おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏㉑

21.【宴会と言う名の・・・】


鎮守府内には、夜になると一際賑わいを見せる一角がある。


そこは”居酒屋鳳翔”


いつもは鎮守府内で働く人間や、酒好きの艦娘たちで賑わう店であるが
今日は時任率いる隊の貸切となっている。


他の客にも迷惑だからと、個室だけを予約したのだが
女将を兼任している鳳翔が”皆との距離を縮める良い機会じゃないですか。”
と、気を利かせてくれたのだ。
 


そしてその場を借りて、時任は自身の過去を時雨に打ち明けたように
谷崎から預かった他の艦娘たちにも同様に話した。
 


 


 


「Hum……そんな事があったのデスネ……」


「まさか、大尉の過去にそんな事があったなんて……
心中、お察しします。」


「よしてくれよ、金剛。それに翔鶴も。
別に同情が欲しくて話した訳じゃあないんだ。
ただ、皆にも理解……
というか、自分の事を良く知って欲しかったから話したんだよ。」


時任は努めて明るく振舞ったつもりだが、内容が内容だけに
全ての艦娘が納得したわけではなかった。


”上手い事を言って、騙そうとしているんじゃないのか?”


そんな懐疑的な目で時任を見る者や、時任の下につく事に異を唱える者も当然いた。


今まで深海棲艦たちを敵として認識し、常に死と隣り合わせで
戦ってきた艦娘たちにしてみれば、至極全うな考えである。


自身の長となる人間が深海棲艦と関わりを持っていたとなれば
考えるなという方が無理であろう。
 


しかし
 


「別にそんな人間がおってもええと思うで?ウチは。
ちゅーか、そんなに気にする事あらへんやん。
大事なんは、今。ちがうかー?」


龍驤の発言に、異を唱えた者は返す言葉を失い黙り込んでしまった。
 


「Hey,Hey.everybody!今日はNew Fleetが集まったPartyネー!
楽しくいきまショー!」


「そうですよ~。お酒は~楽しく飲みましょ~えへへ。」


「うん、そうだねって、もう飲んでるし……ポーラは飲み過ぎだから、後でザラに叱ってもらわなきゃだね。」


「そんなぁ~……だったらもう、飲むしかないですぅ。」


最上とポーラのやり取りで、店内に皆の笑い声が響き渡るが
それを遮るように、龍驤が続ける。
 


「それに、や。
そもそも、この話をお上が知っとるんやったら、軍人にはなられへんやろ?
それどころか、下手したら何かしらの罰を受けとるはずや。
つまりは、”そう言う事”やろ?大尉はん?」


