おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏㉗

~forget me not~


27【明と暗】



谷崎率いる艦隊との演習が終わった三日後、第二会議室では演習に参加した艦娘たちの他
数名の艦娘が集められていた。



「う~ん…なるほどなぁ…」
「あっ!ここだよここ!」
「うわっ、このタイミングなんだ!流石だなぁ…」



各自が演習時の映像を見ながら、それぞれ反省点を見つけては、
それらについての改善点等を話し合っている。




その傍らでは…


「大尉!ここ、ハンコ忘れてるよ。」
「え?あぁ、ごめん直ぐ押すよ。あと時雨、資材関連の書類はどこだっけ?」
「えっとその…多分、そこの箱の中に…」



時雨が指し示した先には、今にも崩れそうな書類の山脈がそびえたっている。


「…この中から探せと?」
「し、仕方ないじゃないか!ここ最近、こっち(事務作業)まで
手が回らなかったんだもの。
大尉だって、こっちに回す書類は間違いだらけじゃないか!」



慣れない事務的作業に、悪戦苦闘している新米指揮官と秘書艦の姿がそこにあり
見かねた浦風が二人に助け舟を出す。


「しゃあないのぉ。うちがてごしちゃるけぇ、ちぃとその書類回して。」
「「助かります」」
「息があうなぁ、そこだけかい!」


浦風のツッコミに、周りからも笑い声が漏れる。



「まぁ、ええけどのぉ。
そういえば、大尉。一つ聞きたかった事があるんじゃけど。」
「うん?何かな?」
「どうしてうちらぁ11人なん?何か中途半端な感じがするんじゃけど。」
「あぁ、それね。本当は全部で12人だったんだけど、急遽変更になったんだよ。
詳しい理由は分からないんだけどね。」
「ふ~ん。因みに誰じゃったん?もう一人は。」
「それは…」








~大本営にある、とある一室~




一人の艦娘が、もくもくとキーボードを叩く音が響いている。


「あ~っ、もう!相変わらず苦手だよ、こういうの…」


文句を言いながらも打ち続けている画面には
こう書かれていた。


「監視対象に関する報告書」




午前9時:勤務開始。いつもと同じく、山のように積まれた書類の整理を始める。
特に誰かを補佐として付けている様子は無い。
しかし、その仕事ぶりを見ている限り、明らかに対象のキャパをオーバーしていると
思われ、何かしらの制裁等を受けているのではないか、と推測される。



正午:部署内の特定の誰かと共にする事は無く、一人で昼食。
ただ、決まって中庭にあるベンチに座り、昼食を摂ることが日課のようである。
もしかすると、何か理由があるのかもしれないが、現時点では不明。



午後3時:何かの部品だろうか?艦娘の艤装の様にも見える模型の様な物を組み立てたり
それらを持って施設内にある部屋を行き来している。
残念ながら、その内部には入ることが出来ない為、詳しい内容までは把握できていない。



午後6時~午後9時:午前中と同じく、ひたすら書類の整理に没頭し
他の所員が帰り始め、最後の1人になった頃に帰宅。



総括:相変わらず、特に目立った行動はせず存在感が薄い。
ただ、これが狙った行動なのか素なのかは判断しかねる為、もう少し注視すべきと
考える。


今後はもう少し対象に近づきつつ、監視を続行する。




「う~ん…取り敢えず、今回はこんなもんかな?」



机の上で頬杖をつきながら、自身のまとめたレポートを読み返している艦娘の名前は
川内。


そう。
谷崎が運営している鎮守府所属の軽巡洋艦「川内」だ。


現在は、能力向上の為の演習参加という名目で大本営へ出向中、となっているが
それは表向きの口実であり、実際に谷崎から受けた指令は、とある人物の監視である。




時をさかのぼる事、二ヶ月程前。
川内は谷崎に呼び出された為、提督室へ向かっていた。


途中のあちらこちらで、鎮守府に新しい軍人が着任する話で盛り上がる艦娘が多数おり…
「若いのかな?」
「おじさんかもよ?」
「え~!やだなぁ…」


などの若干失礼なものから


「婚期が…幸せが私を呼んでいるわぁぁっ!!」
「火遊び、しちゃおうかしら?」


などど、緊張感のかけらもない話題で持ちきりであった。




全くなんの話をしてるんだか…
まぁ、そういう気持ちが理解出来ない訳じゃないけどね。



話題の新人の事で盛り上がっている艦娘達を遠目に見ながら
川内がポツリと漏らす。



でも、私的にはさ…


目的の場所に到達し、勢いよく提督室のドアを開け放ちながら…
「おっまたせー!何々?夜戦?いつ?」
「違うっつーの!その前にノックぐらいしろ!全くお前は…
そうじゃなくて川内、お前に頼みたい事があるんだよ。」



そうそう!こういう風に、頼られる事が嬉しかったりするんだよね。


例えどんな任務だろうと、その役目に適切だと思われたから、
出来ると思ってくれたから選んでくれたと思うし…ね?


