おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏⑪

~forget me not~




11.【開戦】


鎮守府近海にて行った戦闘から数日、深海棲艦の活動は活発の一路を辿っており
奇しくも、時雨が可能性の一つとして報告した事が現実味を帯びてきていた。


それに合わせて、鎮守府内においても遠征・哨戒だけでなく、工廠も
慌しく稼動していた。


「ふぅ……少しは落ち着いてきたかなぁ。でもうちに夕張がいてくれて助かったよ。
流石にこの量をひとりで捌くのはちょ~っと厳しかったからね。」


工廠の主である明石が、額の汗を拭いながら、隣で作業を手伝っている夕張に礼を言う。


「なんて事ないですよ、明石さん。あ、でも後で間宮で餡蜜奢ってくれてもいいですよ?」
「分かってるって。
それじゃもう一仕事、片付けよっか!」
 


一方、提督室内においても神保以下多数の艦娘が忙しなく動き回っていたが、
ある変化が起こっていた。


その変化と言うのは、今まであまり見かけない将校の出入りが多くなり、
提督室前には憲兵と思わしき人間が常に立っているようになった。
 


「なんか、随分と物々しい感じじゃねぇ。息が詰まりそうじゃ。」
「まぁ、仕方ないよ。大規模な作戦が始まるかもしれない訳だし。」


でも、ただの作戦前にしては物々しすぎる。何かいつもと違う。


そんな風に考え事をしながら、浦風・春雨と共に提督室前を通るといきなり憲兵から
怒声が浴びせられる。


「そこの艦娘!くっちゃべってないで、早く持ち場に戻れ!」
「何もそがいな大声出さんでもええじゃろう。ただ通りがかっただけなのに……」
「なんだと!」


「すまないね、憲兵さん。今すぐ持ち場に戻るよ。さ、行くよ浦風、春雨。」
すかさず時雨が助け舟を出し、足早にその場を後にしたが、普段は温厚な浦風は
余程腹に据えかねたのか、ぶつぶつと文句を言い続けている。


「何よあの人は!あ~もう、腹立つね。」
「まぁまぁ、憲兵と喧嘩してもいい事無いよ。それに提督に迷惑が掛かるよ。」
「そりゃぁそうじゃけど……って、おやおやぁ~?」


時雨に宥められた浦風だったが、面白いおもちゃを与えられた子供の様な笑顔を浮かべ、
にやにやと時雨を見つめだした。


「な、なんだい?僕、何か変な事言ったかな?」
「いや~~べっつにぃ~~?ただ、提督の事を心配するんじゃねぇ、
って思っただけよ。」
「べ、別に深い意味はないよ!どうしてそんな深読みするかな。」


動揺したつもりはなかったが、答え方が逆効果だったようで、かえって煽る結果になる。


「あれだけ反抗的だったのにねぇ。春雨もそう思うじゃろぅ?」
「……えっ?そ、そうですね。」
「……春雨?」


時雨は、現時点での作戦への心配だけでなく、春雨の態度の変化を気にしていた。


先日の神保とのやり取りの後、何度か提督室から出てくる春雨を目撃していたのだが
何かあったのかを聞いても、『なんでもないです』『大丈夫ですよ』
という返事しか返ってこない。
ただ、見かけた後は決まって暗い顔をしている事が多いのだ。


余計なお世話と分かっていても、可能な限り力になりたい。
僚艦、ましてや姉妹艦であれば尚更だ。


「春雨、何か心配事でもあるの?」
「いえ、別にないですよ。さ、また怒られないうちに戻りましょう!」


春雨はそう言って先頭に立ち歩き始めたが、その背中を見た時雨には
『直ぐにでもここから立ち去りたい』
そう言っているように思えた。


 


次の日、神保は6名の艦娘に召集をかけていた。
集められたメンバーは時雨・春雨・白露・浦風・暁・電の6名、全て駆逐艦である。


「みんな、ご苦労。今日集まってもらったのは他でもない。昨日、近海にて
新たに敵の侵攻が確認された。
お前たちには、敵がどこへ向かうのかを調査してもらいたい。」
「それで、敵の編成は分かっているの?」
「……。昨日の段階では軽巡を中心とした水雷戦隊の他、戦艦及び軽空母も確認されている。」


