おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏①

~forget me not~


1.【出会い】


とある海域にて








『…あぁ、ここで僕は終わるのか…。』


まだ砲弾が飛び交い、轟音さめやまぬ中、海面に横たわり周りを見渡す。


『…みんなの姿は…。あぁ、山城も扶桑も大丈夫…みたいだ。』


少しずつ、身体が海に沈んでいく。


『…今度は、ちゃんと、守れた…かな?  だったら、もう、いいか  な』


艦船の時は、みんなを守ることが出来なかった。
守りたかった。
助けたかった。
でも、出来なかった。


艦娘として生まれ変わり、過去の仲間に会えた時に誓った事がある。それは
「どんな事があっても、みんなを護る艦である事」


今回は、どうやらその誓いは果たせそうだ。


そんな事を思いながら、海の流れに身を任せた時、「何か」を感じた。


「…っ!」


声?
誰が僕の事を?


『…。なんだろう?誰かが、呼んで、る?』
声のする方角を向いて見るが、声の主は分からない。
でも、優しくて、温かくて、安心する様な…


でももう、身体が思う様に動かない。




「…れっ!」


『…もう、いいんだ。もう僕は…』




「時雨!!」


ふと目を覚ますと、そこには心配そうに時雨の顔を覗き込む山城がいた。


「やま、しろ?」
「やま、しろ?じゃないわよ!アンタ大丈夫? 
何か酷く魘されてるみたいだったけど。」





あぁ、そうか。またあの夢を見たんだ。


時折見る、あの夢。
どこの海かは分からない。


けど、最後は必ず同じ。


あれはいったい何?誰?


あの夢に何か意味が? まさかそんな事有る訳ない。
でも、何故何度も同じ夢を?
と、寝起きで頭が回転していない状態で考え込んでいると


「し~ぐ~れ~?」
「や、山城?顔が怖いよ?どうしたの?」


「どうしたの?って、アンタねぇ……今日は大事な通達事項があるから
集合する様にって言われてたでしょう?谷崎提督から!


集合時間になっても中々来ないから起しに来たのよ、わ・た・し・がっ!」
「・・・あ、そうだったね。ゴメン山城。すぐ支度して行くよ。」




そう、今日は前任の提督に代わって、新しい提督が鎮守府に着任する日だ。
とは言っても引継ぎやら何やらで、暫くは谷崎提督の補佐って事になるらしいけど…。


まぁ提督が代わっても、僕のやる事は変わらない。
どんな事があっても、僕がみんなを守るんだ。


もう、艦船の時みたいに、誰一人として沈めさせたりはしない。させはしない。
僕がやらなきゃいけないんだ。




あんな想いはもう、たくさんだ…。




ベッドから起き上がり、身支度を整え、部屋を出る前に姿見に自分を映す。
これは僕のルーティンだ。


「何事も最初は肝心だよね。…うん、大丈夫だ。」


いつもの自分を確認して、足早に提督室へと向かう。











鎮守府内提督室へ入ると、谷崎提督、その横に秘書艦の扶桑、
今日は待機中の旧西村艦隊の面々。そして、初めて見る男性が一人。


『この人が、新しく提督になる人なのかな?そうか、この人が…』


「遅いぞ、時雨。」
「ご、ごめん、提督。次からは気をつけるよ」


「ん。分かればよし。皆揃ったな。
早速だが、こちらの彼を紹介しよう。時任 一道(ときとう かずみち)大尉だ。
では大尉、自己紹介を。」


「はっ!自分は海軍所属、時任 一道、階級は大尉であります!
まだまだ若輩者ゆえ、谷崎提督や艦娘の皆様方には多々ご迷惑を…」


あまりにも緊張した面持ちで、堅い挨拶をしている彼を見て
笑いを堪えるのに必死な者が数名……。


「くっくっくっ…! す、すまん大尉、もっと気楽に、な? 肩の力を抜きたまえよ。
最初からそれでは、うちの艦娘相手に身体が持たんぞ?」


「は、はぁ。」


「まぁ、うちの鎮守府は他と比べると、ややフランクな所があるかも知れんが、
最低限の礼節を持って接してくれれば構わんよ。なぁ扶桑?」


「そうですね。そうして頂けると、私たち艦娘も時任大尉に接し易くなるかと。」


「だ、そうだ。大尉。」


「りょ、了解でありま」
「ん?」
「いえ、分かりました。では皆さん、これから色々と勉強させて下さい!」


「提督、最初からそんなに意地悪をしなくても。
それと、谷崎提督?」


「ん?なんだ扶桑?」


「先程の、『うちの艦娘相手に身体が持たない』とは、どういう意味でしょうか?
後程、別室で詳しくお聞かせ願えますか?」


「あ、いや、あれはだな。言葉のあやというか…」


「「「「「「提督、ご愁傷様」」」」」」



谷崎提督と秘書艦扶桑の掛け合いを見て、場の空気が一気に明るくなるのを感じた。


この二人は『亭主関白』の様に見えて『カカア天下』な面もあって、周りから見れば
所謂『誰もが羨むおしどり夫婦』というやつだ。
(若干1名程、妬ましい視線を浴びせている艦娘がいるが)



