おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏⑫

~forget me not~


12.【苦い記憶】


敵戦闘機の襲来から、もうどれくらい経っただろうか。


駆逐艦だけの編成にも拘らず、時雨以下5名の艦娘たちは大きな損傷も無く
奮闘していた。


しかし直掩機もいないこの状況下では、形勢不利は否めず、次第に押され始める。


「かなりの数を落としたと思うけど……もう指が疲れてきたよ~。」
「無駄口叩く余裕があるなぁ、まだまだ行けるって証拠じゃね。
頑張りんさい、いちばんさん!」
「いちばんさん言うなぁ!でも、見てなさいよ~!」


いちばん張り切っていた艦娘がいちばんに根を上げるも、
浦風からツッコミという名の檄をもらい、再び敵機へ照準を向け、砲撃を再開する。


「たぁ言うたけど、何か打開策が無いと少し厳しいねぇ、時雨。」


確かに浦風の言う通りだ。
まだ敵本隊も確認出来ていないのに、このままでは任務どころか
自身たちの身の危険もある。
何か、何か無いか。


ふと、前方を見ると小さな島が連なった場所を見つけた。
「春雨、確かあの島付近は、遠征の中継地点だったよね?」


「ええっと…はい!あそこだったら、体勢を整えるにはうってつけの場所です!」
あそこで体勢を整えるのはどうでしょう?」


「よしみんな、あの島まで移動しよう。ただし、後方警戒は怠らないようにね!」


時雨の指示の元、全員が移動を開始し、海域からの離脱を試みる。
すると、それに合わせたかのように敵戦闘機も離脱を始めた。


「……?どう言う事なのです?」
「ま、まぁ、このレディに恐れをなしたってところかしらね?」
「はーすごいすごい。レディは大したもんじゃねぇ。」
「もぅ!馬鹿にしてるでしょ!」


一難去った所で心に余裕が出来たのか、みんなの表情が少し明るくなる。


でも、何故敵は引いたのだろう?
そう考えながら空を見上げると、周囲に雨雲が広がり、雨が降り始めていた。


「なるほどね。まさしく恵みの雨、だね。」


空を見上げ、頬を伝う雨に心地よさを感じながら、時雨はそう呟いた。
 


少しでも休息が得られる。


各々がそう思った矢先、浦風が慌てた様子で叫ぶ。


「対潜ソナーに感あり!みんな、警戒を!」


いち早く異変に気付いた浦風が皆に警戒を促した次の瞬間、
爆発音と共に後方にいた暁と電の悲鳴によって
時雨たちは残酷な現実へと引き戻される。


「暁!電!」
「いったた……。許さない、もう許さないんだから!」


「…っ!そこか!おんどりゃーーー!」
浦風の怒声と共に爆雷が投射されてから数秒後、
敵潜水艦を撃沈させたであろう水柱があがる。
 


「ごめん、うちのミスじゃ。げにごめんなさい。」
「いや、気を抜いてしまった僕にも原因がある。浦風だけのせいじゃないよ。
暁、電、損傷の度合いはどうかな?」


「……私は中破だけど、暁ちゃんは大破してしまってます。ごめんなさい……。」


完全には防ぎきれなかったものの、機関部への直撃を避けられたのは
不幸中の幸いと言うべきか。暁に関しては辛うじて航行できる、と言った状況である。


二人の状況を見た時雨はすぐさま鎮守府への回線を開き、
神保からの指示を請う事にした。


「こちら時雨。現況の報告をするよ。
先程まで敵と交戦し、現在は遠征時の中継地点の島にて停泊中。」
『私だ。被害状況はどうだ?』
「敵潜水艦からの雷撃を受けて電が中破、暁が大破してる。」
『そう、か。それで、敵の侵攻状況は?』
「ごめん、今の所敵の本隊らしきものはまだ見つけられていないよ。
それで提督、今回の任務なんだけど」


潜水艦への警戒が疎かになってしまったのは、旗艦である自分の責任だ。
しかし大破艦が出ている以上、任務の続行は難しい。


その上で、神保へ撤退の進言をしようとしたが、時雨が言い終わるよりも先に
非情な言葉が神保から発せられる。


『敵の状況が把握出来るまでは、撤退は無い。引き続き任務を続行してくれ。』
 


この言葉を聞いた時、6人全員が自分の耳を疑った。


何かの間違い、聞き違いだ。


そう思って時雨は、改めて神保へ問い掛ける。
「て、提督?暁が大破してるんだよ?このままだと」
『……もう一度言う。撤退は無い。以上だ。』


神保はそう言い残し、一方的に通信を切ってしまった。


「ちょ、ちょお待って、今なぁ何よ?冗談じゃろう?
時雨、まさか提督の言う通りにする訳じゃないよね?」
「う、浦風さん!司令官さんにも何か訳があるんだと」
「春雨、あんたにゃあ聞いとらん!」
「で、でも……」


