おっさん提督の艦これ日誌

艦これメインで、趣味を綴る日誌

おっさん提督のチラシの裏⑩

~forget me not~






10.【不穏】


昨日の戦闘があった翌日、時雨・浦風・電の三人は、詳細を報告する為、
提督室へ向かい、部屋の前まで来たものの、中々入れずにいた。


結果的に全員が無事帰還は出来たが、自身の独断で損傷を受けた為
時雨は、何かしらの叱責を受けるだろうと思っていたからだ。


「はぁ……。」
「なーにを深い溜息をついとるのよ。自業自得じゃろうに。」
「まぁ、そうなんだけどさ。」


分っている。


確かに想定外の戦闘で、しかも戦艦が二隻もいたのだ。
でも、もっと上手く立ち回れたのでは無いか?
もっと自分に力があれば。
と、様々なタラレバを一晩中自問自答していた。


「昨日の事は、時雨ちゃんだけのせいでは無いのです!
それを言ったら、私がもっと早く気付いていれば……」
「あ~っ、もう!あんたがいつまでもうじうじしとるけぇ、
電にも伝染ってしもうたじゃろうが!
もう過ぎた事なんじゃけぇ、切り替えようよ!」
 


時雨と浦風、それに電の三人はほぼ同時期に鎮守府に着任した縁もあり
任務も含め、比較的一緒にいる事が多い。


真面目な長女の時雨、大人しくて後ろからついて行く三女の電。
そして二人の間に入って、面倒見のいい次女の浦風、と言ったところか。


「もう分ったよ。じゃあ入るよ!」
そう言って時雨が提督室の扉をノックするよりも早く扉が開き、
中から龍驤が顔を出した。


「なんやなんや、騒々しいなぁ。こないな所でトリオ漫才か?」
「「「ちがうよ(わ)のです」」」


「はははっ!息もぴったりやなぁ。
まぁ、言い合いもたまにはえぇけど、程々しいや。」
「そんなん言うたってお母ちゃん……」
「誰がお母ちゃんやねん!って、ウチまで巻き込むなや、もう。
ほら、中で提督が待っとるで。」


そう龍驤に促され、三人は揃って提督室に入る。


「あれ?山城はいないの?」
「あぁ、山城には今、別の用事を頼んでいる。
龍驤は代理で秘書艦を頼んでいるところだ。」
「そう、なんだ。」


「では昨日の戦闘についての詳細を報告して貰おうか。」


そう促され、各々が報告を始めると、神保は黙ってその報告を聞いていた。


 


一通りの報告が終わった後、時雨が昨日の戦闘で覚えた違和感から
神保へ進言した。


「以上が昨日の戦闘報告だよ。たださっきも話したけど、あれだけの戦力が
近海に展開していると言う事は、敵の侵攻が進んでいる可能性が
あるんじゃ無いかと思う。」


「ふむ……確かに可能性としては高いかもな。
龍驤、その後偵察機からの連絡はあるか?」
「いや、特にはまだ入ってきてはないなぁ。念の為、索敵機を増やそか?」
「そう、だな……いや、増やさずそのまま継続してくれ。」
「了解や。ほなその旨、空母組に伝えとくわ。」
 


「さて、他に何か報告事項はあるか?無ければ戻っていいぞ。
あぁ、時雨は少し話があるから残ってくれ。」
 


あぁ、やっぱり来たか。
まぁ仕方ないか。命令違反って程じゃないけど、独断での行動が多いって
お小言を貰うのかな?


そんな風に考えていた時、電が慌てて口を開く。


「て、提督さん!待って欲しいのです!
今回の件は時雨ちゃんだけのせいではないのです。
だ、だから」


「さぁ~て、浦風と電の二人はウチと一緒に行こか。
昨日のご褒美に間宮で奢ったるさかい。」
龍驤が二人の背中を強引に押しながら、部屋を出ようとする。
「で、でも……」
「三人で待っとるから、お説教が終わったらあんたも来るんやで、時雨。」
電が何かを言いかけたが、龍驤が小声で『大丈夫や』と声を掛け、
提督室を出て行った。
 


