おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏④

~forget me not~


4.【様々な思い】


~艦娘寮 時雨の自室~


 


「秘書艦、かぁ……」


前日、思いもよらなかった形での秘書艦任命を受けた時雨。


特別気持ちがはやる、と言う訳ではなかったが、普段よりも早く目が覚めてしまったが
身支度を整え始める。


「別に、嫌っていう訳じゃないけど……あーーーーっもう!」


両手で頬を軽く叩き、姿見の前に立って自分の姿を写す。


そして大きく深呼吸をし、心を落ち着かせるといういつものルーチンワークをこなす。


自分は艦娘。


やるべき事も分かっている。
ただ今日から、今までとは少し違った仕事が増える。ただそれだけ。
そう自身に言い聞かせ、姿見に映った自分を見つめる。
 


「うん。大丈夫!いつもの僕だ」
 


最後に身なりを再度確認し、時任の部屋へ向かう。


 


~時任自室~


自分には一体何が出来るのだろうか?


学生時代、自分の理想を周囲に打ち明けるも、受け入れて貰えなかった。
 


笑われる程度ならば別に構わない。
しかし、『非国民』だの『売国奴』等の蔑みは正直堪えた。


何も全ての争いを否定するつもりはない。


事実、今は国を、国民を守る為の手段として軍に身を置いているのだ。


殺し、殺された。果たしてその繰り返しの先に何があるのだろうか?


そんな葛藤を抱えていた時、兵学校に臨時教官としてやってきた谷崎に出会った。
 


谷崎の教えはこうだった。


『戦う理由は人それぞれだ。勿論答えも一つではない。しかし、
ただ理想を並べるだけに何の意味がある?行動を伴わない理想には何の説得力も無い。
ならばどうする?
まずは自らの行動で示せ!考えろ!
悩み、間違い大いに結構!ただし間違い、失敗から学べ!。目的、目標があるならば
それに向けて前に進め!』
 


この言葉は、時任の胸に深く刺さった。
 


谷崎の臨時期間終了日、ある決意を胸に抱き、時任は谷崎の元を訪れた。
この人ならばと思い、勇気を振り絞り、話を聞いて貰おうと。
 


自分の理想を、まだ誰にも話したことの無い、時任自身の過去の事を……
 


谷崎は黙って時任の話に耳を傾けていた。決して蔑むような事なく、真剣に。


しつかりと向き合ってくれている事が分かり、時折感情が
爆発しそうになるのを必死で押さえ、自分のありのままを伝えた。


時任の話を最後まで聞いた後一言、『そうか。』と発し、タバコに火を付け
真剣なまなざしで時任へ問い掛けた。
 


「それでお前は、お前の思っている地点に辿り着けると思うのか?」
 


この問いを受けた時、時任の体は震えていた。
けれど、谷崎の教えを受け、前に進む事を学んだ今ならと思い、
両の手を握りしめ、精一杯の気持ちで答えた。
 


『その為の努力を惜しまず、前に進み続けます!』と。
 


その答えを聞いた後、谷崎は満足したような笑みを浮かべ、
時任の肩を軽く叩き、こう伝えた。


「よし、分かった!お前は俺が面倒を見てやる。
卒業したら、覚悟しておけよ。」


 


 


「本当に変わらないなぁ、谷崎提督は。」


昨日の間宮で掛けてくれた言葉を聞いて、少し前のことを思い出していた。


 


「大尉、そろそろ時間だよ。」


ドアをノックした後、時雨が声を掛けてきた。


 


「わかった。今行くよ。」


そう答えると、机の中から写真立てを取りだし、
写真に写っている人物に語りかける。
 


「これからだよ。必ずやり遂げてみせる。だから、見ていてくれ。」
 


そして、大事そうに机にしまい、一言声を掛けた。


 


「いってきます!」と。


 


 


~提督室~
 


「時任一道大尉、秘書艦時雨、入ります!」


「入りたまえ。」
 


入室の許可を得た二人が部屋に入り、一通りの挨拶を済ませる。
 


「まぁ立ち話もなんだし、掛けてくれ。」


谷崎に促され、二人が室内にある応接用のソファに腰を下ろすと、
谷崎は今後の予定について説明を始めた。


「まずは昨日話した通り、君にはうちの艦隊から艦娘を預ける。
そして彼女らとともに、艦隊運営をしてもらう。
詳しくはこのリストを見てくれ。」


そう言って手渡されたリストには、下記12名の艦娘の名前が記されていた。


戦艦:金剛、正規空母:翔鶴、軽空母:龍驤、航巡:最上、
重巡:ポーラ、軽巡:川内、鬼怒、駆逐艦:時雨、白露、朝潮、電、浦風。
 


「!これはっ」


思わず息を呑む時任だが、無理もない。


リストの中には谷崎が預かる鎮守府において、主戦力と言っても差し支えない
艦娘数名含まれているのだから。
 


「ま、多少癖のある艦娘がいるが、それも含めてどう制御するかも
時任の腕の見せ所、という事だ。」


 


 


川内とポーラがいる時点で、既に大変であろう事は分かっているだろうにと思いつつ


提督なりに考えがあるのだろう。


時雨はそう思って谷崎を見る。が、しかし、
思いがけないリストを見て固まっている時任を
ニヤニヤしながら眺めている谷崎を見て、考えを改めた。


 


『あ、これ絶対楽しんでるやつだ』


 


 


「リストのメンバー全員には、既に編入の通知はしてあるが、
金剛・翔鶴・川内の三名については、現在別任務に就いている為、
合流が明日以降になる事は了承してくれ。


他のメンバーについては、今日から君の執務室となる第二会議室へ集合する様
通達してある。」


 


