おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏㉒

~forget me not~


22.【挑戦】


時任の歓迎会を兼ねた宴があった翌日、時任率いる11名の艦娘全員が
第二会議室に集められていた。


「よし、全員揃っているな?
楽しい時間は昨日まで。今日からまた、みんなには気持ちを新たに頑張って欲しい。」


「「「「はいっ!」」」」
 


「さて、今日は既に告知していた通り、このあとヒトフタマルマルより
谷崎提督率いる艦隊との演習を行う。」


時任の言葉を聞き、緊張しすぎて硬くなっている者もいれば
早く演習をしたくてうずうずしている、そんな表情をしている者もいた。


「では、演習に参加してもらう者を発表する。
時雨、お願いできるかな?」


そう言って時任から手渡されたメモを見て、
時雨がホワイトボードに名前を書き出していく。


書き出された選抜メンバーは以下6名。


戦艦:金剛(旗艦)
正規空母:翔鶴
軽空母:龍驤
軽巡洋艦:鬼怒
駆逐艦:時雨・朝潮


「今日の演習は、この6名で行く。他の者は演習の様子を良く見て、
今後の自分の糧にして欲しい。」


「「「了解!」」」


「では、6名はここに残ってミーティング。他の者は待機。以上だ。」


 


 


~同時刻、提督室内~


「さぁ~って、と。あいつはどんな風にやってくるかね。」


谷崎も同様に、演習メンバーを集めてミーティングを行っているが
その表情はどこか楽しそうに見える。


その様子を輪の外から見ていた加賀が、嘆息しながら皮肉交じりに問い掛ける。


「……随分と楽しそうね、提督。」


「ん~?そうかぁ?まぁ、どんな風に苛めてやろうかとは思ってるけどな。」


加賀の皮肉に悪びれる様子も無く、悪戯な笑みを浮かべながら谷崎が答える。


「そんな事思っていないでしょう?
昨日なんか、『教え子と手合わせ出来る!』って子供みたいにはしゃいでましたもの。」


「……言うなよ、それを。」


扶桑の密告に、苦笑いをしながら答える谷崎。


「そういや神通、教え子っていえば、時雨はお前が教導艦だったよな?」


「はい。とても教え甲斐のある子でした。
もし出てくるようであれば、楽しみです。」
 


軽巡洋艦”神通”


この鎮守府において、主に水雷戦隊の旗艦を任される事が多い、古参の一人。
また、駆逐艦の教導艦としての役割も担っており、清楚で可憐なその容姿からは
想像がつかない程ハードな訓練を課す事から、”鬼教官”として恐れられている。


「まぁ、神通のおかげで駆逐艦全体の底上げが出来たしな。
……若干怖がってるのもいるが。」


秋月と綾波を見ながら谷崎がそう言うと、二人とも慌ててフォローし始める。


「そ、そんな事ないです!神通さんの教えがあったからこそ……」
「そうですよ~」


「いいんです。それでみんなが無事帰ってこられるのなら。」


そう言って、微笑みながら返す神通だが、
それがかえって仇となるようで……


『『や、やっぱり怖いかも…』』


「ま、向こうの手の内はほぼ把握出来てはいるが、翔鶴と龍驤をあいつが
どう使ってくるかで状況が変わる。
その辺は加賀、お前に任せるがいいな?」


「問題ないわ。五航戦の子と一緒にしないで。
でも…」


「でも?」


「妹の方が居たのなら、徹底的に叩いた上で、
七面鳥をご馳走しようかと思ったのだけれど。残念ね。」


『『『え、えげつない……』』』
 


航空母艦”加賀”
鎮守府において一航戦赤城と共に双璧をなす空の要。
何かにつけて絡んでくる瑞鶴とのやり取りは、もはや日常行事と化ているが
赤城曰く、『期待しているからこそのかわいがり?みたいなものですよ。』
との事。


「相変わらずのツンデレだなぁ。」


「……何か言って?」


「ナンデモナイデス。
ツンデレといえば、もう一人の方は……」


「ちょっと!誰がツンデレなのよ!」


戦艦”ビスマルク”
元々は研修目的の為に来日し、谷崎に預けられていたのだが
日本産のビールと鳳翔の作る料理に胃袋を掴まれ、半ば強引に転属してきた
ドイツ生まれの高速戦艦。
いつも側にいる同郷のプリンツ=オイゲンに言わせると…
『機嫌が悪い時は、兎に角褒めてあげて下さい。』との事。
 