だから、今回の任務に関しても即OKしたし
こうやって苦手な分野も一生懸命やってる…つもり。



と、任務を受けた当時の事を思い出しながら一息ついた後、
通信機を操作し、通話を始めた。



「もっしもーし!聞こえるー?」





~第二会議室内~


「あぁ、成程…川内さんじゃったのね。」


苦笑いをしている浦風の後ろでは、何故かほっとしたような表情をしている
艦娘の姿がある。


浦風だけでなく、周りの雰囲気に少し引っかかる物を感じた時任が尋ねる。


「そうなんだけど…って、何だかみんな同じ様な反応してるね?
彼女に何かあるのかい?」
「いや、別に嫌いやらじゃないんよ?ただまぁ、何言うか…
夜は普通であれば休むものじゃろう?
それなのに川内さんは、夜になるとやたらと元気に」


浦風が説明しようとしていると、それを遮るように鬼怒が言葉を被せてくる。


「要するに”夜戦バカ”って事だよ、大尉。」
「や、夜戦バカ?」
「かくかくしかじかで~…」


鬼怒が身振り手振りを交えながら、時任に説明を始めると
周りの艦娘たちもそれに同調するように頷く。


「あ~あ、言ってもうた。折角うちがオブラートに包んで説明しとったのに…
まぁ、実際に会うてみれば分かるけど、げに悪い人じゃないんよ?」


「分かってるよ。会ってもいないのに、ネガティブな印象を持っていても
しょうがないからね。有難う、浦風。」



そう言って、フォローを入れてくれた浦風に礼を言った後、再び書類の山と格闘すべく
時任は自身の机に向かう。



それから暫くすると、演習の反省会をしていた面々は、それぞれ任務や演習に向かい
会議室内では残された三人が時が経つのも忘れ、無言でペンを走らせる音だけが
響いていた。


たまに声が聞こえたと思えば、「これよろしく。」「はい、こっち。」等の
正に事務的なものばかり。


始めのうちはその書類の多さから、時任達と共に作業を終らせる事を
優先していた浦風だが、会議室内の重苦しい雰囲気に耐えかねたのか、
黙々と事務作業に没頭している二人に声を掛ける。



「ねぇ、ちいとお二人さん…流石に息が詰まるんじゃけど、
この空気どうにかならんかな?」
「あ、あぁ、ごめん。つい夢中になってたよ。時雨はどうだい?一息つけそうかな?」


漸く顔を上げた時任が、自分と同じく作業に没頭している秘書官に声を掛けるが、
返事が返ってこない。


「時雨?」
「…甘いものが食べたい。」


本音を思わず声にだしてしまった時雨は、慌てて口を抑えるが時すでに遅し。
室内に時任と浦風の笑い声が響き渡る。


「うぅ…何もそんなに笑わなくてもいいじゃないか…」
「まぁまぁ。体は正直たぁよう言うたもんじゃねぇ。
でも、うちも少し小腹がすいてきたかな?」


そう言うと、勢いよく挙手しながら浦風が続ける。
「はいっ!ここで意見具申じゃ。ここらで間宮でお茶するなぁどうじゃろ?」


浦風の提案を聞いた時雨も”待ってました!”と言わんばかりに直ぐさま同調し
「うん!それがいいと思う。適度な休憩は必要だよね!」
「分かった分かった。それじゃあ二人とも先に間宮に行っていてくれるかな?」
「え?大尉は行かんの?」
「ちょっと空母の資料について確認だけしたいんだ。えっと今日は…」


そう言って時任は、室内に掲示してある各艦娘の予定表を確認する。



「翔鶴は休息日か、龍驤は…」
「龍驤ならさっき、資料室へ行くって言ってたよ。」
「そうか。なら丁度いい。簡単な確認作業だから、終わり次第俺も直ぐにいくよ。」
「分かった。じゃあ先に言って待ってるね。」




「さて、と…」


時雨達を見送った後、時任は手元の資料を小脇に抱え
龍驤を探す為、資料室へ向かった。








「何度来ても広いよなぁ、ここは。」
目的の資料室へ到着するも、肝心の龍驤が見つからず、どうしたものかと思案していると
あるタイトルの資料が目に入る。


タイトルには【鎮守府年表】と書かれていた。


『結構分厚いな。まぁ、それだけ歴史のある鎮守府って事なんだろうな。』


時雨の話で、谷崎の前任者についてはある程度分かったが、それ以前の提督や
鎮守府としてはどんな場所だったのだろうか?