「はい!ありがとうございます!」


「それで、時任にやって貰いたい任務に関しては、
基本的に時雨を通して通達する。
時雨も困った事があれば、扶桑に相談するといい。」


「うん。わかったよ。」
 


その後も谷崎からの説明が続き、熱心にメモを取りながら聞き入る時任の隣では
時折質問を交えながら、扶桑に確認をする時雨の姿があった。
 


「さて、と。大まかな説明はこの位でいいだろう。」


そう言って咳払いを一つした後、谷崎の表情が、先程とはうって変わって
真剣なものになり、場の空気が一変する。
 


「時任一道大尉、君に一つ課題を与える。


私の率いる艦隊と君に預けた艦隊とで演習を行い、
『三ヶ月以内に勝利してみせろ。』」
 


「えっ!」
 


谷崎からの課題を聞いて、思わず声を上げる時雨。


それもそのはず、まだ実戦経験もなく素人同然の時任に、
歴戦の雄である谷崎に挑むだけでも無謀であり、尚且つ勝利をするなど
夢物語もいいところである。
 


「て、提督!それは少し厳しいんじゃないかな?大尉の実力は
僕らもまだ分らないし、庇う訳じゃないけど……」


たまらず時雨が口を挟もうとするが、それに被せる様に谷崎が続ける。


「何も私から完全勝利をしろとは言っておらん。
最低でも旗艦を大破判定させれば君の勝ちとしよう。どうだ?」


「それでも!」


「……時雨、私は時任大尉に聞いている。」
 


有無を言わせない谷崎の圧力に、為す術無く黙り込む時雨は時任が
どんな返答をするのだろうと思い、視線を時任の方へ向ける。


するとどうだろう。


てっきり下を向いて返答に困っているだろうと思っていたが、
時任の視線はしっかりと谷崎に向けられており、柔らかな笑みさえ浮かべていた。
 


『……あれ?この雰囲気、どこかで……


暖かく、それでいて心が安らぐ、そんな雰囲気。
まさか、そんな……ねぇ。
大事な話し合いの最中に何を考えているんだ、僕は。しっかりしなきゃ!』
 


「時雨?」


時任の声を聞き、ふと我に返る。


「あ、うん。ごめん。何でも無いよ。」


 


「気を遣ってくれて、ありがとう。でも大丈夫だよ。」


そう言った後、時任は再び谷崎の方へ向き直り、はっきりとした口調で答えた。
 


「谷崎提督、その課題、自分の目標の為、そして前に進む為に
必ずやり遂げてみせます!」
 


「そうか。お前ならそう言うと思ったよ。」
 


次の瞬間、谷崎が吹き出し、釣られて時任も笑い始め、先程までの
張り詰めた空気が嘘のように、穏やかな空気が提督室内に溢れた。
 


「えっ?何?どう言う事?話に付いていけないんだけど?」


二人の空気に付いていけず、慌てふためく時雨を見て、
今度は扶桑までもが笑い出した。
 


「ちょっと、扶桑まで!一体どう言う事?僕にも説明してよ!」
 


少しむくれた様子で谷崎と時任を問い詰めると、悪びれる様子もなく谷崎が返す。
 


「いや実はな、大尉は兵学校時代の時、俺の生徒だったんだよ。
さっきの大尉の返答が、その時と全く同じだったんでつい、な?」


「提督も変わらないじゃないですか。昨日間宮で言ってくれた事、
昔を思い出しましたよ。」
 


和気藹々と会話をする二人を見て、初めのうちは訳が分らず
呆然と見ていた時雨だが、次第に込み上げてくる怒りからか、
顔を真っ赤にしながら体を震わせていた。
 


「まぁまぁ、別に悪気があって黙っていた訳ではないのだから、ね?時雨。」
 


そう言って扶桑に宥められるが、どうにも治まらない様子の時雨。
 


「……なにさ、折角フォローしてあげようと思ったのに。
僕だけが骨折り損じゃないか!
君たちには失望したよ!


大尉、先に第二会議室へ行ってるから、早く来てよね!」
 


そう言って時雨は、大きな足音を立てながら提督室を出て行ってしまい
今度は残った三人が呆然としている。
 


「……扶桑よ、これはやはり俺が悪いのかな?」


「全ての責任は、やはり提督である貴方にあるかと。
それより大尉、早く時雨を追いかけてあげて下さい。
今日の事は、私からも後で言っておきますから。」


「そうしてもらえると助かります。


提督、それではこれより第二会議室にて任務に当たらせて頂きます!」
 


「うむ。頑張れよ。


あぁ、それと時任最後に一つだけいいか?」


「なんでしょうか?」
 


谷崎は扶桑へ目配せをし、意図を感じ取った扶桑が部屋を出た後
話を始めた。
 


「お前の過去の事だが、皆にはいずれ話さなければいけないと思っている。
何も全員の前で演説しろとは言わんが、出来れば自分自身の口から
説明した方がいいと思うぞ。


特に秘書艦にはな。


説明するタイミングはお前に任せる。フォローは必ずしてやるから安心しろ。」
 


「……お心遣い、有り難うございます。その時が来たら
しっかりと説明しようと思います。
では、失礼します。」


そう言って時任は、敬礼をし足早に提督室を後にした。
 


 


時任が出て行くのを見送った後、徐にタバコに火を付け煙をくゆらせながら
谷崎が呟く。


 


「お前の理想の世界、俺にも見せてくれ……」

×

非ログインユーザーとして返信する