「ん、ゴホン。
面通しはこの位でいいだろう。遠征中や哨戒中の者達がいるが
後日改めて紹介するとしよう。
後は、そうだな…時雨!」


「ん?なんだい?提督。」


「今日から時任大尉の側につき、色々とサポートをしてやってくれ。」


「ぼ、僕が?」


「そうだ。お前はこの鎮守府でも古参になるし、教えてやれる事も多いと思うんだが、
何か不満か?」


「そ、そんな不満なんてないけど…僕でいいなら。ん、分かったよ。」


「大尉もそれでいいかな?」


「はい!
時雨さん、これから宜しくお願いしま…いや、宜しく!」


「まぁ、徐々に慣れればいいさ。じゃあ、時雨についていって、鎮守府内を案内して
もらうといい。
それでは、今日の所は解散!」








~提督室内~


「しかし、あれだな。
…年寄りくさいと思われるかもしれんが、若さを感じてしまったよ。」


書類整理がひと段落し、煙草に火を点け一息ついたところで自嘲気味にこぼす谷崎に
替わりのお茶を用意しながら、またそんな事を と笑う扶桑。


「でも、教え甲斐があるのではないですか?教官?」


「よしてくれ、ガラじゃない。


ま、それでも俺のやる事は変わらないし、やれる事をやるだけだがな」



「確かに今の所、深海棲艦の動きも活発ではなく、大きな作戦予定もないようですし
色々と教えるのには、いい環境かもしれませんね。」


「あぁ、そうだな。
色々と問題もあるかもしれんが、他の艦娘へのフォローは頼む。」


「それは勿論。…ですが、提督。」


「ん?なんだ?」



少し戸惑いの表情を浮かべながら扶桑が繋げる。





「提督。あの人選で本当に良かったのですか?
時任大尉のプロフィールは私も拝見しましたが…」


「扶桑!」


普段あまり見かけない形相での呼び掛けに、扶桑は思わず言いかけた言葉を飲み込む。


「その先は他言無用、そして口には出すなと言った筈だ。」


「も、申し訳ございません、提督。」


思わず出てしまった表情と声であったが、ばつが悪そうに谷崎が返す。


「あぁ、まぁスマン。俺も少し強く言い過ぎた。
何れは話す事になるやも知れんが、それまではくれぐれも頼むよ。扶桑。」


「はい、以後十分に気をつけます。」





「扶桑の言いたい事は分かっているさ。勿論時雨の事も含めて、な。」


「では何故です?性格や錬度を考えると、他にも向いている
艦娘がいると思うのですが。」


「確かに扶桑の言うとおりかもな。特に最近の時雨を見てると、
妙に危なっかしく、何かこう、気負いすぎている感がある。
お前たちが持っている記憶、艦船時代の記憶が主たる原因である事も
十分理解しているつもりだ。」



艦船時代の記憶。
これは艦娘と呼ばれる者達全てが持っており、時として戦場において妨げになる
場合や、自身が沈んだ日時等には酷い発作に見舞われる艦娘もいると言われている。







「ただな、扶桑。俺はさっき大尉に言ったのと同じ様に、お前たちにはもっと気楽に
考えて欲しいと思っている。
”戦時中に何を甘い事を!”って、上には怒鳴られそうだけどな。」


確かに今は戦時中で、何よりも優先すべきは制海権の奪還、及び人類の勝利であり
人間だけでなく、艦娘も必死に戦っている最中である。


「とは言え、深海棲艦との戦争に勝つ為にはお前たち艦娘の存在は不可欠であり
戦地へ行けと命令しているのも俺だ。
矛盾だらけで説得力なんかないよな。」


そう言って自虐的に笑う谷崎を見て、扶桑はゆっくりと首を左右に振り
微笑みながら谷崎へ言葉を返す。


「そうですね。いち提督としての言葉では無いかも知れません。
ですが提督、貴方の様に私たち艦娘に対して、ただの兵器ではなく、
一人の人間の様に接して下さるからこそ、今の鎮守府があり、
貴方の為に勝利を捧げたいと思う者達がいる事をお忘れ無き様。それに……」


頬を赤く染め、左手の薬指を見つめた後、扶桑が恥ずかしそうに言葉を繋げる。


「そんな貴方だからこそ、より深い絆を結びたくてお受けしたのですよ。」


「扶桑…」
「貴方…」


二つの影が重なりかけたその時、爆音とも取れる勢いでドアが開かれ
必死に止めようとする最上を物ともせず、鬼の形相で主砲を向ける戦艦一名。



「ちょっ、山城落ち着いてよ!」


「て~い~と~く~~?今、姉さまと何を?」


「ま、まて山城。まずは落ち着いて砲を下ろせ、な?」



・・・・・・。



後日、この時の様子を最上はこう語っている。


「人って、あんなに早く走れるんだね。驚いたよ」

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