純粋に自身が所属する鎮守府に興味を持った時任は、資料を手に取り
ページを捲っていく。



資料の中には竣工前や完成当時の写真の他、当時の立ち上げメンバー。
そして大小問わず作戦の記録など、様々なものが記載されていた。


時任が更に読み進めていくと、【歴代提督一覧】という項目に目が留まる。
この項目には、着任時の階級や任期だけでなく、その後の転属先や担当した秘書艦、
ケッコンカッコカリをした艦娘の名前までもが記載されている。



『秘書官だけじゃなく、ケッコンカッコカリまで記載されるのか…
因みに谷崎提督は…っと』


*氏名:谷崎 司(タニザキ ツカサ)
*着任時階級:少将
*着任時秘書官:【戦艦】扶桑
*ケッコンカッコカリ:【戦艦】扶桑



『やっぱり真っ直ぐなお人だなぁ。』
谷崎の項目を見た時任は、改めて思う。



と、言う事は…。


時雨から聞いていた話では、谷崎の前任者である神保は、
扶桑の妹である山城を秘書官にしていた。


『扶桑は指輪をしていた気がするけど、山城は…どうだったかな?』


他人の詮索をする事に若干の後ろめたさを感じるも、好奇心が勝った時任は
神保の項目を探し始めた。


『あ、あった。これか。』


*氏名:神保 和久(ジンボ カズヒサ)
*着任時階級:少将
*着任時秘書官:【戦艦】山城
*ケッコンカッコカリ:■■■■■■■■■■


『ん?なんだこれ?』


よく見ると、ケッコンカッコカリの項目には記載があったであろう痕はあるものの
インクの様な物で塗潰されている。



誰かの悪戯か何かだろうか?
いや、鎮守府の大事な資料にそんな事をする筈はないだろう。
だが明らかに、誰かの手によって意図的に塗潰されている。
一体何のために?


すると、資料を眺めながら考え込んでいる時任の後ろから声を掛けてくる者がいた。


「大尉?こんな所で何しとるん?」
「龍驤!良かった、君の事を探してたんだよ。」
「ウチの事を?
えっと…そんな急に言われても、ウチには旦那と嫁と子供がおるし…」
「…ごめん、君が何を言ってるのかわからない。」


頭を掻きながら苦笑いをしている時任に、溜息をつきながら龍驤が続ける。


「んもぉ~…ノリ悪いなぁ。そこはちゃんと乗っかってくれなアカンやん。」
「精進シマス…」


「で?ウチに何か用?」
「あ、あぁ実は艦載機の運用の事なんだけど…」


時任はそう言って、小脇に抱えていた資料を龍驤に見せようとした時
先程まで眺めていた【鎮守府年表】を床に落としてしまう。


「あぁっと、ごめん。」
「もぉ~どんくさいなぁ、君は。ホンマに何をして…」


龍驤が時任の代わりに落とした資料を拾い上げるが、表紙を見た瞬間
動きが固まる。


「有難う。これは大事な資料みたいだから気を付け」
「…何を見たんや?」
「え?」
「こないなもんを見て何を調べとるんやって聞いとんねん!!」
「い、いや別に調べるとかじゃなくて、ここの鎮守府の事が書かれていたから
見ていただけなんだけど…」


今まで見た事のない龍驤の剣幕に、時任はそう返すのが精いっぱいだった。


暫くの間、射貫くような視線を時任に向けていた龍驤だったが
狼狽している時任の姿を見て何かを感じ取ったのか、表情を崩し謝罪の言葉を口にする。


「あぁ~ごめんなぁ大尉。ウチ今ちょ~っちイライラしとってん。」
「いや、別に気にしてないよ。大丈夫。」
「ホンマ堪忍な。で?艦載機の事で聞きたい事があるんやったっけ?」
「そうそう、これなんだけど…」


時任は、ようやく本題に入れた事に安堵した。




「…っちゅ~感じかな?大体は。」
「成程ね。有難う、お陰で助かったよ。」
「まぁウチら艦娘にも得手不得手があるから、分からん事があったら
これからもその道に精通しているモンに聞くのが一番やとおもうで。」
「あぁ、そうする事にするよ。」
「ほなウチはそろそろ戻るわ。」
「あ、龍驤ちょっと待って。」


そう言って、その場を離れようとする龍驤を時任が呼び止める。


「ん…。その、余計なお世話かもしれないけど、困った事があればいつでも相談してくれないか?
何かあれば話くらいは聞けるからね。」
「ほっほぉ~ん?ウチの事を大切に思ってくれてるん?
それはそれでちょっち嬉しいなぁ。」
「そうかい?でも本当に」
「あのな、大尉?」


尚も言葉を続けようとする時任に対し、背を向けたままではあるが
龍驤が言葉を被せる。


「こんな性格のウチでもな、入り込んで欲しくない領域ちゅうのがあんねん。」
「ご、ごめん。そんなつもりじゃ…」
「ええよ別に。ホンマに優しいお人なんやねぇ大尉は。
ま、その気持ちだけは素直に受け取っておくわ。有難う。」



そう言って資料室を出て行こうとしていた龍驤だったが、不意に立ち止まった後
時任の方へ向き直り続ける。


「そうそう!今後の為にウチから一つだけアドバイスというか忠告するとすれば、
これかな?」


意味深な言葉を発した後、被っていた帽子を深く被り直して続ける。



”あんまり深く関わるな”




それだけや。ほなね。」




そう言い残し、龍驤は資料室から出て行った。





『深く関わるな…か。』



龍驤は時任の隊に転属になってからというもの、どちらかといえば時任の指揮に
肯定的ではあった。
その事が踏み込むべき箇所と、そうでない箇所の判断を
鈍らせてしまったのかもしれない。


『まぁこれも含めて勉強しなきゃ、だな。』
時任は改めて艦娘との接し方の難しさを痛感した。

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