おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏⑳

20.【新しい絆】


「報告します!田邑大尉、まもなく目的地へ到着致します!」


「ん~?あぁそう。それじゃあ、準備をしますかねっ!と。
あ~めんどくせぇなぁ、もう。」
 


田邑と呼ばれた士官は、さも気だるそうに立ち上がり
これから向かう島への上陸準備を始めた。


『まぁ、こういう事からコツコツとやってる姿を見せるのが
世渡り上手な方法ってね。めんどくせぇけど……
さて、と。』


さも気だるそうに周囲を見渡すと、漁船が数隻作業をしているのが見える。


すると、田邑はおもむろに拡声器を持ち出し、それを漁船の方角へ向け
話し始める。
 


「お仕事、ご苦労様で~す!今日は大漁ですかぁ~?」


田邑の問い掛けに反応する様に、漁船が汽笛を鳴らす。


「何か困った事があったら、いつでも言って下さいね~!
我々が~直ぐに駆けつけますんで~!」


そう言って漁船の方角へ、にこやかに笑みを浮かべながら敬礼をしてみせる。
 


「第一印象は大事、ってね。
そんじゃま、行くぞ~、神保ぉ。」


「……はい。」


 


田邑たちが島へ上陸し、周囲を見渡していると、一人の老人が声を掛けてきた。


「おやおや、軍人さんがこんな田舎の島へ何の用かね?」


「はい!自分達は」


神保が説明をしようとすると、それを遮るように田邑が話を続ける。


「私の隊に、この島出身の者が居ましてね。
もしご存知でしたら、”時任 初枝”という方の家を教えて頂きたいのですが。」


「あぁ、初枝さんの家かい。だったら、ワシの向かう方向と一緒だから
ついて来なされ。」


「えぇっ!教えて頂けるだけでも有難いのに、案内までして下さるんですか?」


「ほっほっ。なぁに、遠慮はいらんて。
あんたら軍人さんの手伝いが出来ない老いぼれには
このくらいしか出来んからねぇ。
さぁ、こっちだよ。」


「助かります!では、宜しくお願いします!」


 


その頃、初枝の家では万が一を考え、数人が集まり静流を隠すべく
慌しく動き回っていた。


「少し、狭いかな?でも、ちょっとの間だから、辛抱しておくれよ静流さん。」


「イヤ、問題ナイ。大丈夫ダ。
ソレヨリモ、私ノセイデ、皆ニ迷惑ヲカケテシマッテ……」


「何を言ってんのよ。あたしら皆、静流さんの事が大好きなんだからさ。
大したことは出来ないけど、こんな時くらい頼ってちょうだい。」


「アリガトウ。本当ニアリガトウ……」


「一道はアタシが見てるから、こっちの心配は要らんよ。
あんたと一緒に居て、急に泣き出しでもしたら大変だからね。」


「アァ、ソウダナ。ヨロシク頼ム、初枝。」
 


一通り、静流を匿う準備が整った頃、村の若い男が一人
息を切らせながら、初枝の家に転がり込んできた。


余程急いで走ってきたのか、何かを伝えようとするが
息が切れていて、上手く伝わらない。


見かねた初枝が水を渡すと、一気にそれを飲み干した。
 


「あ、有難う……っと、そんな事よりも、初枝さん!
ここに例の軍人が来るんだよ!」


その言葉を聞いた瞬間、中に居た村人たちに緊張が走る。


『何で真っ直ぐにここへ?』
『もしかして、静流さんの事はばれてるの?』
『いやそんな事は……』
 


村人たちがそれぞれ、疑念を抱き始めた頃、初枝が男に向かって話し掛ける。


「その軍人は、他に何か言っていたかい?」


「い、いや。ただ、初枝さんの家を教えてくれと。」
 


ふむ……


急にこの島に軍人が来る事も、確かにおかしい。
だが、静流の事に関しては、村全体で細心の注意を払ってきていたし
村の人間が、静流を売るような真似はするまい。


ここはまず、向こうの出方をみる事が先決。


そう考えた初枝は、家にいる皆にこう伝える。


「いいかい、みんな。ここで話していても埒が明かない。
話はアタシがするから、皆はいつも通りにしていてくれるかい?
それと、極力静流がいる方向は見ないようにしておくれ。」


「うん。」
「わかった。」
「はいよ。」


 