「あぁ、龍驤の言う通りだよ。この事を知っているのは谷崎提督、それに
ここに居るみんなだけだ。」


「っかぁ~……相変わらず本部のお偉いさん方は…
ちゅうか、大尉ぃ~。お主も悪よのぉ~?」


「人聞きの悪い事を言わないでくれよ。俺の”出生について”は
何も間違った事は報告していないぞ。」


龍驤のツッコミに乗っかる形で、時任も笑いながら返すが
他の艦娘たちからは『いや、それ駄目でしょう!』的な視線が注がれる。


「まぁ、『俺の秘密を知ったからには…』なんて脅したりする事は無いけど
所構わず言いふらすのだけはやめて欲しいな。」


と、時任が懇願した後、時任がこれから指揮を執る事に
異を唱えたうちの一人である鬼怒が、苦笑いをしながらポツリと漏らす。


「こんな事、言える訳がないじゃん……ただ」


「ただ?」


「なんかさー、頭が混乱?っていうか、整理出来ない感じなんだよねー……」


すると、瞬時にツッコミが入る。


「えっ?き、鬼怒さんが、混乱?」
「鬼怒、大丈夫かい?熱でもあるのかな?」
「Oh……明日は魚雷が降るかもデース!」


「ちょーーーーっ!てか、金剛さん!魚雷が降るって何?
もーーー、こういう時の皆の連帯感、マジパナイ……
電ぁ~皆がいじめるよ~」


鬼怒が隣に座っている電に助けを求めると、一際大きな笑い声が漏れた。
 


うん。思ったよりもいい雰囲気だ。やっぱり話をして良かった。
もっと拒絶、というか批判されるかと思ったけど、龍驤の一言で
ある程度は納得してくれたみたいだ。


尤も、多少の蟠りは残っているだろうから、後は俺の出方次第
って所だろう。
 


時任は自身が率いる艦隊の面々を見ながら、満足そうにしていると
みんなから、好いように遊ばれていた鬼怒から文句を言われる。


「ちょっと大尉ぃー!なーに一人で満足気な顔してんのさ!
あたしだって悩む時くらいあるんだからね!大体モゴォ」


「はーい、鬼怒さん。楽しい場が台無しになるけぇ、
もうその辺でええじゃろう?」


浦風に後ろから口を押さえられ、声にならない声を発した後
”まぁ、そうなんだけどさぁ”
と、ぶつぶつ言いながらも大人しく席に座り直す鬼怒。


すると、時任が立ち上がり、艦娘たちへ話し掛ける


「まだ実績も何も無い俺に、大層な事は言えない。
けれど、君たちの事を裏切る様な真似は絶対にしない。
これだけは信じて欲しい。」


真剣な眼差しで、そう訴える時任の姿を見た艦娘から
自然と拍手が起こる。


「みんな、ありがとう。
だがこういう席で、みんなを混乱させるような話をしてしまった事は謝る。
この通りだ。」


そう言って、時任は頭を下げ、改めて謝罪をする。


「ちょ、ちょっと大尉!そんな風に謝らないでよ。
そんな事されたら、まるで私が」


「「「「鬼~~~~怒~~~~」」」」


「ほら、こうなったぁぁぁーーーーー!」
 


時任率いる艦隊において、鬼怒がいじられキャラとしての地位を確立した瞬間であった。


 


「それじゃあ、オチもついた所で」


「オチって言うなぁ!」


「まぁまぁ、もうええやんか。ほな時雨、秘書艦からも一言もらおか?」


「え?僕?い、いいよそういうのは。」
 


龍驤からの突然の振りに戸惑う時雨だったが、
周りからの”早く早く”という視線に耐えられず、諦めの表情で
グラスを持って立ち上がる。


「じゃ、じゃあ、みんないいかい?」


恥ずかしそうに咳払いをして、時雨が続ける。


「まだまだ僕らのやるべき事はたくさんある。
けど、時任大尉の下みんなで頑張っていこう!」


「New Fleetに!」


「大尉とみんなの勝利を願って!」
 


「「「「「乾杯!!」」」」」


 


 


そして、何事も無く楽しいひと時が過ぎていく……
 


 


 


 


 


訳が無く・・・
 


「えへへへぇ~~大尉ぃがふ~たり~…ん~?三人いますぅ~?」


「ネェ~大尉~。良く見るとぉ~谷崎テートクと同じくらいの
Nice Guyネー。
ワタシとー、Burning な Loove してみマスカー?」
 


時任に絡むポーラと金剛の隣では
 


「ヒック……大体ですねぇ、浦風さんはぁ~能天気過ぎます!
もっとこう、ピシッとですねぇ……」


「能天気て……ちょっとも~誰~?朝潮に飲ませた人ぉ~
さっきから同じ説教の繰り返しで、うちかなわんよぉ~」


浦風に説教を始める朝潮の姿が、そこにあり
 


「私だってね、瑞鶴みたいにね、幸運艦ってね、呼ばれてみたいの……
でもね、被弾するのはいつも私……
同じ翔鶴型なのに何が違うんですかー?何で私には幸運の女神がいないの?
ねぇ、聞いてますか?龍驤さんてば!」


そう言って、自身の上半身を激しく密着させながら訴えてくる翔鶴に対し
無表情のまま”ウチだってそのうち大きくなる”
目のハイライトをオフにしたまま、ぶつぶつと繰り返す龍驤。


 