三人が出ていった後、部屋に残された二人の間に、重苦しい雰囲気が漂い始める。


言い訳はしない。
処分は甘んじて受ける。


そう決意した目で、神保を見据えていた。


暫くすると、神保が椅子から立ち上がり、時雨に近づく。
そして時雨の直ぐ目の前で立ち止まり、手を上げた瞬間、
”殴られる”と思った時雨は、思わず目を瞑る。


しかし、神保の上げた手は予想に反し、時雨の頭に軽く乗せられただけだった。


「えっ?」


神保の予想外の行動に乗せられた手を払う事も忘れ、
ただただ神保を見上げるだけの時雨だったが、神保から発せられた言葉により
更に固まってしまう。


「……よく、頑張ったな。無事に帰ってきてくれて、有難う。」
 


『え?何?今提督は何て言ったの?
僕に対して”有難う”って言った?』


今の状況に頭が追いつかない時雨を見て、神保は戸惑いながらも声を掛ける。


「別に、私はお前を嫌っている訳ではないぞ。
私だってお前たちを褒める事だってある。
ただ、もう少し言う事を聞いてくれればとは思うがな。」


照れ隠しのつもりだろうか。
神保は制帽を深く被り直し、自身の椅子に戻る。


「確かに私は有能な上官ではないかもしれん。
お前たちに歯がゆい思いをさせている事は、分かっているつもりだ。
ただ、お前たちの事を全く考えていない訳じゃあない。
こうして、お前たちが無事帰ってこれる様にと思っている。
この事だけは紛れもない、私の本心だという事は分かって欲しい。」


思ってもいなかった言葉に、どう返事をしていいのか分からず
固まったままの時雨に、神保が声を掛ける。


「ん?どうした。私の話は終わりだ。早く間宮へ行って来い。」


未だ状況が整理できない時雨だったが、神保の声で我に返り言葉を返す。


「うん……提督、ごめん。今後は気をつけるようにするよ。」
「ん。頼むぞ。」
 


足早に提督室を後にし、間宮へ向かう最中、時雨は様々な思いを抱いていた。


自分はてっきり疎ましく思われているとばかり考えていた。
だから今日は、相応の叱責を受けるものとばかり思っていた矢先に
神保から掛けれられたのは労いの言葉。


『春雨が言っていたのは、こう言う事なのかな?』


ふと、先日聞いた姉妹艦からの言葉を思い出した。


自分の考えは間違いではないかもしれないけど、今後はもう少し
歩み寄る事も大事なのかもしれない。


『他には、色恋とか?』


いやいや。
やっぱり、それだけはない。ありえない。


『まぁでも、少しだけ考え方を変えてみようかな?』


そう思うだけで、少しだけ気持ちに余裕が生まれたような気がした時雨であった。


 


 


~数日後~


浦風、電、春雨の三名と共に哨戒任務に出ていた時雨は、
帰投後、報告の為に春雨を連れて提督室へ向かっていた。


「今回も何事も無く良かったですね、時雨姉さん。」
「うん、そうだね。でも、油断は出来ないから注意しないとね。」
「はい!分かってます。」


そう言うと、春雨は時雨を見つめながら笑みを浮かべている。


「ん?何?僕の顔に何かついてる?」
「いえいえ。ただ最近、時雨姉さんの笑顔が増えたなぁ~と思って。」
「そ、そうかな?別に普通だよ。」


確かにここ最近、浦風たちにもよく言われているような気がする。
別に意識している訳ではないけど。
先日の一件以来、気持ちに余裕が出てきたからなのかな?


