おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏⑥

~forget me not~





※前回のあらすじ


無事、貸与予定の艦娘達と(一部を除いて)合流出来た時任。


時雨の予想通り、一筋縄ではいかない様子。





6.【届かぬ想い・すれ違う心】


~演習場~
 


「左舷に雷跡確認!電!回避運動開始して!」


「はい!なのです!」


「鬼怒は対空警戒!そろそろ…来たよ!」


「りょ~かい!ほらほら~鬼さんこちら!手の鳴る方はこっちだよ!」


時任が艦隊を任されてから数日が経ち、試行錯誤の繰り返しではあるが
少しずつ、艦隊の体をなしてきた。


今は時任考案による、演習の真っ最中である。
 


その内容というのは、3人1組で出撃し、海上に設置してある
目標物を撃破するというシンプルなものではあるが、
敵役として爆撃要員・砲撃要員・雷撃要員を配置し
それぞれがランダムで攻撃をしかけるというもの。


状況は常にモニタリングされており、リアルタイムで第二会議室に転送されている。
 


「朝潮、足元がお留守になってる鬼怒へ魚雷発射。」


「了解しました!大尉!」


時任の指示で発射された魚雷が鬼怒へ向けて真っ直ぐ進む。
 


「ほらほら~どっからでもかかっておいで~!」


ノリノリで対空射撃を行っている鬼怒の右舷では、時雨が目標物を捕らえて
それを狙いつつ、電に指示を飛ばす。


「電は回避完了後、鬼怒のサポートに回って!よし、いけるよ!」
 


そして主砲のトリガーに指を掛けた瞬間、
左舷から衝撃音と共に鬼怒が悲鳴をあげる。


「はにゃっ!……いったぁ~……ちょっと調子乗ったかもだけど
上からも下からもって、マジぱないよ~!」
魚雷を受け、体制を崩したところに艦載機からの爆撃も受け、
鬼怒が大破判定となってしまう。


「っ!魚雷?だけど、まだ!」
「!?時雨ちゃん!、単騎での行動はダメなのです!待つのです~!」
 


電が引き留めるのも聞かずに、単騎で再度標的へ向かう時雨。


だがしかし、無情な指示が時任より発せられる。


「ポーラ、時雨へ向けて砲撃開始。」


「いいんですか~? じゃあ撃ちますよ~? Fuoco!」
 


完全に冷静さを失っている時雨に、この砲撃を躱す余裕などなく
敢えなく大破判定となる。
 


数秒後、演習終了を知らせる合図、すなわち撤退の信号弾が打ち上げられ
同時に時任から三人に無線連絡が入る。
 


「時雨、鬼怒、電の三名は艤装を格納後、第二会議室へ集合。いいね?」


「……了解。」
「は~い……」
「はい……なのです。」


 


「……ふぅ。」


モニターの映像を切り、ため息をつきながら天井を見上げ、
時任は昨日の事を思い出していた。


 


~演習日前日 第二会議室内~


演習予定の三名を会議室内に集めて、時任は事前の説明をしていた。
 


「と、いう内容の演習を行って貰う予定だけど、何か質問はあるかな?」


そう言った後、鬼怒と電は難しい顔をしていたが、時雨のみが挙手し
時任に問い掛けた。
 


「これって、条件は厳しいものがあるけど、勝利条件としては
標的を撃破すれば勝ちって事でいいんだよね?」


「あぁ、勿論そうだよ。ただ条件的に難しいんじゃないかな?」


「それはどう言う意味かな?
僕たち程度じゃ、こなせないって思われてるのかな?」


時任の返答を聞いた後、明らかに不機嫌な表情を作った時雨が言葉を返す。
 


「違う違う。自分の言葉が足りなかったね。そう言う意味ではないから
鬼怒も電もよく聞いて欲しい。


自分がこの演習について重要視しているのは、勝利する事よりも
危機的状況での判断力・行動力を養ってもらい、そして如何にして
生き残るかを考えて欲しいんだ。」
 


「勿論勝てるに越した事はないよ。でも、実際戦闘になって
予測と違った行動を見たり、自分の体が上手く動かせなかった。
そんな事が無かったかな?」


これを聞いた電は大きく頷いていた。


「確かに、何度かあったのです!」


「多分、谷崎提督もおっしゃっていたと思うけど、これは言葉だけでは
教えられない事なんだ。実際に経験をして学んでいく物なんだよ。


例えば、自分たち軍人は君たち艦娘へ指示を出し、戦場へ送り出すけど
もし、戦闘中に我々との通信手段が途絶えてしまったらどうする?
そんな時に頼りになるのは君たち艦娘の状況判断だ。」