気がつけば、部屋の中は完成品という名の酔っ払いで埋め尽くされつつあり、
助けを求めても、求めた先に更に絡まれるというカオスな空間が広がっていた。
 


そんな喧騒を避けつつ、遠巻きに見ていた時雨の横に浦風と電が
”避難、避難!”
そういいながらやってきた。
 


「いやぁ~もう、参ったわぁ……朝潮は、普段が真面目な分
何かしら抱えこんどるんじゃろうか?」


「ふふっ、そうかもね。でも浦風も”ピシッ”とした方がいいんじゃないかな?」


「もう、そりゃええて。勘弁してよぉ…」


普段いじられている分、ここぞとばかりに時雨がやり返す。


「でも、みんな楽しそうなのです。」
 


電の言葉に、時雨も浦風も頷き、改めてここに集まった艦娘たちを眺める。


元々この鎮守府に在籍している者達が集められた為、見知った顔ばかりではあるが
この面子が、一つの部隊として結成されたのは初めての事である。


「最初、このメンバーを見たときは、どうなる事かと思ったよ。
でも、大丈夫みたいだ。上手くやっていける気がするよ。」


完成品(酔っ払い)の面々を見ながら、時雨がそう呟くと
浦風と電が顔を見合わせ、笑い出す。


「え?何かな?僕、変な事言った?」


「いやいや。”あの時雨さん”が大人になったなぁ~と。
なぁ、電?」


「なのです。ふふふっ。」


「ちょっと二人とも。大尉の秘書艦を務めてる僕に対して、
それは失礼なんじゃないかな?」


”全く、もう!”


そう言って怒った様に振舞ってみせるが、その表情は笑っていた。


 


『本当に、この二人には敵わないな……
いつも、側に居てくれる。』


 


「なぁに、心配いらんよ。これから大尉の事は時雨がサポートして
時雨の事はうちが…ううん、うちらがサポートする。
だから大尉の部隊は大丈夫じゃて!」


「うん!有難う。」


 


そうだ。


僕たちは一人じゃない。


みんながついてる。
 


だから、安心していいよ。大……尉?
 


普通の流れでいけば、”僕たちの戦いはこれからだ!”的な締めになるはずだが


そう簡単には問屋がおろしてくれない。


 


「提督ぅ飲んでるぅ~?あ、ごちそうさまがぁきこえな~い。
これも飲んで飲んでぇ~? 」


「も、もう勘弁してくれ……」


時雨が声のする方角を見ると、半裸状態で時任に酒をすすめるアル重がそこに居た。


恐らく時任はあまり酒が強い方ではないのだろう。
余程飲まされたのか、完全にグロッキー状態であった。
 


「……ちょっと、おいたが過ぎるようだね。ポーラ?」


「えへへぇ~……ぴぃっ!」
 


どこから声を出したのか?と思えるような悲鳴を上げたポーラの視線の先には
正に”見た者が凍り付く”という表現がぴったりな表情をした時雨が立っていた。


 


それから数分後、ポーラは時雨の通報によって駆けつけた姉のザラにも
こっぴどく叱られた後、引きずられるように連行されていった。
 


「大尉、大丈夫かい?」


「あ、あぁ……なんとか、ね。助かったよ時雨。」


「もう、無理に付き合う必要無いんだよ?
じゃあ、そろそろお開きにしようか。さぁみんな、撤収撤収!」


「あれ?龍驤さんがいないよ?」


「あぁ、さっき翔鶴さんから逃げ出して、外の空気吸ってくるって言ってたよ。」


「ふーん、そっか。龍驤なら大丈夫かな?」
 


 


宴会が終わり、メンバーが各々帰り支度をしている頃
店から少し離れた場所で、龍驤が空を見上げながら佇んでいた。


暫くすると、徐に通信機を操作し、通話を始めた。
 


 


「もしもーし!あぁ、ウチや。
ん?ちょっち酔うとるかもな。あはははぁ。


大丈夫やって、ちゃんと見とるから心配しいな。


うん。
うん・・・。


そうやなぁ…今のところは何とも言えんけど……


でもアンタの方が大変やろ、今は。


・・・うん。


まぁ、いざとなったらウチが体張ったる。
アンタの為に、な!


だからホンマ、無理だけはせんといてな?


また連絡するわ、ほな。」
 


通信機の電源を切り、ふうっと息をはいて空を見上げる。


「大丈夫や。ウチはアンタの為なら、この命、惜しくは無いよ。」


そう一言呟いた後、龍驤は帰路にについた。

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