「さて、と……」


皆の返事を聞いた後、初枝は一道を抱いて静流が隠れている襖をゆっくりと開け
話し掛ける。


「いいかい、静流。これからここに軍人が来るみたいだよ。
でも、何があってもここから出ない事。いいね?」


「……ワカッタ。一道ヲ、一道ノ事ヲ、頼ム。」


「はいよ。任せておきな。」
 


 


それから暫くした後、軍人が二人、初枝の家にやってきた。
 


「ごめんください!時任初枝さんはいらっしゃいますか?」


その呼び声を聞いて、一道を抱えた初枝が顔を出す。
「はいはい。どちら様ですかね。」


初枝の顔を見るや、軍人二人は姿勢を正し、うち一人が自身の名を告げる。


「私は海軍所属、田邑 樹(たむら いつき)大尉であります!
本日は、急に押しかけてしまい、大変申し訳ございません!」


「そんなかしこまらんでもええですよ。それで、軍人さんが
ワタシなんぞに何の御用ですかね?」


「えぇ……実は……大変申し上げにくい事なのですが、
ご子息についての事でお伺いしたのです。」


「……正義、の?
あらま、また何か皆さんにご迷惑でもお掛けしましたかね?」
 


『正義?今、正義と言ったのか?』
家の奥で聞き耳を立てていた静流は、その名前に反応する。


”もしかしたら、あの男の事が分かるかもしれない”


そう思い、静かに動向を伺う。
 


「い、いえ、迷惑なんてそんな……
彼は隊でも良く働いてくれて”いました”。」
 


”いました。”



確かに目の前の軍人はそう言った。


何故過去形なのだろうか?


すると田邑と名乗った軍人は、神妙な面持ちで初枝に告げる。


「ご子息は……時任 正義君は、深海棲艦との戦いにおいて
…”戦死”されました……」


『……っ!?』


「えっ?い、今なんと?」


突然告げられた正義の死に対し、二人とも混乱する。


『『……正義が、死ん……だ?この人(間)は何を言っているんだ?』』
 


「本来であれば、もっと早くにお知らせすべき事でありましたが
深海棲艦との戦いが、苛烈を極めている現状をご理解頂ければと思います。」
 


『理解、だと?あの男が死んだ事を、どう理解すると言うのだ!』


静流はそう言って憤るが、その原因を作ったのが、同胞である深海棲艦とあっては
初枝に掛けてやれる言葉が見つからない。


それよりも、正義が死んだ事を責め立てられるかもしれない。
今までよくしてくれた村人たちからも、同様に非難されるかもしれない。


”助けるんじゃなかった!”
”やっぱり敵だ!!”
”殺してしまえ!!!”


自身を非難する人間の声が、静流の頭の中で木霊する。


『恐らく初枝の心中も、深い悲しみと怒りでいっぱいだろう。
私は、彼女になんと詫びればいいのか……』


そんな事を考えていると、また、初枝と軍人の声が聞こえてきた。


 


「そう、ですか……まぁ、志願して軍人になったのだから、
こうなるかもしれない事は、私も覚悟はしておりました。
恐らく本人も本望でしょう。


それで息子は、正義はいつ、どこで死んだのですか?」


「正義君は、半年ほど前の〇〇〇島付近の戦いにおいて、撤退途中に
戦死……されました……っく!」
 


「そう、ですか……。息子は、正義は立派でしたか?」


田邑は時折言葉を詰まらせながら、どんな状況であったかを初枝に説明をする。


初枝の息子が、いかに勇敢であったかを……
 


初枝は田邑の話を聞き終わると、取り乱すような事も無く、
毅然とした態度で田邑へ礼を述べる。


「わざわざこんな遠い所まで、息子の事を知らせに来て下さって
有難うございました。」


自身の息子が亡くなったにも拘らず、”情勢を考えれば仕方の無い事。”


初枝はそう言って、納得していた。


しかし。


『いや違う!何かがおかしい。』


はじめは、”正義の死”の報告を聞いて、途方にくれかけた静流だったが
田邑の話の中に、とある違和感を感じていた。


『確かこいつは”半年前の〇〇〇島”と言っていた。
そこは私と正義が出会った場所のはず。
それにあの近海では、私達がいる間、他の深海の者は見かけていない。
私と正義が別れたのも、半年ほど前のはず……』