「二人とも、ちょっと落ち着こう。今は仲間内で言い争ってる場合じゃないよ。」


怒り心頭の浦風を宥めながら、時雨は考えを纏めようとしていた。
 


この状況下での撤退命令が出ないのは、確かにおかしい。
今までは中破未満での進撃はあっても、大破艦がいる状況では必ず撤退命令が出ていた。
このままでは、出撃前の浦風ではないが、全員に”沈んで来い”と言わんばかりだ。



様々な考えが浮かんでは消えていく中、偶然春雨と目が合う。
その時、ある情景が時雨の頭に浮かんだ。


数日前から、何度か提督室から一人で出入りしていた春雨の事だ。


何かのきっかけになればと思い、春雨に声を掛ける。


「ねぇ、春雨。提督から何か聞いてたりしないかな?」
「えっ?わ、私ですか?」
「うん。もし、何か知ってる様なら話して欲しいんだ。」
「わ、私は別に……何も……。」


煮え切らない態度の春雨に業を煮やした浦風が突っかかっていく。
「なぁ、春雨ぇ。何か知っとるんじゃったら教えてよ。
このままだと皆が大変な事になるよ!」
「そ、そんな……わ、私は……」



一触即発の空気になりかけたその時、黙って状況を見つめていた白露が
二人の間に割って入る。


「はーい!言い合いはそこまで!喧嘩は帰ってからでも出来るんだから
まずは、皆が無事に帰れる方法をいっちばんに考えよう!わかった?」


「お、おぅ。」


「わかればよし!んじゃ時雨、何か考えがあるんでしょ?後の事は任せるよ。」
「うん…有難う白露。」


『流石は姉妹。お見通しって事だね』
いちばんさんが長女っぷりを見せてくれたおかげで、険悪な雰囲気が
解消された事を感謝し、みんなへ一つの提案をする。


「みんな、聞いて欲しい。これは艦隊を預かる者の務めとしての意見だけど…」


これならば、自分たちの安全を確保しつつ、且つ作戦立案者の神保の顔を立てられる。


ただ、さっきの通信を聞いた後ではあまりいい顔はしないかもしれないけど
現状ではこれが最善と思う。


そう考えた時雨が提案したのは部隊を二つに分ける事。
そして各部隊の任務は次のように伝えた。


※一つの部隊はこのまま進軍を続け、敵の本隊を確認次第撤退。
※もう一つの部隊は、大破した暁を護衛しつつ撤退。


「どう、かな?」


「まぁ、ええじゃろう。少しだけ気に入らん点があるけど、
そうも言うていられんけぇのぉ。うちは時雨に従うよ。」
「私もそれでいいと思います。」
「有難う。それで編成なんだけど、任務続行は僕と春雨、それに浦風。
白露には暁と電の護衛を頼みたいんだけど、いいかな?」
「もっちろん!お姉ちゃんにまっかせなさい!」


作戦は決まった。
後は進むのみ。


「じゃあ行くよ、春雨、浦風。白露たちも気をつけて!」
「時雨たちもね!ちゃーんと向こうで待ってるから!」


 


お互いの無事を祈りつつ、それぞれの方角へ6名が進み始めると
天候が更に崩れ、状況は悪化の一途を辿っていた。


「白露姉さんたち、大丈夫でしょうか?」
「今日の白露なら、任せられるよ。大丈夫。」
「確かに。珍しゅうお姉ちゃんらしかったよね。でもこがぁな事を言うとったら、
今頃くしゃみしとるかもしれんねぇ。」