敵の編成を聞いた瞬間、一同がざわめき始める中、
真っ先に浦風が不満交じりの声色で神保へ問い掛ける。


「ちょ、ちょお待って!その勢力相手に出撃するのはうちら駆逐艦のみって事?」
「……そうだ。」


「……何かの冗談よね?そうじゃないなら、うちらに死んでくれ言いよるの?」


怒気をはらんだ浦風の問いにも顔色を変えず、神保は非情とも言える宣告をする。
「冗談ではない。出撃するのはお前たち6名だけだ」


神保の答えに対し、尚も食い下がろうとする浦風を手で制しつつ、
時雨が改めて神保へ問い掛ける。


「提督、これは浦風だけじゃなく皆が同じ様に思っていると思うよ。
勿論僕も含めてね。
何か理由があるんじゃないのかい?」


時雨は、努めて冷静に神保へ問い掛ける。
しかし一呼吸を置いた後に、神保から返ってきた言葉は冷たいものだった。


「これは作戦である!お前たちの意見は聞いていない。
作戦開始は明日、旗艦は時雨だ。お前たちの奮闘を期待する。
以上、解散!」
 


あまりに一方的に伝えられ、ただただ呆然とするしかなかった一同であったが
これ以上は無駄と悟り、各々が提督室を出て行った。


「あ、あの、司令官さん!」
「よしなよ春雨。もう、何を言っても無駄だよ。」


そう言って春雨を宥めながらも、時雨の心の中では葛藤があった。


先日の戦闘の後、掛けてくれた言葉はなんだったのか?
ただの気まぐれ?


いや違う、違うと思いたい。
でも、そこまで信用に足る人間なのか?


もしかすると今回の事は、何か理由があるのかもしれない。
でも言えない理由って何?


そんな風に様々な思いを頭に巡らせながら、時雨は改めて神保に問い掛けた。


「提督。今回の作戦、かなり難しいかもしれないけど
『お前たちならやれる』そう思って編成したんだと、勝手に解釈するよ。
そして、旗艦としての努めは果たすよ。」


そう言って時雨は敬礼をし、神保の返答を待たずに春雨を連れて提督室を出て行った。
 


 


作戦開始当日


天候は晴れ間は見えるものの、今にも泣き出しそうな空が広がっていた。


各々が出撃準備に取り掛かる中、時雨も同様に自室にていつもの
ルーチンワークを行っていた。


「身だしなみは……うん、大丈夫。表情も……大丈夫っと。」


そして大きく深呼吸をした後、両手で軽く頬を叩き、部屋を出る。


「よし。時雨、行くよ!」


 


~提督室内~


「お?時雨たちは無事、出撃したみたいやね。ちょ~っち空模様が気になるけどなぁ。」
「……そうか。」
「……なぁ、提督。ホンマにこれでよかったんか?」


少し不安げな表情の龍驤が神保に問い掛けるも、海を見つめたまま、
返事は返ってこなかった。


 


 


「白露、浦風!何か異常はないかい?」


「今の所は何にもないよ。静かなものじゃ。」
「こっちも異常なし!見てなさいよ~。いっちばんに見つけてやるんだから!」
 


鎮守府を出てから暫く探索を続けていたが、報告にあったような
敵の侵攻は見受けられなかった。
「先日の例もあるし、油断は禁物だよ。でも、少し範囲を広げてみよう。
陣形は複縦陣で、各自索敵宜しく!」


「『『『了解』』』」
 


『さて、鬼が出るか蛇が出るか。天候が少し気になるけど……』


今後の展開を模索していると、後方にいた浦風から敵機発見の報告を受ける。


「左舷上空!敵戦闘機多数……って、この数はちいっとばかしまずいよ、時雨。」


報告があった上空を見上げると、20機以上の敵戦闘機が
こちらに向かってくるのが見える。
時雨はすぐさま指示を出し、体制を整える。


「みんな、陣形を輪形陣に変更して対空射撃用意!電は鎮守府に報告を!」
「はい、なのです!」


「あ~もぅ!いちばんに見つけられなかったぁ~」
「そんな事言ってる場合じゃないよ、白露!
でも、いちばんの撃墜数、期待してるよ!」
「お?期待されちゃった?それじゃあ、お姉ちゃん頑張っちゃうよ~!」


『『ちょろい(わ)のです』』


「いくよ!撃ち方・・・はじめっ!」


時雨の声に合わせて、各々が空へ向けて攻撃を開始した。

×

非ログインユーザーとして返信する