当然、谷崎の指導方法と被っているとは思いつつ、
改めて自分の思い、考え方を理解してもらおうとしていた。


そんな中、時雨だけがどこか
”納得がいかない”
そんな表情をしていた。


確かに時任の言っている事は間違ってはいないし、理解は出来る。
でも、少し考え方が甘いのではないか?
そんな事を考えていた時、時任から声を掛けられる。


「時雨は何か意見があるかい?」


「……いや、大丈夫だよ。」


「そうか。もし、何かあればいつでも言って欲しい。では、明日の演習、
よろしく頼むよ。」
 


 


~演習後の第二会議室内~
 


「まずは、演習お疲れ様。」


演習を終えた三人に努めて明るくねぎらいの言葉を掛けるが、
散々な結果に終った為か、皆沈んだ表情をしていた。


「そこまで落ち込む事はないよ。昨日も話した通り、不利な状況下での
立ち回りを学んでもらう事が目的なんだから。
でも、実際やってみてどうだった?鬼怒。」


「ん~……対空にはちょ~っと自信があったんだけどねぇ。
調子に乗りすぎました…」


「わ、私も最初の魚雷を回避して安心しすぎてしまったのです……
ちゃんと警戒していれば、時雨ちゃんや鬼怒さんの損害も防げたと思うのです……」


『うん、二人はしっかりと自己分析は出来ているようだ。後は……』


室内へ入ってから一言も発せず、俯いている時雨に声を掛ける。


「時雨、君はどう思った?」


時任の問い掛けに対し暫く沈黙していた時雨だったが、
ポツリと呟く様に時任へ返事を返した。


「……何も、ないよ。ただ、僕に力が無かっただけだよ。」


「何もって、時雨!」
思わず大きな声を上げてしまった鬼怒を手で制し、宥めた後時雨に話しかける。


「そうかな?少なくとも自分はさっきの演習を見る限り、
良くやっていたと思うよ。
電や鬼怒への指示も的確だったと思う。途中までは、ね。」
尚も俯いたままの時雨に対し、言葉を続ける。


「一つ聞きたいんだけど、鬼怒が大破した後、電の制止も聞かずに
目標へ向かっていったのは何故だい?」


「っ!それは……」


「君はさっき自分に力が無いと言ったけど、君の練度・能力を考えれば、
単純に目標を撃破する事は可能かもしれない。でもあの時、ほんの少しでも
周囲に気を向けることが出来たら違う結果になったんじゃないかな?」


分っている。
完全に自分を見失ってしまった自分のミスだ。
でも大尉の口調からは、責められている訳ではない事が分る。
だけど、それが余計に腹立たしくもあり、自分が惨めにも思えてくる。
それなのに……なんで僕はいつも……


「僕はあの時、行けると思ったから行動したんだ!
昨日、大尉も言ってたじゃないか!
戦場での状況判断は自分たちで考えろって!」


どうしてこんな言葉しか出てこないんだろう?
なんでいつもこうなってしまうんだろう?


「確かにそう言ったね。でも色々経験をして、学んで欲しいとも言ったよ?
時雨、勘違いをしないで欲しい。自分は今結果を責めている訳では」


「分かってる!分かってるんだ。
でも、僕は……僕がやらなければいけないんだよ。」


ちがう。
こんな事を言いたいわけじゃない。


俯き、両手を握りしめたまま絞り出すように話す時雨に対し
暫く誰も声を掛けられなかったが、時任が時雨に近づき、諭すように語りかける。


「時雨、君は一人で背負い込み過ぎなんじゃないかな?
今の君の周りには仲間もいるし俺もいる。
まぁ、俺はまだ頼りないかもしれないけどね。」


「そうだよ~。」「わ、私もいるのです!」


鬼怒も電も時任に同調し、時雨に声を掛ける。


「だから、」


「……ごめん、みんな。少し頭を冷やしてくる。」


そういい残して、時雨は逃げるように部屋を出て行ってしまった。



こんな時の気持ちが分からない訳でもない。
が、今は自分よりも同じ艦娘の方が適任だろうと思い、
電に声を掛ける。
 


「電、時雨に付いてあげてくれるかな。」


「はい!なのです。」
 


電が出て行った後、深いため息を吐き頭を掻く。
『むずかしいな。。。』そう呟き、これからの事に思いを巡らせていると
鬼怒が気を利かせて、お茶を淹れてくれていた。


「だいぶお疲れのご様子だねぇ。」


「そんな人事みたいに言わないでくれよ。お茶、有難う。」


「お礼は間宮の羊羹でいいからね!」
そう言って笑ってくれた鬼怒に、改めて礼を言う。


一息ついて、次の業務へ移ろうとした時、通信が入った事を知らせるアラームが鳴り
インカムを装着する。


谷崎からの通信であった。


「よぉ、どうだ調子の方は?」


「まぁ、色々ありますが何とかやってます。何かありましたか?」


「あぁ、君に預ける予定だった艦娘が戻ってきたんでな、
改めて紹介しようと思うんだが…こちらに来られるか?」


「了解しました、直ぐに伺います。」


そう言って通信を切ると、鬼怒に留守を頼み谷崎の元へ向かった。

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