「あれぇ~?もしかして、照れてます?でも、姉さんは元がいいんだから
笑っていた方がもっといいと思いますよ!」
「……姉をからかうもんじゃないよ。全く。」


春雨との他愛の無いやりとりをしながら歩いていると、軍人が数名、
提督室の方向から歩いてくるのが見えた。


『何だろう。何かあったのかな?』


そう思いつつも、軍人たちとのすれ違う際、春雨と共に脇に寄り敬礼をする。


すると、先頭を歩いていた軍人が春雨の前で止まり、
まるで値踏みをする様に凝視する。


「あ、あの……私に何か……」
「ふ~ん…おまえか、例の艦娘は。成~る程、確かに似ているな。」


そう言って、春雨の髪へ手を伸ばそうとした時、時雨は春雨を庇う様に前に出て
軍人へ問い掛ける。


「……彼女が何かしましたか?」
「何だお前は!」
取り巻きと思しき他の軍人が怒声を上げるが、声を上げた軍人を手で制し
嫌らしい笑みを浮かべながら答える。


「いや何、私もよく知っている髪の色だと思ってな。
別にとって喰おうという訳じゃない。
でも、その殺気は敵に向けるんだな。」


それだけ言うと、他の軍人を引き連れてその場を去っていった。
 


「なんだい、あれは!春雨、大丈夫?」
「は、はい。少し、怖かったですけど、姉さんが庇ってくれたので……」


すっかり怯えてしまった春雨を慰めながら、再び提督室へ足を向けるが、
先程軍人が発した言葉が少しだけ引っかかっていた。


『知っている髪の色……確かに春雨の髪色は珍しいほうだとは思うけど……
一度、提督にも聞いてみた方が良さそうかな?』


そんな事を考えつつも、目的の提督室の前に到着し、ノックをして部屋へ入る。


「提督?哨戒任務の報告に来たんだけど、いいかな?」
「あ、あぁ。ご苦労。」


そう返事は返ってきたものの、表情は暗く、どこか上の空である。


察するに先程の軍人の件が少なからず関係している事は、容易に想像出来た。


「提督、さっき数人の軍人と会ったんだけど、何かあったの?」
「……。いや、別に何も無い。」


それじゃあ、何かあったと言っているようなものじゃないか。
あからさまにそれと分かる態度を見て、問いただそうかと考えたが
春雨の手前、この場は努めて柔らかい物言いをする事にした。


「何も無いならいいんだけど。
でも、話してくれなきゃ分からない事もあるんだからね。」


そう言って、神保から言葉を引き出そうとするも、神保の口は堅く閉ざされたまま。


「それと、春雨の髪色の事を」
「時雨!その話はやめろ!!」


先程の軍人との話をしようとした所、机の上で俯いたままではあるが、
神保の大声によって遮られる。


「……。大声を出してすまない。
少し、一人にしてくれないか。」


「し、司令官さん……」
春雨が神保に何か声を掛けようとしていたが、今はそっとしておいたほうがいい。
そう考えた時雨は、春雨を連れて提督室を後にした。
 


「時雨姉さん……司令官さんに、何かあったんでしょうか?」
「かも、しれないね。でも、提督が話してくれない限り、どうしようもないよ。」
「でも」
「大丈夫だよ。ちゃんと話してくれるのを待ってあげなよ。
提督の事を好きなら、ね。」
「!?っ、姉さんたら!!」


さっきのお返しとばかりに少しからかったら、顔を真っ赤にしながら怒ってしまった。


むくれた春雨を宥めながらも、時雨自身も心の中では不安に思っていた。
『でも提督。自分の上官の力になるのなら、協力したいとは思うよ。
だから、いつか話してくれるよね?』
 


 


~第二会議室内~


「ふぅ……」


話疲れたのだろう。
時雨は大きく息を吐いた後、手元のお茶に手を伸ばして、渇いた喉を潤す。


「少し休むかい?」
「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ。」


時雨が話してくれた内容は、以前夕張に聞いた事とほぼ同じではあったが
どうにも腑に落ちない点もあった。


それは今の話を聞く限り、神保提督と時雨の仲が聞いていた程悪くは思えないのだ。
むしろ途中からは、分かり合えてきたのではないかと思えた程だ。


そんな事を考えている時任の表情を読み取ったのか、時雨の方から話を振ってきた。


「多分これまでの話から、なんで神保提督との関係が悪いのかが分からないって
思ってるよね?」
「えっ?何で分かった?」
「分かるよ、そんな表情をしてたら。と、言うよりも今の流れでそう思ってないとしたら
ちょっと失望したかも。」
「お、おぅ。」


「そうなんだよ。この時、この日までは本当に信じられる人なんじゃないかと……
僕はそう思っていたんだ。
でも……」


そう言った後、時雨は暫く間を置いてから、再び話し始めた。
 


「あの日は忘れたくても忘れられない。本当に人間に、軍人に失望した一日だったよ。」

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