おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏⑤

~forget me not~




※前回のあらすじ


谷崎・時任・時雨がそれぞれの思いを胸に
新しいスタートを切る・・・はずが、意図せずに
時雨の機嫌を損ねる結果に。



5.【前途多難な船出】


~鎮守府内事務棟~
 


『全く、皆して何さ。
そういう事だったなら、最初から言っておいてくれればいいのに。』


提督室から逃げ出すように去り、目的地である第二会議室までの道中でも
恥ずかしさと怒りで、顔を真っ赤にしながら歩いていた。


しかし怒ってはいるものの、谷崎や時任達に悪気があって
からかった訳では無い事も十分わかってはいるつもり。


ただ、初めての秘書艦でもあり、気持ちを新たにスタートを切ろうと
思っていた矢先にそれらを台無しにされてしまった、
という気持ちが勝ってしまい、咄嗟に飛び出してしまった。
 


『……でも、僕も少し大人げなかったかな?』
 


少しずつ冷静になってきた頭でそう思ったとき、
廊下にある窓ガラスに映った自分の顔が目に入った。
 


『ひどい顔。なんて顔してるんだ僕は……こんな顔をしておいて、
自分のやれる事をなんて、格好のいいことは言えないよね。』


そんな風に考えていると、ふとある艦娘が言ってくれた言葉を思い出す。 




『元がいいんだから、もっと笑った方がいいですよ!時雨姉さんは。』



 


『笑顔、か。ごめんね。まだうまく笑えそうにないや。
いつかは、心からの笑顔っていうのが見せられるのかな?』


 


~同時刻~


「第二会議室は事務棟にあるって聞いていたけど、どこだろう?
昨日のうちにしっかりと把握しておけば良かったな。」


まだ、施設内を全て案内して貰っていた訳では無いため、
迷っていると一人の艦娘の後ろ姿が見えた。
 


情けない話だが仕方ない。会議室の場所を聞こう。
そう思って小走りに艦娘の方へ向かい声を掛けようとした所、
足音に気付いたのか、こちらが声を掛けるよりも先に少女がこちらへ振り向く。
 


「あ、ごめん。第二会議は」


「……どちら様ですか?ここは関係者以外立入禁止ですけど。」


時任が言い終わる前に、怪訝そうな表情で問い返す。
 


軍服を着ているにも拘らず、ここの関係者と思われなかった事に対し、
地味にショックを受けるが、気を取り直して少女へ答える。


「あぁ、すまないね。初めまして。
昨日付けでこちらに赴任してきた時任一道大尉です。
第二会議室へ行きたいんだけど、教えて貰えるかな?」


「っ!! 大変失礼しました!私は本日付で大尉の揮下へ転属となる、
駆逐艦朝潮といいます!
お顔を知らなかったとは言え、た、大変なご無礼を……」
 


背筋を伸ばし敬礼しつつ、謝罪を繰り返す朝潮。


今にも泣き出しそうな表情を見て、逆に時任の方が慌てだした頃、
背後から物騒な台詞と共にもう一人の女性が現れる。
 


「憲兵さ~ん。幼い駆逐艦を泣かせとる人がここにおるで~!」
 


「なっ!自分は別に何も」


「冗~談やがな。冗談。あれやろ?君が新しく来た大尉はんやろ。
ウチの名前は龍驤。軽空母龍驤や!そこにいる朝潮と同じく、
今日からあんさん所でお世話になる艦娘や。これからよろしゅうな!」
 


「脅かさないでくれよ…おかげで冷や汗かいたよ。」


「そんな驚かんでも……って、まさか特殊な性癖(ロリコン)の持ち主なん?」
 


龍驤が更に物騒な単語を持ち出した途端、先程まで
泣き出しそうな表情をしていた朝潮が時任から距離をとるように
龍驤の後ろへ隠れてしまった。


「ホント勘弁してよ。そんな趣味はないから。」


「あははー。中々からかい甲斐のあるお人やね~。」
 


龍驤に完全にペースを握られ、一気に疲れが溜まった時任だが、
本来の目的を思い出し、改めて二人の艦娘に問い掛ける。
 


「そうだ、こんな事をしている場合じゃなかった。
急いで第二会議室に行きたいんだけど、案内を頼めるかな?」


「ウチらもそこへ向かう途中やったし、勿論ええで。
ほな、いこか~。」
 


ようやく本線に戻ったと安堵しながら、二人の艦娘の案内の下
時任はこれからの自分の城となる第二会議室へ向かった。


 


~第二会議室前~
 


「さて、ここがお目当ての第二会議室や。」


龍驤に促され、新しい一歩を踏み出すべくドアを開ける。
 


が、しかし、時任の目に最初に飛び込んできたのは、
予想だにしなかった光景であった。


 


「……遅いよ。一体いつまで待たせるつもりなんだい?大尉。」


 


腕組みをし、仁王像よろしく立って、視線だけを時任に向けた時雨の前には、
半べそをかきながら正座をさせられている酔っ払い、
もとい重巡洋艦ポーラの姿があった。
 


「い、いやちょっと道に迷」
「朝潮に悪戯しようとして泣かせとったで」
 


それを聞いた途端、まさしく『ゴゴゴ』と言った擬音が聞こえてきそうな
雰囲気を纏いながら、時雨が時任を問い詰める。
 


「……大尉、それは本当なのかな?本当だとしたら、
君に掛ける言葉が”失望”の二文字しかないんだけど?」
 


「だ、だから違うって。頼むよ龍驤、勘弁してよ。」
 



時任の後ろで腹を抱えて笑っている龍驤を見て、一応の誤解は解けたようだが
今後の艦隊運営に不安しか残らない時任であった。
 


「はぁ……もう分かったよ。
でも、これからはちゃんとしてもらわないと困るよ。」
 


「ごめん。気をつけるよ。
それで、これはどういう状況なのか聞きたいんだけど。」
 


「あぁ、これはね……」
 


そう言って時雨が説明をした内容は以下である。


集合時刻前に集まっていたポーラ・最上・電・浦風の4名で、
時任の歓迎会の準備をしていた所に”祝いの席にアルコールは不可欠”という、
謎の酔っ払い理論を展開し始めたポーラが自前の酒を並べ始める。
そのうち、どうにも我慢が出来なくなったポーラが
『味見だけ~』『一口だけ~』と飲み始め、最終的に
ボトル1本2本と開け始め、半裸状態で酔っ払っている所を時雨に見つかり
今に至る。
 


