おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏⑰


~forget me not~


17.【誓い】


~とある海域にて~
 



「その情報は確かなのか?」


「はっ!哨戒中の偵察機からは、この一週間で三度、目撃したとの報告です。」


「この辺りまで棲地があるとはな。よし!先手を打てるまたとない機会だ!
機動部隊及び上陸部隊を編成し、ヤツらを殲滅しろ!」


「それと、別にご報告が……」
 


 


男と港湾棲姫が、お互いに『ここで暮らすもの悪くない』
そう思い、男が助けた幼子も含めた三人での暮らしを始めてから
三ヶ月が経とうとしていた。


男と港湾棲姫にとって、いや幼子にとっても幸せな時間であったであろう。


この島で、お互いが憎み合う事も傷つけ合う事もせず、穏やかに、
ただ静かに暮らす事が出来ていたのだから。


しかし、その幸せな時間は唐突に終わりを迎える事となる。
 


その日も男は、いつもの様に幼子と一緒に、彼女が来る事を心待ちにしていたが
陽が暮れても姿を見せなかった。


”今日はもう来ないのか?”


そう思っていた時、港湾棲姫が身体を引き摺るようにして
男のもとへ現れた。


良く見ると、致命傷ではないものの、至る所に撃たれた様な傷があり
戦闘をしてきた事が伺えた。


その姿に驚いた男は、すぐさま彼女に横になるよう促したが
彼女はそれを拒み、男にこの場からすぐにでも離れる様に、と伝えた。


「まてまて!一体どうしたんだ?訳くらい聞かせてくれ。」


少なからず、二人で同じ時間を共有してきたのだから、今更隠し事などして欲しくない。
その想いから出てきた言葉だった。


すると、少しだけためらいの表情を見せた港湾棲姫だったが、男の目を見て
観念した様に、話を始めた。


彼女の話はこうだった。


いつもの様に、棲地からこの島へ向かう途中、多数の爆撃機の襲来があった。
何とか撃退はしたものの、棲地への退路を絶たれていた為、
こちらへ流れてきてしまった、との事だった。


「私トシタ事ガ……気ヲ緩メスギテイタヨウダ。
ソンナ事ヨリモ、早ク」


「攻撃は空からだけだったのか?」


彼女の言葉を遮るように、男が問い掛ける。


「ソウ、ダナ。少ナクトモ、私ノ探知デキル範囲ニハイナカッタ。」


その答えを聞くや否や、男は双眼鏡を手に、海岸へ向けて走り出した。
そして周囲を見渡し、何かを見つけ舌打ちをした後、彼女の元へ戻って行く。


住まいに戻ると、彼女は幼子を抱えたまま、不安な眼差しを男に向ける。


”まずは自分が冷静にならなければ”
男は努めて冷静に、現状を話し始める。


「……上陸部隊が、この島へ向かっているのが見えた。
恐らく、地形的に戦いやすいこの島へ誘導されてしまったんだろう。」


「……ソウ、カ。スマナイ、迷惑ヲカケタヨウダ。
スグ、私モ此処ヲ離レヨウ。」


「いや、恐らくその時間もないかもしれん。何か別の方法を考えよう。」


『どうする……?このままではまずい。考えろ、考えるんだ!』


その時、港湾棲姫が抱かかえていた幼子が、無邪気にも笑い出した。
まるで”二人でそんな難しい顔をしないでよ”
そう言っているように思える笑顔で。


その笑い声を聞いた男は、港湾棲姫へ一つの提案をする。


「なぁ、この子の面倒をこれからも見てやってくれないか?
やはり、母親ってのは必要だと思うんだ。
お前たちが無事安全な場所に行ける様に、その為の道を、
俺が今から作る。だからその子を、頼む。」


「ナ、ナラバ、オ前モ一緒ニ……」


港湾棲姫からの言葉に、男は首を横に振り、優しく諭すように言葉を掛ける。


「俺だって本当ならそうしたい。だが、このまま俺たちが一緒にいる所を
軍の人間に見られたらどうなると思う?
お前は捕虜となり、俺も反逆罪で間違いなく捕らえられ、極刑は免れられないだろう。
もしそうなったら、この子は誰が守るんだ?」


確かに男の言う通りだ。


実子ではないにせよ、反逆者の子供、しかも深海棲艦と一緒に居たと言う事で
何かしらの咎めを受けるかもしれない。


仮に咎めが無かったとしても、子供の将来に暗い影が掛かるであろう事は
容易に想像できる。


ならば、自分が優先すべきは何なのか?


考えるまでも無く、もう答えは出ているではないか。


覚悟を決めた表情で、港湾棲姫は男にこう伝えた。


「ワカッタ。コノ子供ハ、私ガ守ロウ。コノ身ニカエテモ。」


それを聞いた男は、満足そうに笑みを浮かべた後、手早く身支度を整える始める。


男の表情にも、迷いや悲壮感は感じられない。
むしろ、二人を安心させる様な穏やかな雰囲気を纏っていた。
 


そして……
 


「今から俺は、正面の海岸へ向かう。そして、軍の連中に向かってこの旗で
合図を送った後、1発の信号弾を打ち上げる。これがお前たちへの合図だ。
信号弾を確認したら、二人で反対側からこの島を脱出しろ。
何があっても、こちらを気にせずここから離れるんだ。いいな?」


男の問い掛けに、港湾棲姫は無言で頷く。


すると男は、二人を自身の方へ抱き寄せた後、海岸へ向けて歩き出す。


だが、数メートル程離れた場所で二人に背を向けたまま、立ち止まってしまった。


「……ドウシタ?」


不思議に思った港湾棲姫の問いに、男は背を向けたまま答える。


”あまり好きな言い方ではないが”と前置きをして。


「直ぐには無理かもしれないが、いつの日かこの戦争が終わって
人間と深海が手を取り合って行けることを、俺は願っている。


そして、その日が来たら……その時は俺と」


「私ト、コノ子供ト、一緒ニ暮ラソウ。私モ、ソウ願ッテイル。」


男は驚いて振り向くと、そこには優しい笑顔を作りつつも、目に涙を浮かべた
港湾棲姫が立っていた。


「オカシナモノダナ……マダ、オ互イノ名前モ知ラナイトイウノニ……。
ダガ、オ前トナラバ、求メテイタモノガ、ミツカルカモシレナイ。
ソウ、思エルノダ。」


「そう、か。おまえたち深海の者にも名があるのだな。
よし!では、それを聞くことを楽しみにしているよ。」


「アァ、オ互イニナ。」
 


”必ず、またいつの日か!”


そうお互いに声を掛け、男は二人を守る為、港湾棲姫は男との約束を守る為
それぞれの場所へ向かった。
 


暫くした後、男が言った通り、一発の信号弾が打ち上がり
それを見届けた港湾棲姫は、打ち上げられた信号弾とは反対側の海岸から
幼子を連れて、島から脱出した。
 


そして、二人の目から島が小さくなりかけた頃、島内から一発の銃声が鳴り響く。
無論、この乾いた音が引き起こす悲劇を、当時の港湾棲姫は知るよしも無い。

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