その時静流は、ふと正義の言葉を思い出す。


『俺も反逆罪で捕らえられ、””極刑””は免れられないだろう。』


確かにそう言っていた。
 


『まさか……まさか、こいつらが正義の事をっ!』
 


「それでは我々はこれで。明日の朝までは近くにおりますので、
何かお力になれる事があれば、何でもおっしゃって下さい。」


「そのお気持ちだけで十分ですよ。
ご苦労様でした。」


初枝はそう言って礼を言い、二人が見えなくなるまで見送っていた。
 


そして
 


「……聞いていたかい?」


声を聞いていた限りでは、気丈に振舞っているように思えたが
改めて彼女の表情を見ると、憔悴しきっているように見える。


「……アァ。スマナイ、イイ言葉ガ浮カンデコナイ。
ダガ聞イテクレ。アイツラノ話ニハ、少シオカシナ所ガアル。」


「おかしなところ?」


「落チ着イテ、聞イテクレ。」


そう言って、静流は自身が不審に思った事を、
事実と違うかもしれないと言う事を伝えた。
 


 


「……まさか、そんな……じゃ、じゃあ、正義は人間に
同じ仲間の軍人たちに殺されたって言うのかい?」


「ソノ可能性ハ高イ。私ハ、ソウ思ウ。」


「でもね、仮にそうだとして、なんで正義が……」


初枝は、ハッとした表情で言いかけた言葉を飲み込む。
なぜなら静流が俯きながら、今にも泣き出しそうな声で呟いたからだ。


「恐ラク、私ノ……セイ、ダ。」
 


あの時、正義が発した言葉。


それが本当だとしたら、正義が死んだ原因を作ったのは自分。


私と関わったが為に死んだと言う事になる。


その事実を知った時、初枝はどう思うだろうか?


いや、そんな事は分かりきっている。


目の前に息子の敵がいるのだから、相応の非難はされるだろう。


しかし初枝には、初枝にだけは嘘はつきたくない。


何を言われようとも、真実を告げるべきだ。


意を決して、初枝にその事を話そうと顔を上げた瞬間、
静流の耳に、聞き馴れた大きな笑い声が聞こえてきた。


「静流。アンタまさか、”自分と正義が出会ったから死んだ”
なんて思ってるんじゃないかね?」


「エッ?シ、シカシ、ソウトシカ」


「そうだとしたら、私は息子の事を誇らしく思うよ。
”よくやった!”って言って褒めてやりたいくらいさね。」


そう言って初枝は穏やかな笑みを浮かべながら、静流に語りかける。


「息子が…正義が静流と出会ったからこそ、今もこうしていられるんじゃないか。
けっして、静流のせいなんかじゃあない。」


初枝はそう言って、静流を抱き寄せて優しく、諭すように続ける。


「きっと正義の事だ。アンタが自分の事で負い目を感じる事なんか
望んでなんかない。だからお願いだよ…
息子の事で、自分を責めるなんて事はしないでおくれ。」
 


初枝の言葉を聞いた静流はその場で泣き崩れ、
暫く立ち上がる事が出来なかった。


 


 


 


 


~鎮守府近くの丘~


 


「それで港湾棲姫、いや、こういう言い方は失礼だよね。
静流さんはその後どうなったの?」


「あぁ、うん。実は俺が祖母から聞いた話はここまでなんだ。」
 


時任の話では、静流は軍人が家に来た翌日の朝、自分と手紙を残して
いなくなっていたとの事だった。


手紙には、”一道をよろしく”とだけ記されていたと言う。


「だから今どこにいるのか、何をしているのかは分からないんだ。」


「そっか……ねぇ、大尉。一つ聞いてもいいかな?」


「ん?何だい?」


時任が話を始める前に言っていた言葉。
時雨には彼の”戦う理由”と言うのがまだ、良く分かっていない。


今日の話しだけでなく、今までの彼の態度を見ていると
時任が好戦的な人間ではない事は分かる。


だが…


「大尉が軍にいるのは、最初に助けてくれた人。
正義さんの事を調べたり、あわよくば」


「その、”かもしれない人”に復讐を考えている。とでも?」


「う、うん……」


「……そう思われても仕方ないよな。でもそんなつもりはないよ。
ただ実際に、その人と会ったら感情を抑えきれないかもしれない。」


苦笑交じりにそう言うと、時任は少し悲しそうな表情をしながら言葉を繋げる。


「だけど、それを繰り返していたら、延々と終わらないんじゃないかな?
人と深海、それに人と人。憎しみ合うだけで、何か生まれるのかな?
って、これもばぁちゃんの受売りだけどね。」


