艦との交戦機会が少ないのがこの西方鎮守府である。




そうは言っても、何もしない訳にもいかず、二人の見張り員は
再び周辺の警戒任務を始めた。




やがて陽が落ち始め、周囲が暗くなり始めた頃、一人の見張り員が自身の腕時計で
時間を確認する。




「さぁて、と。そろそろ交代の時間だな。
こっちは特に異常なしっと。よぉ、そっちはどうだ?」
背中越しにもう一人の見張り員に尋ねるが返事がない。



『全くしょうがねぇなぁ…今度は居眠りでもしてやがるのか?』




「おい、返事くらい」



流石に小言の一言でも言ってやろうと、男は同僚の方へ向き直るが
眼前に飛び込んできた、異様な光景を見て言葉を繋ぐことが出来ない。



男が振り返り見た方角には、同僚の”見張り員であろう”姿は確かにあった。


ただ、いつも見慣れた男の姿ではなく、両腕をだらしなくぶら下げ
全身が白く、得体の知れない化け物の様な者に高く持ち上げられ、
頭を握り潰された姿で…



「あっ、あぁっ!…だっ……」


男が恐怖のあまり思うように声が出せずにいるのを
得体の知れない化け物は、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら
男に話し掛ける。


「ハハッ!次ハ、オ前ガ遊ンデクレルノ?」


「お……おま…お前……は」



男は何とか声を絞り出そうとするも、中々言葉が続けられない。



「ナンダヨ、言イタイ事ガアルナラサッサト言イナヨ。





ソレトモ……手伝ッテ欲シイ?」






そう言うと化け物は、怯える男の頭を掴みながら、自身の頭上まで軽々と持ち上げる。



「あがっ!…いぃぃっ!!」


「フーン。ココヲ掴ムト”音”ハ出ルンダ。ジャア!」



次の瞬間、化け物はその手の中にあった男の頭を
まるで柔らかい果物の様に握り潰した。



「アレレ?”音”、出ナクナッタ。ツマンナイノ…






ニンゲンッテ、脆イ生キ物ダナァ。」




化け物は暫くの間、動かなくなった男を様々な角度で眺めていたが
ふと耳元に手を当てるような仕草をした。



「何?今楽シンデル所ナンダケド。



……ハァ?コレカラモット楽シメルンジャナイノカヨ?




…ダケドサァ…




アァモウ!分カッタヨ!戻レバイインダロ!」



化け物は悪態をつきつつ、艦から海へ飛び込もうとした時
艦内から出てきた別の人間に見つかる。



「お、おおお、おい!そこで何をしている!!」


「アーア、見ツカッチャッタ。ジャア仕方ナイヨネ?



戻ルノハ











残ッタ奴ラヲ、ブッ壊シテカラダケドネ!!!」













~南方鎮守府提督室~



執務中の谷崎の元へ、緊急の電文が届いた事を知らせる為
秘書艦の扶桑が緊張した面持ちで入ってきた。




「どうした扶桑、そんな顔をして。」


「提督、これをご覧になって下さい。」



谷崎は扶桑から電文と共に受け取った資料に黙って目を通す。



「ふむ……。」


一通り目を通した後、考えを纏める為に腕を組んで目を瞑っていた谷崎だが
徐に立ち上がり、秘書官である扶桑に命令を下す。


「扶桑、現時点で遠征及び哨戒に出ている艦隊に通達。現任務を即時破棄し速やかに帰投、
帰投の際は周辺の警戒を厳とせよ、とな。
それと、直ぐに動ける艦娘のリストアップだ。艦種は問わん。」


「了解しました。」


「それと…」


「時任大尉の招集、ですね?」


「あぁ、頼む。」


谷崎は、阿吽の呼吸ですぐさま行動に移した扶桑の背中を頼もしく見つめていた。




数分後、提督室にて招集に応じた時任と時雨を含めた4名だけの緊急会議が
始まった。



「急に呼び出してしまって悪かったな、時任。」


「いえ。それで一体何があったのですか?」


「まずはこれらの資料を見てくれ。」



そう言って渡された資料と電文に目を通す時任。



資料にはこう書かれている。



発:中央鎮守府司令部
宛:各方面鎮守府代表




先日、西方海域にて哨戒をしていた艦との連絡が途絶した為、急遽捜索隊を派遣。
同日、煙を上げ漂流中の哨戒艦を発見するも、乗組員は発見できず。
しかし、艦内及び艦外の至る所に血痕の様なものが残されており(※添付資料参照)
何らかの事故、または戦闘行為があった可能性を認む。


以後、中央が事故及び敵の襲撃両面にて調査を継続するが、各方面の警戒を厳とし
引き続き任務に当たられたし。





渡された資料に一通り目を通した後、時任はそれらを返し谷崎に問い掛ける。



「見たところ、艦はそれ程損傷が見られず、乗組員のみ不明というのは腑に落ちませんね。
考えたくはありませんが、人間同士の争い…という事も?」


「確かにお前の言う通り、気の緩みから起きた醜い争いというのも一つの線ではある。
まぁ現場だけを見れば、そうとでも考えない限り、出来の悪いミステリーに
なっちまうわな。



ただ…」



そう言った後、谷崎は手にしていたタバコを灰皿に押し付けながら続ける。


「これは、あくまでも俺個人の推測に過ぎんのだが
恐らく深海側との戦闘があったんじゃないかと思う。


考えてもみろ。幾ら戦闘機会が少ない西方だからといって、哨戒に出る奴らも
それなりの練度の筈だ。そいつらが緊急時のSOSも発信できずに
行方をくらましたって事は…」


「深海棲艦からの急襲を受けた…と?」


「あぁ。ただ如何せん情報が少なすぎる。そこで、だ。
明日から哨戒強化の名目で、隊の臨時編成を行うんだが、お前の隊からも
3名選抜してくれ。」


「了解しました。では編成表を急ぎ作成し、改めてご報告に上がります。」



そう言って立ち上がり、提督室を後にしようとした二人だったが
谷崎に呼び止められ足を止める。


「あぁ、ちょっとまってくれ。扶桑、頼む。」


扶桑は谷崎に促されると、室内のカーテンを閉めた後、入り口付近を見回して
部屋の鍵を閉める。


「え?ちょっと、扶桑何やってるの?」



心配そうな表情で尋ねる時雨に、谷崎は笑いながら着席を促し
話を始める。



「最近周囲でどうも”きな臭い話”が多くてなぁ…用心する意味でこうさせて貰った。
あぁ、勘違いするなよ?お前らをどうこうって訳じゃあない。
あまり他人に聞かれたくない話だったもんでな。」



そう言って谷崎は、改めて二人に向き直り話始めた。

×

非ログインユーザーとして返信する