そんな他愛のない会話をしていた時、
聞きたくない音が、考えたくない方角から聞こえてきた。


「っ!?爆発音?どこから?」
「ま、まさか……そんな」
「時雨、うちらも直ぐ反転して追いかけよう!今ならまだ……きゃぁあぁぁっ!」


いち早く反転し、白露たちの方へ向かおうとした浦風から悲鳴と共に
爆発音が響き渡る。
「浦風!!」


「し、時雨姉さん……あ、あれ……」
「う、嘘……何、この状況……。」


春雨が震える指で指し示した方角を見た時雨は、言葉を失い
ただ呆然とするしかなかった。


もし、言葉で表すならば『状況不利』などと言う言葉は生ぬるく
『絶望感』と言った方が当てはまる。


なにせ時雨の眼前に広がっているのは、”軽巡中心とした水雷戦隊”などではなく
”戦艦を中心とした水上打撃部隊”であったのだ。
 


「は、ははっ……とんだ……誤報じゃねぇ……。
二人……とも、はよ……う、にげ……んさい……。」
「何を馬鹿な事をいってるんだい!そんな事できる訳ないじゃないか!」


外から見ればよく分かる。
浦風はもう、自力では航行出来ないほどの損傷を負っていて
危険な状態であった。


時雨は周囲へ牽制射撃をしつつ、浦風を抱えながら海域離脱を試みるが
多勢に無勢、次第に追い詰められ、自身も中破してしまう。


「くっ……ここまで追い詰められるとはね。でも、まだ行ける!」
「姉さん!危ない!!」
「え?」


春雨の声が聞こえたかと思うと、その場から浦風と共に突き飛ばされ
その直後、春雨の悲鳴と共に爆発音が響き渡る。


「は、春雨!なんで……」
「い……一度……くらいは……み、皆さんのお役に、立ちたかったので……えへへ。」


無理やり笑顔を見せてはいるが、春雨の損傷も決して軽いものではなく
援護する為、何とか春雨に近づこうとするが、敵の砲撃が苛烈を極め、
思うように近づけない。


何か…
何とかこの状況を抜け出す術は…
考えるんだ!
このままだと春雨が……


敵への対応もしつつ打開策を考えていると、春雨は傷ついた身体を引きずりながら
立ち上がり、時雨たちに背を向けたまま、話しかける。
 


「・・て下さい……。」
「え?何だい春雨」


「行って下さい、時雨姉さん!ここは私が引き受けます!」
「何を言ってるんだ!そんな無茶な」
「私だって艦娘、姉さんと同じ白露型です!そう簡単にはやられません!」


そう言った後、春雨は時雨たちの方へ振り向き、精一杯の笑顔を見せてこう告げる。
 


「姉さん、笑顔ですよ笑顔。
……司令官さんの事、宜しくお願いします!」


そういい残し、春雨は囮となるべくその場から離れ、
爆煙が立ち込める敵陣へ突入していった。
 


『そんな、なんで……。僕はまた、仲間を護れないの……』


「ははっ。あはははっ。何がみんなを護る艦だ。僕は何も出来やしないじゃないか。」


自分の無力さに思わず笑いがこみ上げてくる。


『もう、どうでもいい』


そう思いかけた時、支えていた浦風の重みに気付き、我に返る。


だめだだめだ!今やけを起こしてどうする!
せめて浦風だけでも無事に帰さないと。


「浦風、少しばかり無茶をするよ。しっかりつかまっててね。」
「……あんたの無茶は、今に始まったことじゃないじゃろう。
気にせんじゃりなさいよ。」
「上等!」


狙うのは比較的戦力が弱く、違う艦種の隙間。
主砲の狙いを敵軽巡と駆逐艦の間に定め、加速を開始する。
 


今まさに敵と交錯すると思った次の瞬間、
時雨が狙いを定めていた敵たちが次々と爆音を轟かせながら沈んでいった。


「え?何?僕じゃ、ない。」


「邪魔だぁ……どぉけぇぇぇぇぇっ!」
「ちょ、ちょっと山城!時雨たちに当たったらどうすんのさ!」
「ふん!時雨だったら避けられるに決まってるでしょ!
最上に満潮!あんたたちはさっさと救援に向かいなさい!」


「やま…しろ?最上に満潮まで!みんな、どうしてここに?」
「説明は後だよ。兎に角今はここを離れよう。」


思いもよらない援軍の登場に戸惑いながらも、最上と満潮に誘導され
辛くも海域からの離脱に成功し、鎮守府へ帰港する事が出来た。


心配していた白露たちも、別働隊の援護を受け無事帰港出来たとの事だった。
 


中破艦1、大破艦4、そして未帰還1


時雨たちにとって、とてつもなく長く感じた一日が、漸く終わりを迎えた。

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