そう言って、時任は悪戯っぽく笑っている。


「……確かにそうだ、ね。大尉の言いたい事は分かるよ。
でも、そうすると僕は、僕たち艦娘は一体何なのかな?」


「それは……」


深海棲艦に対抗できる存在として、人類の前に突如現れた艦娘。
然しながら、現時点では詳細は不明のままだ。


唯一分かっているのは、艦船時代の記憶をそれぞれが持っている
という事だけである。


言葉に窮している時任に対し、時雨が続ける。


「やっぱり僕たちは”戦う為の兵器”…なのかな……」


俯きながら時雨がそう呟くと、時任が即座にそれを否定する。


「違う!それは違うよ、時雨。
そんな悲しい事、言わないでくれ。……頼むよ。」


「……ごめん、少し意地悪な言い方だったね。」


時雨は軽はずみな発言だったと素直に詫びるが
同時に、時任が否定してくれた事に安堵する。
 


「……いや、俺も大声を出してごめん。
でもね、時雨。聞いてくれるかい?」


そう言うと、時任は時雨の方へ向き直り、改めて話し掛ける。
 


「俺は、君たち艦娘が現れた事については、正直分からない。
でも突然とはいえ、理由もなしに現れたとは思えないんだ。
だから、きっと何か意味があるんだと、俺は思ってる。」


「僕たちが、現れた意味……」


「父さん(時任正義)と母さん(港湾棲姫)が出会った意味、
俺が谷崎提督や時雨たちに出会った意味。
必ず何か意味があるんじゃないかな?


勿論、これらはただの思い込みで、意味など無いのかもしれない。
安っぽい感情論を引っ張り出して、それに浸りたいだけなのかもしれない。」


「大尉……。」


時雨の心配そうな表情に気付いた時任は、ばつが悪そうに頭を掻きながら
時雨に謝罪をする。


「ご、ごめん。つい熱くなって……。本当にごめん。」


「そんな、気にしないでよ。ちょっとびっくりしたけどね。
僕は大尉の色んな面を知る事が出来て嬉しい、かな?うん。」


「俺もまだまだだなぁ。」


「うん、そうだね。もっとしっかりしてくれなきゃ!」


「……ガンバリマス。」


「大尉。僕、何となくだけど、大尉の”戦う意味”が分かった様な気がするよ。
まだ、全てを理解は出来ていないけど、さ。
だから、これからも……その、何でも話して欲しい、な。」


「あぁ、そのつもりだよ。だから話をしたんだ。
分ってくれて嬉しいよ。


さて、そろそろ戻ろうか。他の皆も戻ってくる頃だし。」


「うん、そうだね。
ねぇ大尉。話を聞いていたら、僕も静流さんに会ってみたくなったよ。」


「会えるさ、きっとね。だからその為にも」


言葉を言いかけた時任を遮るように、時雨が自身の指を唇に当て、
”静かに”と言う合図を送った後、少し離れたところにある大木を指差す。


はじめは何の事か分からなかった時任だったが、
大木の根元に二つの陰を見つけ納得する。
 


「い、いなずまぁ~、泣かんでよぉ~。
ウ、ウチまで、もらい泣きしてしまうじゃろう~?」


「だって……だって、こんな話を聞いたら、涙が止まらないのです~」
 


影の主は浦風と電だった。
恐らく時任と時雨が二人で出かけたのを見て、後でからかうつもりで付いて来たが
思わぬ話を聞いてしまい、出るに出られなくなってしまったのだろう。
 


「んっ、おほん!
盗み聞きとは、感心しないな。なぁ、秘書艦殿?」


「うん。全くだね。
そんな事をするなんて、二人には失望したよ。」


「はわわわっ!」
「い、いや~これには深い訳が……」
 


ばつが悪そうに言い訳をしている二人を見て、時任と時雨が笑い出す。


「「ごめんなさい」」


「いいさ、別に。実はこれから皆にも話そうと思ってたからね。
さぁ、そろそろ腹も減ってきたし、帰ろうか。
宴の準備をしないといけないし、な!」


「うん。」
「そうじゃね!」
「はいっ!なのです!」
 


”あぁ…そうだ。


僕は、大尉みたいな人間を探していたのかもしれない。


この人なら、心から信じられる。


だったら僕のするべき事は一つだ。


大尉を助けられる艦娘になろう。


時には盾となり矛となり、大尉に信頼される力になろう。”


時雨は時任の告白に、その思いをより強くした。

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