「で、何か言い分はあるかい?ポーラ。」


「……とても美味しいワインでした。」
 


「「「「「おいっ!!」」」」」
 


「まぁまぁ、暴走を止められなかった僕たちにも責任もある訳だから、
その位で勘弁してあげてよ。ね、時雨。」


申し訳なさそうに両手を合わせ、最上が時雨に促す。
 


「はぁ……今回だけだからね。」
 


とその時、勢い良くドアが開き一人の艦娘が入ってきた。


「いっちばーーーん!……じゃ、ないみたい、かな?あはは……」


その女性の姿を見た時雨が額に手を当て、嘆息交じりに彼女に伝える。


「うん。一番だね。但し、最後ってつくけど。
大尉、彼女は白露。一応、僕の姉さんに当たる人だよ。」
 


 


 


~第二会議室内~


 


「え~っと。色々と誤解や諸々があったり、まだ全員が揃ってはいないけど
これから一緒にやっていく仲間としてよろしく頼む。
足らない部分が多々あると思うけど、皆の力を貸して欲しい。」
 


「「「「「「「はいっ!」」」」」」」
 


「当面は今まで君たちが行ってきた任務等の反復になるかと思う。
任務の内容や編成については、都度連絡をする。


基本的に自分はここにいる事が殆どだと思うけど、
不在の時や何かあった場合は、時雨に連絡をして欲しい。


後は、そうだな。
何か聞きたい事や言いたい事があれば遠慮なく言って来て欲しい。」
 


そう皆に告げた後一人の艦娘が挙手し、時任に問い掛ける。
駆逐艦浦風だ。


「えっと、つまりは時雨が秘書艦ちゅうこと?」


一瞬だが、室内の空気が変わる。


「うん、そうだけど。何か意見があるかい?」


「意見、と言う訳じゃないけど。ん、まぁ大尉が決めた事なら従おるよ。
ごめんごめん。深い意味はないから気にせんで。」


周りの空気を読んだのか努めて明るい声で流すが、
浦風の言葉を聞いた時雨だけが俯いて、翳のある表情をしていた。


 


「……時雨?」


「えっ?あぁ、何かな?」


心配そうに時雨の顔を覗き込み、様子を伺う時任に対し返答をするが、
心ここにあらずと言った感じの時雨。


「この後の皆の予定を伝えてもらってもいいかな?」


「うん。分かった。
えっと、最上・白露・朝潮・電の4名は鎮守府近海の哨戒任務にあたって。


それ以外は別命あるまで自室にて待機だよ。」


『『『『了解』』』』
 


「あの~、大尉さ~ん。」


「ん?どうしたポーラ?」


申し訳なさそうに、ワインのボトルを手にしたポーラが時任へ話しかける。


「歓迎会、というかこのお酒は~……」


「あぁ、うん。昼間からアルコールは良くないと思うよ。
と言う事で、艦隊全員が揃った時までお預けって事でいいね。」
 


「そんなぁ~……」


 


 


 


各々が持ち場に着き、漸く静かになった会議室内では、時任と時雨が
事務作業に没頭していた。


学生時代から必要な事を学んでいた時任は別として、
秘書艦業務が初めての時雨にとって戸惑う面もあったが、
二人で協力しながら、黙々と作業をこなしていった。
 


「そろそろ、一息入れようか。」


予定していた業務の半分ほど完了した頃、時任が時雨に提案する。


「うん。そうだね。じゃあお茶でも入れるよ。」


「お願いするよ。」
 


時雨が部屋を出て行った後時任は室内の窓を開け、
目の前にある海岸を眺めていた。


穏やかな海だ。
まるで、今が戦時中なんて思えないよな。


そんな事を思いながら海を眺めていると、戻ってきた時雨が声を掛ける。


「お待たせ。何を見ていたの?」


「あぁ、ただ海を見ていただけだよ。穏やかな海だなぁって。」


「うん、そうだね。」
 


暫く二人とも無言で海を眺めていたが、思い出したように時任が口を開く。
 


「そう言えば、少し気になったんだけど、時雨と浦風は以前に
何かあったりしたのかな?」


「えっ?」


突然の質問に動揺している時雨をみて、一瞬躊躇ったが言葉を繋げる。


「あぁいや、別に言いたくなければ無理にとは言わないよ。
ただ、少し気になったからね。」
 


暫く沈黙していた時雨だが、時任の方を向き、申し訳なさそうに答える。
 


「気に掛けてくれて有り難う。でも、今はまだ話したくないんだ。ごめん。」


そう言って俯いてしまった。


「そうか、分ったよ。自分で良ければ何時でも話くらいは聞けるから
何でも話して欲しいかな?」


その問いには言葉で返すことが出来ず、ただ無言で頷くだけであった。
 


「よし!じゃあ残りの作業をさっさと終わらせようか。」


「……うん。」
 


少し入りすぎたか、と思いつつも


『俺も人の事、言える立場じゃないよな……』


そう思いながら、再び作業に入るため机に向かった。

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