「大体何で、この私がこんな事に付き合わなきゃいけないのよ。」


「まぁまぁ、そう言うなって。夜戦でも頼りになる高速戦艦のお前だから
選んだんだよ。だから旗艦として期待してるぞ。」


「そ、そうなの?じゃあ、仕方ないわね。
でも、もっと褒めてくれてもいいのよ?」
 


『…単純ね。』
『ちょろいですねぇ~』
『馬鹿め、といって差し上げますわ。』


 


「よし、そろそろ時間だ!時任の指揮は未熟とはいえ、出てくる奴らは
普段お前たちが頼りにしている奴らだ。くれぐれも慢心はするな。
いいな!」


「「「了解!」」」
 


 


 


 


 


~鎮守府近海 演習場~


 


「提督、本日は胸を貸していただきます!」


「おう。しっかり苛めてやるから覚悟しとけよ。」


「はははっ。お手柔らかにお願いします。」
 


『何か小細工してくるかと思ったけど、中々どうして、やる気満々じゃないの。
ま、そうじゃなきゃあ、な?』


時任の編成を見て、谷崎は改めて”教え甲斐のあるやつ”
そう思った。
 


この様に指揮官同士のやり取りがある傍らでは…


「神通さん。今日は僕も全力で行くよ。だから手加減はしないでね。」


「手加減?元よりするつもりはありませんよ。
どれだけ成長したのか、見せてもらいましょうか。」


と、師弟が健闘を誓い合えば
 


「加賀さん。今日は五航戦の力、存分にお見せしますね。」


「……それなりに期待してるわ。全力で潰…いえ、相手してあげる。」


「おいおい、いきなり物騒やなぁ。ま、ウチもいるさかい、用心しいや~」


「……何か声が聞こえたけど、何も見えないわね。何か居るのかしら?」


「……ほっほぉ~ん?ええ度胸やないか。
アンタの辞書に”後悔”の二文字を刻んだるわ!」
 


早々に火花を散らす者もおり
 


「Hey!ソーセージー!今日は付き人(オイゲン)が居なくて寂しそうデスネー。
一人で大丈夫デスカー?」


「誰がソーセージよ、この紅茶バカ!
そっちこそもう歳なんだから、怪我しないよう手加減してあげてもいいわよ?
なんだったら今度、安楽椅子をプレゼントしてあげるわ。」
 


と、いった具合に所々で、既に戦い(子供の喧嘩)が始まっていた。


 


「よぉーし、お前らそこまでにしとけ。んじゃ、始める前にもう一度確認な。
今回の演習におけるルールを説明する。
弾は演習用のペイント弾を使うのはいつもと同じだが、勝敗については
時任の艦隊が俺の艦隊の旗艦を大破判定させるか、そうでないか。それだけだ。」


通常の6対6の演習であれば、双方の艦の損傷度合いによって勝敗が決まる為
今回の条件だけ見れば、時任が有利と誰もが思うだろう。


しかしそこは、歴戦の猛者である谷崎が率いる艦隊。
一筋縄ではいかないだろう。


始めにこの演習内容を聞いた時雨が、無茶だと思ったのも無理はない。


『あの時は本当にやるのかと思ったけど……あの時の大尉の顔を見たら
僕が諦める訳にはいかないよね。そう、あの時は……あの、時……』


次第に記憶が鮮明になり、時雨はふつふつと怒りがこみ上げてくるのを感じた。
 


「……大尉。今、ちょっと嫌な事を思い出したんだけど…
あの時、提督と扶桑と三人で僕をからかったよね?」


「え?あの時って……あーーーっ!」


「秘書艦になったのに、僕だけ何も知らされてなくて……」


「わ、悪かったって。ほ、ほら、今はもう色々話しているだろ?」
 


「なんだなんだ?まぁーた夫婦喧嘩かぁ?」


「「ちがう(よ)んです!!」」


あまりの呼吸のよさに、周りからも笑い声が漏れる。


 


「……まぁ、いいさ。おかげでアドレナリンが出てきたから、
この演習でぶつける事にするよ。」


「し、時雨、冷静に、冷静に、な?」


 


そして


 


「よぉーし、全員位置についたな?
双方の奮闘を期待する。
では、始め!」


谷崎の合図によって信号弾が打ち上げられ、時任の挑戦が始まった。

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